かくれんぼ酒の勢いで思い出した、遠く儚いあの頃の記憶。儂の妻・岩子は幽霊族でありながら人間を深く愛しておった。人間は恐ろしい。自分達の命、そしてご先祖の命までも奪おうとする傲慢で強欲な生き物。なのに岩子はそれをまるで道端に生えている花や草のように優しく優しく愛でていた。儂には到底分からないこと。夫と妻という関係になってからもそれは変わらなかった。
「ねぇ あなた
今日は雨だそうですよ」
「むう そのようじゃのう」
「ふふ 猫ちゃんが来てくれないのはそんなに寂しい?」
「ふむ ちぃとな」
とつまらなそうに猫じゃらしをヒラヒラさせるゲゲ郎。親指と人差し指で挟めてしまいそうな薄い唇を突き出してシトシト振る雨を見つめ、ついには肘枕をついて完全に暇をもて余していた。大きな体をしているのにどうしてこうも子供らしさが抜けないのだろう、この人は。そんな事を考えながらちゃぶ台にあるせんべいにかぶりつく岩子。するとその音に釣られてゲゲ郎が這いつくばりながら此方へ向かってきて、一体何を食べているのかを問う。おせんべいというのよあなた、と教えてあげると目をくりくりさせて赤い瞳がキラキラ輝いた。岩子はもう一口せんべいを口にして、これかもしれないと確信した。
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