高諸小話 諸泉尊奈門は、そもそも、恋というものにたいして興味がなかった。
周りの早熟な子ども達は、幼い頃から誰が好きだの、誰と誰が好きあってるだのと話していたが、その輪に尊奈門は入らなかった。
それから少し成長する頃には父の一件から雑渡にかかりきりになり、更に成長した頃には、忍者としての修業に打ち込む毎日。
気付いたら周りはすっかり色恋沙汰にも慣れており、尊奈門はだいぶ出遅れていた。
けれど、そうと分かっても、やはり興味は湧かなかった。
どこそこの娘が美しい、誰それは良い男だと言われれば、なるほど美しいと納得する程度の審美眼は持っている。が、好意には発展しない。
その原因の一つに、高坂陣内左衛門の存在があった。
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