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    iguchi69

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    ジョ双SSチャレンジ 2/7
    まだ付き合ってないジョそ アニメボロ家時空

    停電/冷えた指先/イルミネーション/ケーキ「まったく、どうなっとるんじゃこのボロ家は!」
    「暴れんじゃねぇ。埃が舞っ……ガハッ!」
    「チッ……」

    暗闇の中でも真っ白なティッシュは慣れ始めた視界によく目立った。双循は1枚を引き抜いてジョウに渡す。
    「ん、わり」と受け取る顔は尾の炎が作り出す逆光の所為でよく見えない。申し訳なさそうにしていても、当然だというように飄々としていても腹が立つことに変わりはないので構わなかった。それよりも、不可抗力とはいえ分け合っている毛布に血を付けられる方がずっと気分が悪い。

    Shibuvalleyの片隅にある安アパートが突然の停電に見舞われたのは1時間ほど前のことだ。前触れなく訪れた漆黒に身構え、コートの隠しポケットに手を突っ込んで警戒態勢をとっていたのははじめの10分だけで、ただでさえ寒い12月に唯一の暖房器具であるホットカーペットの暖を奪われた双循はユーダス校長へ電話とメールをする以外はこうして仕方なく薄い毛布に包まって大人しくしている。

    これが地区一帯のことであれば他にやりようもあっただろう。しかし、カーテンもないすりガラス窓の向こうにはイルミネーションの光が滲んでいる。楽し気な人々の笑い声は、この現象があばら家同然の木造アパートでのみ起こっていることの証拠に他ならなかった。
    隣に住んでいる幼い兄弟のことが気がかりだったが、あの感情豊かな末っ子が大人でも怯むほどの闇に黙っていられる筈はない。きっと出かけているのだろうと類推する。兄の友人にでも連れられて、暖かい場所で兄弟揃って楽しく過ごしていてほしかった。なにせ世間はクリスマスなのだ。

    そのクリスマスに、一体全体なぜこんな目にあっているのか。
    双循はかじかむほどに冷えた指先を擦り合わせる。退学回避のためとはいえこんなウサギ小屋に住んでいることも気に入らないのに、よりによってクソ不死鳥と二人きりの時に停電に遭うとは。一人ならばとっとと出かけてどこかのホテルか個室のあるレストランにでも駆け込んだ。しかし、ジョウがいてはそれも難しい。せめてヤスかハッチンがいれば。
    後輩二人は今日1日ヤスの生家である弁当屋でテリヤキレッグ弁当を販売している。双循は夕方数時間の用事のために弁当屋の手伝いを断ったことを少しだけ後悔した。

    ハッチンがいれば揶揄って暇つぶしができた。ヤスがいれば、ガスは生きているのだから暖かい何かを作らせたのに。
    溜息をつけば白い靄が空に舞う。外よりも寒いんじゃないだろうか。ユーダス校長へは相変わらず連絡が付かない。与えられた居住の責任者を双循は知らず、ただ着信履歴のカッコの中の数字だけが虚しく増えていった。

    「あ」
    「あ?」
    何かを思い出したようにジョウが立ち上がる。毛布に隙間が出来て冷たい空気が入ったことに双循は声を荒げた。
    「冷蔵庫の中もダメになっちまうよな」
    そう言って数歩しか離れていない台所へと向かっていく。双循はその隙に毛布を巻き付けることに成功した。通電していない冷蔵庫が開く音は鈍い。中には灯りもなく、ジョウが何をしているのかはわからない。
    駄目になるも何も、その日暮らしで貧しい食生活を送っているこの部屋には傷んで困るようなものはそうない筈だ。尤も、双循よりも数十分後に帰宅したジョウが何かを入れた可能性も否定はできないが。カチャカチャと食器の音が聞こえる。

    どうせ粥かなんかじゃろ。ジョウとはとかく食の好みが合わない。双循は台所の物音について無関心を貫く。だから、目の前に置かれた白い物体には柄にもなく驚いてしまった。

    「バイト先でもらったんだけどよ、一切れだけだからどうしようかと思ってたんだ」
    皿の上には丸太を模した小ぶりのロールケーキがあった。端にはフォークが2本添えられている。
    「このままじゃ溶けちまうし……あいつらには内緒だな」

    流石に慣れてきた目がジョウの笑みを捉える。いたずらっぽいはにかみには『甘党や食いしん坊の後輩をさしおいて年長者ふたりでケーキを独占すること』への共犯の誘いが見えた。

    この寒さでは数時間放置したところでクリームは溶けたりしないだろう。味もそうは劣化しないだろうし、あと1時間もすればヤスとハッチンが戻ってくる。あの気の利く母親が何も持たせない筈はなく、夕食の後で4分割するのが最善のように思えた。けれど、双循は甘い誘いを手に取る。

    「おい、独り占めすんな。寄越せよ」と布を引く手に抵抗せずに巻き取っていた毛布を黙って明け渡してやるのは、借りをそのままにしておきたくないからに他ならない。
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