ごほうび「凪! 迎えに来た」
真夜中だった。頭上に月が出ていて、もう俺は眠たくって欠伸していたのだけれど、あいつの声でハッと目がさめてしまっていた。
真夜中に、玲王が会いに来てくれた。たったひとりで。どうせすぐ近くにSPがいるやもしれないと思っても、名前を呼ばれると全部なかったことになる。
「ずっと待ってたのか? そんなところで」
自室の窓で頬杖ついて、玲王の言う通り、俺はずっとこの瞬間を待っていた。たぶん来ないだろうな、サッカー関係ないし。一時間前から何度も思ったことが、あっという間に覆されていた。
だってあの御影玲王が、俺に会いに来た。
「レオ、こんな夜中に外出ていいの?」
「ったくお前が“連れ出して”って言ったんだろうに……。行くぞ、凪。起きてたご褒美に、とびきりのもの用意してあるから」
ご褒美で釣られようなんて思うな。生理的に出てきたあくびを噛み殺し、俺は玲王を見下ろして、
「ご褒美って? どこ行くのさ」
と、面倒くさいけど聞いた。
聞かれた玲王は明るく両手を上げて、「うるせえやつ!」と元気に言う。
「行き先はレオ・シークレットプレイス」
(ださ……)
「ご褒美は、車の中で用意してる」
「言えないの?」
「言ってほしいのか?」
はやく来いよ、と言われて、俺はもう立ち上がっていた。仕方ないなぁとか、面倒くさいよとか、眠いとか独り言をこぼしながら、「チョキ行ってきます」とだけ言う。これから明日の朝まで帰らないから。
「やっと来た」
玄関の鍵を締め終えた俺に、玲王が歩いてくる。俺よりすこし目線が下の男。きらきらした目が月より眩しくて目を細めていると、勢いよくその光が迫ってきて、やわらかい感触がした。
「ご褒美その1な」
「続きは?」
「車で」
これで、俺達って付き合ってないんだよな。
玲王は俺になんでもくれる。
献身も、ご褒美も、唇も、
(切)