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    SF_AZ_AR

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    ないしょのごはん

    お隣りの星に恋してにてWeb展示していた小説です
    夜に目が覚めたセイジとニコの話

    ないしょのごはん 低く唸るような轟音が頭の片隅で響いて、ふと目を覚ました。しんと静まり返った部屋の空気は冷たく、隣にあるぬくもりだけは変わらずそこにあって安心する。はっきりとしない意識の中、ベッドサイドに手を伸ばしてスマホと手に取った。
    「……あれ、まだ三時だ」
     ブルーライトに目を細め、瞬きを繰り返す。少し経ってからまた同じ音がして、ようやく隣から聞こえていたことに気づいた。
     視線を向ければすやすやと心地よさそうな寝息を立てている。気づかれないように部屋のオレンジライトにつければ、口をもごもご動かして眠る恋人の姿があった。
    「ふふ、気持ちよさそうに寝てる」
    「ん……オムレツ……」
     幸せそうな声音に自然と頬が緩む。薄明かりの中で寝顔を見つめていると、軽く寝返りを打った。小柄な身体を少し丸めて毛布を手繰り寄せている。うっすらと首筋に浮かぶ斑点を見て罪悪感のような、高揚感のような何とも言えない気持ちが胸を締めた。
     昨夜は久しぶりに時間が合って、自然とそういう雰囲気になって。付き合い始めてから何度も経験しているはずなのに、慣れることはなく。むしろ、その度に新しい発見だとか愛おしさが増していく。
     よかったとか浸っているけれど、絶えず聞こえている音の原因は少なからず自分にもあるとようやく気づき、ベッドから上体を起こす。そう、言うまでもなく盛り上がってしまったから。ニコが可愛かったとか、でもかっこよかったとか色々な気持ちがぐるぐると巡る。
     頭の中でまだ残っているであろう食材を思い返し、そっとベッドから出ていく。もう一度寝返りを打った恋人が、無くしものを探すように先程までいた場所を手のひらで撫でては顔を顰める。やっぱり可愛くて素直だ。
    「待っててね、ニコ」
     小さく呟いて、おでこに口づけを落とす。離れるのは名残惜しいけれど、無理をさせてしまったかもしれないからとせめてもの償いだ。
     布団をかけ直してから適当な上着を取ってキッチンへと向かう。小さな同居人にもバレないように細心の注意を払ってゆっくり歩く。
     キッチンの明かりをつけて、冷蔵庫を開けた。色とりどりな野菜と卵が少し残っている。適当なスープくらいがきっとちょうどいい。
     引っ越してきたばかりに購入した鍋を取り出して水をたっぷり入れる。それから調味料をいくつか準備しておいて、鍋を温めながら野菜を切り始めた。普段から作ってもらってばかりだから、たまにはこういうのもいいなんて思いながらさくさくと調理を進めていく。
     気分が良くなってきて自然と鼻歌が溢れた。なんだか悪いことをしているみたいで、心なしかワクワクしてくる。
     温まるのに時間がかかる野菜から鍋に放り込んで、あとは煮えるのを待つだけだ。最後に溶いた卵を入れてからニコを起こしにいくのがちょうどいい。
    「……セイジ?」
    「!? ニ、ニコ!?」
     うしろから突然声が聞こえて、思わず動揺してしまう。すぐに振り向けば、まだ眠たさを残した顔の恋人がそこに立っていた。
    「しー。リヒトが起きる」
    「ご、ごめん。うしろにいたんだ……全然気づかなかった」
    「うん。セイジが鼻歌うたってたくらいから」
     こくりと頷いて、そのまま背中にくっつかれる。寝ていたせいか、いつもより少しだけ体温が高くてじんわりとした熱を感じた。頭をうなじのあたりに擦り付けられて身を捩る。
    「ニコ、くすぐったいよ」
    「んー……」
     はっきりとしない返事はまだ眠たい証拠で、甘えられているのだと気づきそのままにしておく。
     すっかり慣れてしまった体温も、掠れた声も、全部最近になって知ったことだ。
     まだ同じ部屋で寝起きを共にしていた頃は先に起きていることが多く、警戒心も強かった。慣れてきてから寝顔を見ることはあったけれど、それもほんの数分だけ。すぐに目を覚ましてしまう。なんでも実家にいた頃の癖らしく、いつでも目覚められるらしい。
     今ではすっかり気を許され、甘えてくるようにまでなった。するりと腹のあたりに腕を回され、同じシャンプーの香りが漂って胸のうちがくすぐられる。どろりとした感情には蓋をして、くるくると意味もなくおたまをかき混ぜた。
    「スープ作ってるのか?」
    「ニコ、お腹空いてるかと思って。適当に野菜入れたものだから、ちゃんとした料理って感じじゃないんだけど」
    「食べれるなら料理。いただきます」
    「えっ、まだ煮込んでる途中だか……らっ!?」
     ぱくりとうなじに噛みつかれ、思わず硬直してしまう。ざらざらとした舌先が肌をなぞり、手のひらからおたまが落ちていった。
     まだほんの少しだけ残る熱を思い出しそうで、ぎゅっと目を瞑る。食べたのは僕のほうなのに、まるでこれから捕食されるみたいだなんて考えが頭をよぎった。
    「……セイジだ」
    「お、お腹空いてるんだよね、もうちょっとでできるから……」
    「わかった。……お腹空いた」
     いつもに増して大きな音になんとかやましい気持ちがかき消されて、ほっと胸を撫で下ろす。
     マイペースな恋人には驚かされることが多く、退屈をしたことがない。楽しいけれど少しひやひやしてしまうとは確かで。ぐつぐつ煮え立つ鍋に視線を落とした。
    「ニコに食べられるのかと思ったよ」
    「? おれがセイジを食べるより、セイジがおれを食べたの間違いだろ」
    「あ、あはは……そうだね」
     同じことを思っていたみたいで気恥ずかしさで居た堪れなくなる。ストレートな言葉は心地いいけれど、胸をざわつかせてしまう。背中越しに伝わる熱に心臓はずっと音を立て、小さく深呼吸をした。意識してばかりでは気が持たない。
     少しだけ落ち着いて息を吐く。それからおたまを手に取って、野菜がくたくたになっているのを確認した。
    「あとは卵入れたら完成だよ。ニコは座って待ってて」
    「いい、皿準備する」
    「ありがとう。あ、全部ニコの分だからひとつで大丈夫」
     溶き卵をかけ入れて、少し固まるのを待つ。それからゆっくりかき回せば、スープの海をゆらゆらと泳いでいた。
    「……! 全部食べていいの?」
    「ニコのために作ったから」
    「ありがとう。残さず食べる」
     眠気が少しずつ消えていったのか、軽い足取りで大きめのスープボウルを手に持って隣へやってくる。おたまですくい、たっぷりめによそう。適当な飲み物を冷蔵庫から取り出し、グラスに注いてからテーブルにふたりで移動する。
     正面には食べ物のことで頭がいっぱいになっているなんとも愛らしい恋人がスプーンを握っていた。
    「いただきます」
     おいしそうに頬張る姿が微笑ましくて、いつまでも眺めていたくなる。普段の会話をしている時間も好きだけれど、ご飯の時間は優しい沈黙が続いて好きだ。ちらちらと覗く首元に浮かんだ赤い跡はどうにもアンバランスで苦笑いしてしまう。
     お茶を飲みながら見つめていると、ふと視線が交じり合った。
    「リヒトにはいいのか?」
    「ああ……うん。こんな時間に起こすのも悪いし、僕とニコの内緒のご飯だよ」
    「セイジ、悪い子だ」
    「ニコがそういうこと言うの意外だね」
    「昔、ビアンキに教わった。ルーキーだった頃に同じことしたら言われた」
     なんてことのないように話し、またスープを黙々と食べ始めた。なくなれば残りを全部よそってまた食べる。
     少しずつ思い出を重ねて、一緒に生活をしているんだと改めて感じた。出会ったばかりの頃はつかみどころがないように思えたけれど、案外そんなことはなく。素直で優しくて、時々鋭い。でも、居心地のいい相手だと思う。毎日同じベッドで寝ているわけではないし、食事だってできない日も続くこともある。けれど、こうして同じを重ねられるのはきっと幸福なことだ。
    「……なに?」
     ゆっくりと顔をあげた淡黄の瞳に捉えられ、目を細める。それから口元を指先で拭い、じっと見つめ返す。
    「ニコのこと好きだなって思ってた」
    「そう」
     短い返事をしたあと、最後のひとくちをぱくりと食べてから咀嚼する。たくさん食べるけれど、いつも綺麗に全て平らげてしまうから、見ていて気分がいい。食器を片付けようと手を伸ばせば、少し距離を詰められた。
    「おれもセイジが好き。ごちそうさま」
     飾らない言葉は胸のうちが温かくなって、くすぐったい。先にキッチンへ向かう背中を慌てて追いかけ、隣へ並ぶ。いつも通りあまり変わらない表情だけど、少しだけ耳が赤くなっていることに気づいて愛おしさが増していく。
    「ねぇ、ニコ。僕たち悪い子だね」
    「うん。そうだな」
     かちゃかちゃと音を立てながら、食器と鍋を洗い流す。それを受け取って、ふきんで拭く。夜中に悪いことをしたはずなのに、気分は高揚していくばかりだった。
    「ふぁ……」
     小さなあくびが出て、まだ日が登りきっていない外を見つめる。起きるには早く、眠るには微妙だ。どうしようかと考えを巡らせていると、食器を拭き終わった手を引かれた。
    「もう少し寝よう。今日のパトロールはそんなに早くないだろ」
    「うん、そうしようかな。まだ寒いね」
    「おれはスープのおかげであったかい」
    「そっか。よかった」
    「でも、いっぱい食べたら眠くなってきた。部屋に戻るのめんどくさい」
    「すぐ戻れるから。ちょっとだけ頑張ろうよ、ニコ」
    「うーん……」
     瞼を擦っている恋人の手を握り直して、ベッドへ戻る。素直で、案外わかりやすい姿に胸が温かくなっていく。
     二度寝も悪い子みたいだと心の中で呟きながら、心地のいい微睡へ足を進めるのだった。
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