SS唇に触れる相手の吐息が、かすかに肌を撫でた。
ストラスの肩が無意識に跳ねる。どっ、と心臓が騒ぎ始めると、急に恐ろしくなって目を伏せた。目の端に一瞬捉えた、ブリッツの濡れた唇。
浅ましく喉が動くのを感じてストラスはそっと目を閉じた。
見える世界を閉ざし、自分の世界に篭っても、底知れぬ欲望がふつふつと湧いてくる。
(もっと……もっと彼に触れたい)
しかし願えば願うほど、身体は金縛りにあったように硬直してしまう。
そして胸を過ぎるのは──。
(私は──私はまた……ブリッツに無理強いさせているんじゃないか)
浮かんだ想いが、鋭い針のように胸を刺した。
彼に、権力や地位を振りかざしたつもりはない。しかしそれは力を持つ悪魔が言っても何の説得力もない。
それでも約束や義務ではなく、ブリッツの意思で傍にいて欲しい──そう願わずにはいられない。
(自分の傲慢さがつくづく嫌になる)
真っ暗な世界でストラスはため息をついた。
ふいに何かが動く気配がする。頬に触れる湿った手の感触。気づけばブリッツの顔が間近に迫っていた。
息を呑んだ次の瞬間。
目を開くよりも早く、深いキスの感覚がすべてを飲み込んだ。
「ん」
触れるだけではない、奪われるような温もりに引きずり込まれる。離すのを許さない力強さと、絡みつく他人の舌の柔らかさ。
手が自然とブリッツの背中に縋りついた瞬間、嵐のようなキスが少し穏やかになった。ちゅっと可愛げな音を立て、時折、啄むような触れ合いが増える。その擽ったさに、ストラスは小さく笑い身体をよじる。ブリッツは逃がさないと言わんばかりに、両手でストラスの頬を掴んだ。穏やかな表情を浮かべ、頬やおでこに、たくさんのキスを落としていく。
「ふふっ、ブリッツィ。くすぐったい」
「うるせぇ」
乱暴な返事だったが、声は酷く甘い。
唇が優しく肌を滑り、ストラスの嘴を啄む。目が合ったふたりは何も言わずに、ゆっくり瞳を閉じると、再び唇に甘い感触が落ちてきた。
狂おしいほどの喜びがストラスを包む。背中に回した手に力を込めると、それが正解だと言わんばかりに、穏やかで優しいキスが深く、深くなっていく。
「ふっ、ん」
「っ、」
零れる息がどんどん熱を帯びた。触れた箇所から蕩けて一つになっていく感覚。ブリッツの手がストラス頬を撫で、流れるように優しく髪を掻き分ける。子供のように頭を撫でられ、ストラスから、ふっと緊張が抜ける。
(気持ちいい)
心を繋ぐような触れ合いと優しいキス。しかしそれは互いの舌が触れた瞬間、シャボン玉が弾けるように、熱を産む。
「っ、ん……ぁ」
灯った火を燃やすように、舌をを絡める。互いの息を交換し、唾液が頬を伝ってもキスは止まなかった。
「はっ」
ブリッツが息をつく。少し離れた唇が真っ赤に染まっていた。
(イヤだ……離れたくない……)
ストラスはブリッツを引き寄せるように抱きしめると、噛み付くようなキスを仕掛けた。
一瞬目が開いたブリッツは愛おしげに目を細め、ストラスのキスを享受する。そして二人はしばらく、蕩けるようなキスを続けた。