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    norte724

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    norte724

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    心象スプレヰ(mental spray)
    カズラ&セタルep

    #心象スプレヰ

    #3 透明な幽霊 誰かが泣いている。
     誰かが、どこか遠い所から、俺に呼びかけている。
    「もうこれ以上、俺から奪わないでくれ」

       *

    ――セタルがハイカラシティを発ってから数日後
    「おお……!あいつに……カズラに生き写しじゃ……!」
     ソイとアワの祖父、ソラマはセタルの顔を見た途端、涙をこぼした。
    「そんなに似てますか?」
    「そりゃ似るじゃろう、血縁なんじゃから」
    「へへ……あ、それで、大ナワバリバトルの戦場跡地って……」
    「タコツボバレー、ナンタイ山、クレーター跡……いるとしたらこのあたりじゃな」
    「よし行こう!ソイのおじいちゃん!お兄ちゃんが絶対見つけるからな!」

       *

    ――大ナワバリバトル時代 戦場
    「アマリネ!何やってんだ!」
    「蛸は討伐すべき対象です!情けをかけるなんてありえない……!貴方が!優秀な貴方が!なぜ!」
    「やめろ!もうやめてくれ!」
     ソラマがアマリネを羽交い締めにする。
    「早く!早くどこか、遠い所へ……!」
     カズラは傷を負ったローレルを背負い、ふらふらと歩き出した。深まる霧が二人を覆い隠し、何も見えなくなった。

       *

    「カズラ、もういいよ」
     背中から伝わっていた熱が、段々と失われていく。
    「何でそんな事言うんだよ」
    「蛸軍がすぐ近くまで来てる。僕を背負ってたら、逃げ切れないよ」
    「お前を置いて行って何になるんだよ!」
     カズラの激昂を皮切りに、蛸の軍勢は次の攻撃対象を包囲するため動き出す。
     早く、早くどこか遠い所へ……
     そう思った矢先、カズラは足を止める。霧で覆われた視界の先は大きな川だった。流れが早く、そもそもインクリングは泳ぐ事ができない。もう、逃げ場所はどこにもなかった。
     オクタリアンの蛸壺機械から巨大な蛸足が飛び出す。呆然と立ち尽くすカズラの背からローレルを絡め取った。
     ローレルはカズラに向けて手を伸ばしていた。悲しげに微笑んだまま、蛸壺に飲み込まれていく。
    「あ……ああ……!」
     カズラの悲鳴は銃声でかき消された。
    (ただ、傍にいてほしかっただけなのに、皆俺を置いて去っていく)
     紫色のインクがカズラの全身を貫いた。
    (もうこれ以上、俺から奪わないでくれ)
     インクが弾ける音がした。
     ここに二人の烏賊がいたのを証明できる者は誰一人としていなかった。

       *

     抱きしめられる、という感覚を幽霊の姿で感じられる事にカズラは驚いていた。
    「やっと会えたな」
     自分によく似た声が優しく語りかけてくる。幽霊に体温なんて無いはずなのに、自分の中心が熱を帯びて、あたたかい。
    「一緒に帰ろう」
     透明な幽霊の透明な目から、透明な雫がこぼれ落ちた。
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    🎊「MDZSごはんを食べる企画展示Webオンリー」イベント開催おめでとうございます🎊

    【注意とごあいさつ】
    ・まだ知己ですが、そのうちR-18に突入
    ・アニメ/原作/cql履修済
    ・設定捏造してます、ふわっとお読みください
    江家の晩餐(含光君の恋文・番外編)江家の晩餐

     雲夢・蓮花塢の大広間にて。
     こじんまりと、静かな宴が行われていた。

     雲夢は国の中央に属する。辛・酸・甘、麻辣、清淡など、各地の味覚や製法を取り入れた独特の食文化が自慢だ。新鮮な山河の素材に薬膳効果のある山菜を加え、最大限のもてなしに厨房は大わらわ、春節のような賑わいだった。

     だがしかし。

    「……」
    「……」
    「……」

     春のすがすがしい夜風が流れる大広間では、少しも晴れやかでない男達が三人、円卓に向かって座していた。

     江宗主・江晩吟。
     この宴を用意させた本人だが、少しも客をもてなす様子がない。もてなすどころか、苦虫を嚙み潰したような表情で、無言のまま卓を睨んでいる。恐ろしくも美しかった紫蜘蛛・虞夫人を彷彿とさせるような形相だ。宗主の低気圧に慣れた家僕たちも身をすくめ、(なにか不備があったのでは)と互いの顔を見合わせている。
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