すきな顔好きな顔
「お前って本当にカワイイやつだよな」
一瞬、馬鹿にされてるのかと思った。ソファに寝転がってダラダラしていたら玲王に見下され、言われた台詞がコレだったので、凪は「んにゃ?」と呑気に視線を上げた。
「俺のことカワイイって言うの、ほんと玲王だけだと思う」
「ンなことないだろ。俺が選んだやつがかわいくないわけがない」
「モンペみたい……」
「だったら凪を認めないやつは全員捻り潰してやらないとダメだな」
くふくふ笑って、玲王は目を据わらせた。これは真剣なことを言う時の表情である。黙ってないと後が面倒で、凪はふぅんとうなずいた。
物わかりの良さは凪の得意分野である。
「で、カワイイの話」
「カワイイ……」
「ははっ。別に女子高生じゃあるまいし、カワイイ定義をしたいんじゃねーよ」
玲王は指先を伸ばして、凪の前髪をくるくるいじりだす。花の茎を摘むみたいで、王子様がお姫様にプレゼントする場面を思わせる。
「俺の声でふっと視線向けてくれるとことか」
「ん」
「ゲームしてんのに返事してくれんだ〜、とか」
「まぁ」
「あとちょっと眠いのかなって半目になってっとことか」
「眠いしね……」
「眠いのに俺のこと待っててたのか?」
「待ってなーい……ってか玲王が戻ってくるって言ったんじゃん。今日は千切たちの方行かないの?」
最近の玲王は、千切や別のストライカーと試合練習する機会が増えた。眠気に身を任せてゆっくりな口調になりながら、クエッションを問うてみる。
「今日はな、約束してないし」
「ふぅん」
「でも約束してても今日は断ってた」
「なんで?」
「凪、拗ねてるから」
「えっ」
ここでスマホを胸板に落とした凪は、視線をそらせないまま硬直した。ぴし、と石化の擬音が聞こえるぐらい動かなくなっている凪に、玲王は心底愛おしいという顔をした。
ギュッと眉を寄せて、歯を見せる笑みの仕方。気づいて、凪の胸は鷲掴みになった。
「夜過ごせなくて悪い。……会いたかった?」
──玲王は、凪の恋人である。
凪の好きな男。
だから見つめられたらドキドキするし、触れてもらえるのかと思えば期待する。
なのにココずっとお預けで態度も余裕ぶられて、凪の精神は穏やかではなかった。
……はずである。
「ボス」
「ん?」
「……俺、ちゃんと待ってたよ」
「えらいな、凪」
「うん」
「えらい」
「あーそうじゃなくって」
凪は大の字になって、白旗をあげた。
「もっと甘やかして」
「ん。なあぎ」
声が上擦られる。これはどういう時だったか、凪は知っている。
玲王の指先が、頬をすべった。
「もっと、俺に身ぃ任せてれば良いよ」
彼が恋人の顔をしている。
やっと一等好きなやつが帰ってきて、凪は嬉しく甘やかされることにした。
(切)