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    norte724

    お茶が好き

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    norte724

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    【エレン×ゴーシュの話】
    オツベルと象×セロ弾きのゴーシュのスプラ創作

    エレン×ゴーシュの話バンカラ街の片隅にある古ぼけた写真館は楽団の練習場所として生まれ変わった。街の発展と共に楽長がリフォームしたのだ。彼らにとって初めての演奏会に向けて厳しい練習が行われている。
    ゴーシュはチェロを弾く係だ。けれども楽団の中では一番下手でいつも楽長に叱られていた。
    「チェロが遅れたっ!ゴーシュくん!本番近いんだからしっかりしてくれなきゃ困るよ!ハイッ!もう一度!」
    ゴーシュは目に涙を溜めていたが、溢さないように必死になりながら練習を乗り切った。
    「では今日の練習はここまで」
    トランペット、クラリネット、バイオリンと楽団仲間は次々写真館から出ていった。チェロだけが、暗くなるまで自主練をしていた。
    ゴーシュは黒く大きな包みを背負いバンカラ街へ続く夜道をとぼとぼ歩いていた。再び涙がこみ上げてくる。誰かに見られたらと思うといても立ってもいられずゴーシュは足を早めた。
    駆け出した途端白く大きな何かにぶつかる。
    背の高いオクトリングだった。
    「っすみませ…」
    「お嬢さんどうしたの?ただごとじゃないねえ」
    童顔から発せられる低音のギャップにゴーシュは一瞬固まった。そんなことよりもお嬢さんと呼ばれた衝撃がゴーシュの肩を震わせた。
    センター分けの前下がりショートゲソにグレーとセピアのグラデインク、浅葱色の鋭い瞳、中性的な印象からゴーシュは楽団の中でボーイと間違われている。
    楽団のみんなは気づかないのにこの白いオクトリングはぶつかったほんの僅かな時間で見抜いてしまった。
    ゴーシュの背中にぞっと寒気が走る。
    「なんで分かったんだよ…」
    「ふふ~軽くて柔らかいからすぐ分かるよ~」
    「怖…キモ…」
    「むう、きみの方からぶつかってきたのに…ひどい言いようだ…」
    「…わ、悪かったよ…」
    童顔ノッポをよくよく見てみると、アイボリーのインク、ぱっちり開いた桃色の瞳、ふわふわした表情…天使と呼ばれても違和感がないような神秘的な雰囲気を漂わせていた。これでボーイだと言われても最初は疑わざるを得ないだろう。
    「あ、涙引っ込んだねえ」
    彼に気を取られてゴーシュは自分が泣いていたのをすっかり忘れていた。
    「あ、ありがと…」
    「ぼくエレンって言うんだあ」
    「……ゴーシュ」
    「バイト終わりの気分転換に散歩してたらすてきな音楽が聴こえてきたんだけど、もしかしてキミが?」
    「…聴き違いじゃない?下手だから楽長にずっと怒られっぱなしだし」
    「そうかなあ、ぼくはキミの演奏好きだよ。シャケが荒ぶってるみたいで」
    (初対面でぐいぐいくるこいつ…)
    ゴーシュがチェロを始めたのはω-3、アルギンの第一子、ヤキハラースが隠せし刀の影響だ。演奏をシャケの様だと褒められるのはこの上ない喜びだが、実力が足りていないゴーシュはまだ称賛を受け取れる立場ではないと思っていた。
    「そんなことよりお前、こんな時間までバイトしてたわけ?」
    バイトの話題で誤魔化そうとする。
    「まあねえ、ぼく働くのは大好きなんだ」
    「変わってるな…」
    「ねえ、ゴーシュさんの演奏、また聴きたいなあ」
    演奏の話題に戻されてしまいゴーシュは肩を落とす。
    「…別にいいけど」
    ゴーシュは黒い包みを開けてチェロを取り出した。バンカラ街のロビーへ繋がる階段に座り弓を構える。
    混沌とした夜の街にたったひとりのための音色が響き渡った。
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