一等星の夜に咲く 夏の夜は、案外冷たい。肌にまとわりつく生ぬるい風や、息を吸う度に肺を満たす空気は重たかった。
窓が開けられた電車はいつも通りのスピードで走行し、揺れるたびに隣の人と肩がぶつかりそうになる。近くにいる甚平を着た子供が勢いよく膝に直撃し、少し前のめりになった。
「うおっ。大丈夫か?」
「う、うん……お兄ちゃん、ごめんなさい」
「気にすんな。人が多いんだし、怪我しないように気をつけろよー?」
小さく頷いた子供の頭を撫でてから、視線を上に向ける。車内の電光パネルに表示された時間は約束していた数字を過ぎていた。パトロール中に遭遇した予想外のサブスタンスの後処理に追われてしまい、参加が遅れている。同じセクターのルーキーであるウィルは弟と妹から先にお誘いを受け、午後は休みになっていた。
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