雪見風呂/道端の雪だるまor雪うさぎ/初雪/ホットドリンク「いいよな、こういうの」
白い靄越しにジョウが言う。人よりもずっと高い体温が冬に吐く息は真っ白で、その先の表情は伺えない。一人ごとのようにぽつりとこぼされた言葉は弾んでも、上ずってもいなかった。
何が”ええ”んじゃ、主語を言わんかい。気を抜けば聞き逃してしまう、そしてそうなっても何も言わないだろう呟きを拾ってやる義理はなかったが、双循はジョウの手の中を覗き込んだ。つい先ほど駅前で手渡されたチラシの中ではタオルを巻いた男女のミューモンが露店で雪見風呂としゃれこんでいる。蛍光イエローで縁取られた『秘境の湯1泊2日 29,800サウンドルぽっきりご奉仕!』の文字が目にうるさい。背景に紛れるようにゼロの後に添えられた「~」の字に双循は眼を眇める。
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