⑧Bルート
★:KP情報
◎:読み上げ描写
△:描写とは別に渡すべきPL情報(探索場所、必要な技能の提示など)
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032.夜の自由時間
★探索技能で失敗したところを再チャレンジしてもいいし、探索者のやりたいことをやっていい。
望むなら翠、アルト、ホタルとも話ができる。
就寝したあと、HO別に夢を見る。
HO1◎燃えている。
空が、地上が、世界すべてが、燃えている。
そういえば、負けたのだった。
できるだけのことを尽くし、足搔き切った末に、負けたのだ。
何が足りなかったのかも分からない。
どうすればよかったのかも分からない。
最初から勝ち目なんて、なかったのかもしれない。
一矢報いることすらできないのか。
悔しい。
何も成せなかったことが、悔しくてたまらない。
ろくに身体も動かせずにいる中、傍らでいままさに息絶えようとしている誰かが目に映る。
その顔に見覚えがある。HO2だ。目隠しをしているが、間違いない。
HO2へ手を伸ばし、告げた。
「HO1を助けてやってくれ」
──これは、誰の記憶だ?
★一周目の真守の記憶である。
HO2◎駆ける。駆ける。駆け上がる。
目指すべき場所は理解している。
何をなすべきかも分かっている。
よって迷わずに、一直線に、やってきた。
大火災の真っ只中。
多くの命が失われた瓦礫の町。
自分の身体から何かが抜けていく感覚があった。
それでもHO1を助けるという意思だけは変わらなかった。
だから探して、助けて、そうして──なんで、そんなことをしたんだっけ?
HO3◎歌が聞こえる。
光のない、何も見えない暗闇の中、歌が聞こえる。
それは喜んでいる。
音はだんだん近づいてくる。
歌の主は飛び跳ねるように、こちらへと迫ってきているようだった。
それは喜んでいる。
おまえのおかげだよ。
おまえのおかげだよ。
わたしを見つけてくれてありがとう。
おまえがわたしを見つけてくれたから──
やがて、それは目の前までやってきて、こちらを鷲掴みにした。
──おわりのうたを きかせてあげる。
△≪SANC≫1/1d3
★グロースとの精神的接触。
033.ルルイエへ
★電車でルルイエに到着。座標さえ指定できればどこにでもいけるスーパー電車。
浮上の手順を踏んでいないため、ルルイエは現在海底に沈んでいる。
探索者は停滞キューブと翠の魔術で保護されたのち、海底都市を歩くことになる。
アルトとホタルは到着早々に離脱する。探索者が二人に同行しない限り、二人ははじめとつづきと戦い、相打ちとなってロストする。なおそうなってもシナリオには差し障りない。KPはNPCが減って便利かもしれない。
クトゥルフに辿り着く寸前で、聖とビヤーキーの群れと戦闘になる。
◎電車が降りれば別世界、というのもすっかり慣れてしまっただろう。
それ自体にはもう驚かなくても、今回は場所が場所だったので、目を丸くした者もいたかもしれない。
海の中──かろうじて光が差し込む程度の、薄暗い海底であった。
水に沈む遺跡じみた都市に、立っている。
△≪SANC≫0/1
◎咄嗟に呼吸の心配をしたかもしれないが、不思議なことに杞憂に終わる。
生身で海の中にいるというのに、水圧も息苦しさもまるで感じないのだ。
アルトとホタルを連れて降車してきた翠が、こちらの戸惑いを察したように鼻で笑う
「魔術と停滞キューブで保護している。いまさらこの程度で驚くな」
「もっとも、この保護効果は自然以外には作用しない。うっかり足を滑らせるなよ」
★刺されたりしたら死ぬよ、という意味
◎翠の先導に従い、海底都市を走り出す。
建物から何から何まで目に映る都市のすべてが非幾何学的だ。
水中を歩いている状況も相まって、自己を構築するものが揺らぐ錯覚に襲われるかもしれない。
そのとき、ふいにアルトが足を止めた。
「……ホタル、敵だ。二人、この先で待ってる」
★待っているのはつづきとはじめ。
「聖の手駒だな。いると思っていた」
「グリーン。ホタルとアルトで対処する。ボスたちは迂回して先へ」
★探索者に「二人で大丈夫?」など心配された場合、「問題ない」とホタルはかぶりを振る。アルトが負けるとは微塵も思っていないので。
探索者が「自分も残る。相手と話し合えるかもしれないし」と言い張るなら、ホタルも数の有利は分かっているので「それなら……」と譲る。なおここで探索者全員が残る選択はできない。重要度的にも、残れるのはせいぜい一人である。→034に入ったら033-xを同時進行
◎二人と別れて先へ進む。
翠は迷いなく、ひときわ大きな神殿へと入っていった。
やがて荘厳なつくりの大扉の前に辿り着く。
そこで、彼の鏡が待っていた。
「「久しぶり」」
と、双子は同時に語り掛けた。
◎聖の傍には、見たこともない生き物が侍っていた。
その形状はカラスやモグラ、ハゲタカやアリに似た、けれど間違いなくそのいずれであってもならない存在だった。
△≪SANC≫1/1d6
ビヤーキーを目撃したことによるSANC。
◎聖は翠から目を離し、こちらへと話しかけてくる。
「そっちについたんだね」
「恨み言は言わないよ。ただ……少し寂しいだけだ」
Q.目的は同じなのに、翠と協力することはできないの?
「できないから、こうなっている」
Q.じゃあ聖はどうやって世界を救うの?
「懇切丁寧に説明してあげてもいいけど……ちょっと時間が足らないな。論文はきみたちの墓前に備えておくよ。参考書付きでね」
Q.聖ともっと話し合いなよ!
「無駄なことに時間を割かない。その点について、私たちは一致している」
◎「……もういいだろう。話し合いは時間の浪費だ。きみたちは、私がここで磨り潰そう」
★聖とビヤーキーとの戦闘になる。
033-x.盤外戦
★残った探索者はつづきとはじめ、アルトとホタルの戦闘に混ざる形になる。
どちらを勝たすこともできるだろう。
両者のボスが相容れないので、どちらかは必ず死ぬことになる。
◎まもなく、二人の人間と相対する。
はじめとつづきだ。
あちらも何らかの保護を受けていると思わしく、とりたてて変わったところはない。
「あれ、数が多いですね」
「……穏便に済ませられる相手ならいいんだが」
「お父さん、この期に及んで情けないこと言わないで!」
Q.戦わないっていうのは……どうかな?
「あたしはいいけどね。でも、聖さんたちが反発している以上、無理な話だよ」
★つづきとはじめ、アルトとホタルは戦闘になる。
探索者はこれに混ざってもいいし、混ざらなくてもいい。
034.聖とビヤーキーとの戦闘
★033-xが発生している場合、戦闘は同時進行とする。
★翠は探索者側の味方エネミーとして参加する。
★聖は戦闘開始直後に1d3+1体のビヤーキーをエネミーとして参加させる。
また、自分が生存している限りラウンドの最初に追加エネミーとして1d2体追加させる。
聖がHO3を狙うことはない(聖の攻撃対象は基本的にHO1、HO2、翠のみ)。
だがビヤーキーは区別なく襲う。そのときHO3が攻撃対象になったとき、HO3へ攻撃行動を行ったビヤーキーは聖が手番を消費して排除する。
035.戦闘終了後
★グロースの到着により、クトゥルフどころではなくなる。
◎力を使い果たし、倒れそうになった聖を翠が受け止めた。
もはやあと数秒も生きられない片割れを、強く抱きしめている。
「さよなら、聖。後のことは僕に任せろ。誰にもHO3を傷つけさせやしない」
ぱちん、と泡が弾けるような音がした。
次の瞬間には、翠の腕の中から聖の姿は消えていた。
△1d100
★いちばん出目が低かった者が、真っ先に異変に気付く。
◎そのとき、異変に気付く。
地面が揺れている。海が揺れている。
──いや、世界のすべてが揺れているのだ。
終わりに震える子どものように。
「まさか──早すぎる!」
翠が弾かれたように顔をあげた。
「急いで電車に戻れ!」
「ネメシスが、来た! 来てしまった! 奴は既に地球の中間圏に入っている!」
△≪知識≫
大気を鉛直に区分したとき、高度48キロメートルから80キロメートルの範囲を中間圏とよぶ。
中間圏の下には成層圏、上には熱圏が存在することも知っている。
033-xが発生していない場合、Q.アルトとホタルは?
「探している時間はない! 急がないと、奴らどころかすべてが終わる!」
★033-xが発生し、アルトとホタルが生存している場合、探索者と共に乗車できる
◎翠に急かされるまま、電車へと飛び乗る。
電車は驚くべき勢いで出発した。
あっという間に加速して、一直線に空へと飛びあがっていく。
間に合え、と祈るような迷いのなさで。
036.グロース戦
★実質負けイベント。
グロース退散の呪文は基本るるぶp263を参照。
唱えるには最低でも合計MPが20以上必要になる。
KPは戦闘前に以下のことを決めておくこと。
・1d3+1ターン後にイベントが起こる
・グロースのHPを3d100+50で決める
◎電車は雲の上──成層圏に到達したあたりで、上昇を止めた。
翠のアナウンスが車内にかかる。
「電車を降りろ。付近一帯を足場にして、人間が生存できる環境にしておいた。
あとは……自分の目で確かめるんだ」
◎意気込んで、あるいは恐る恐る電車から出るだろう。
雲海が足場となり、身体を支えてくれる。
呼吸にも不自由することはない。
雲の上は清々しいほど見通しがよくて、だから、それがよく見えた。
はじめは、空に蓋がある、と有り得ない錯覚をするかもしれない。
球根状の突起が窺えること以外、これといた特徴もない球体。
それは錆のように赤く、巨大で、途方もなかった。
惑星だった。
その星と、目が合った。
どんな山よりも巨大な眼球が動く。
生きた星がこちらへ迫ってきている。
まさに滅びが落ちてきているのだと、否が応でも理解するだろう。
△≪SANC≫1d10/1d100
★ここで短期的狂気が発症した場合、グロースへの強い敵意・殺意に固定する。
◎「あれが死の星──ネメシスだ。天文台にはグロースと呼ばれている」
頭上の星を睨みつける翠の目は、いままで見たことがないほど険しい。
「もう時間がない。どんな手段を使ってもいい。あの星から世界を守れ」
★グロースとの戦闘になる。
グロースはこれといった攻撃、防御行動を起こさない。羽虫相手にいちいち意味がないので。
この戦闘は開始前に「イベントが起こるターンを1d3+1で決める」「グロースのHPを3d100+50で決める」二点をしなければならない。
グロースはHO3がHO3自身に退散の呪文を唱えない限り、HPを0にされても、退散の呪文を唱えられても、何度でも舞い戻ってくる戦闘復活能力を持つ。
また、真守がグロースにはじめて攻撃したとき、特殊イベントが発生。真守は戦闘から脱落する。
★グロース退散の呪文について(基本るるぶp263参照)
対象:グロース / HO3
使用可能:HO3(MP提供は他のPC、NPCにも協力を仰げば可能)
呪文成功時、HO3はPOW*3をロールする(グロース戦以外だとPOW*1になる。グロースが遠くて自身を戻す力がさらに必要になるので)。これはグロースと紐づいているHO3の魂を、HO3自身に留めておけるかのロールである。成功すれば3d10、失敗すると3d100のSANCとなる。
★真守がグロースへの初攻撃時、特殊イベント
◎消えた。
彼の攻撃が星に当たる寸前で、その姿が忽然と消えた。
その場に居合わせた誰もが、咄嗟に理解できなかっただろう。
それでもHO1だけは、彼のハンドラーとして把握できてしまった。
真守は──自分の兄は、今度こそ本当に消えてしまったのだ。
△HO1のみ≪SANC≫1d3/1d6
◎愕然とする間もなく、HO1は身体に異変を感じる。
細胞が蠢いている。
ざわざわと、敵意に満ちた動きをしているのをはっきりと感じ取れる。
これは、いったい何なのか。
★真守が契約因果を使い、消える直前にHO1に首輪付きの能力を寄越している。
首輪付き化の予兆である。
★このイベント以降、HO1は自分の手番に≪POW*1≫を振る。
失敗したときに特殊イベント発生。HO1は首輪付きの能力を得る。
★HO1、首輪付き化イベント
◎自分の身体が、自分のものでなくなっていく。
そんな馬鹿げた感覚が、どんどん現実のものになっていく。
指先が枯れる。頬を伝う冷や汗が凍る。内臓が自然発火して止まらない。
どれも錯覚に過ぎない。
けれど、その痛みも苦しみも、紛れもなく本物だった。
──ふいに獣の遠吠えを耳にする。
それは新しい血族の誕生を言祝ぐもの。
新生せよ。其はもはやヒトにあらず。
ティンダロスの一柱なり。
△HO1が首輪付きの能力を行使できるようになる。がんばれ!
★真守が消えたあと、HO2特殊イベント
◎頭痛がひどい。
あの星を目の当たりにしたときから始まったそれは、強くなる一方だ。
同時に不思議な感覚があった。
二度とあってはならないはずのこの現実が、しかし自分には初めてではないように思えてならない。
△≪アイデア≫+20
一周目の記憶が戻るかの判定。失敗したら次のターンでも可能。
★HO2が特殊イベントの≪アイデア≫を成功
◎ふいに頭痛が晴れた。
そのとき、すべてを思い出す。
自分は一度、グロースに負けたのだ。
そうして燃えた。
空が、地上が、世界すべてが、燃えた。
できるだけのことを尽くし、足搔き切った末に、負けたのだ。
何が足りなかったのかも分からない。
どうすればよかったのかも分からない。
最初から勝ち目なんて、なかったのかもしれない。
瀕死の自分と、その傍らでいままさに息絶えようとしている男を思い出す。
男の顔に見覚えがある。真守だ。
首輪付きの目隠しをしていないが、間違いない。
真守が自分の方に手を伸ばし、告げた。
「HO1を助けてやってくれ」
その一言が、ハンドラーに残るすべてを込めた、自分への強制執行令になった。
だから、首輪付きとして駆けた。
滝を上る鯉のように時空を遡った。
彼の願いを叶えられる、やり直せる時代まで。
そうして八年前、死ぬはずだったHO1を助けた。
想定外だったのは、世界によるつじつま合わせ。
『だったら、こうなるよね』とばかりの容赦ない代入。
HO1の代わりに真守が死んで。
自分は首輪付きになる前の、ただの人間に戻されてしまって。
HO1を助ける使命感以外、きれいさっぱり、忘れてしまったのだった。
けれど、ことここに至ってようやく思い出せた。
故に分かる。
あの星は、人間には砕けない。
臨んだ時点で、何かが犠牲になることが運命付けられてしまう。
失われる何かは自分たちかもしれない。
世界そのものかもしれない。
その両方かもしれない。
だから。
何もかも失いたくないと願うのであれば、最初からやり直さなければいけない。
過ぎた世界を書き換えるのだ。
ここには──それを可能にする首輪付きがいるのだから。
★現時点で発生しているエンド分岐
・HO3が自身に退散の呪文を使い、SANが0になっておらず、グロースのHPを0にするorグロースに退散の呪文を成功させる →エンド1
・HO3が自身に退散の呪文を使い、HO3のSANが0になり、グロースのHPを0にするorグロースに退散の呪文を成功させるときに翠が生存している →エンド2
・HO3が自身に退散の呪文を使い、HO3のSANが0になり、グロースのHPを0にするorグロースに退散の呪文を成功させるときに翠が生存していない →エンド3
・グロース生存、および023のシーンが発生しない →エンド4
>037.時空遡上
★HO1、HO2のグロース戦開始前に決めた1d3+1ターン後に≪アイデア≫に成功、もしくは任意のタイミングでPLから「HO1に時間を戻ってもらう」などタイムスリップを希望する類の発言があったときに発生するシーン。
PLに時空遡上の条件を提示する。
△HO1はティンダロスの混血種もとい首輪付きとして任意の時間軸に遡上を試みることができる。
これは誰かとハンドラー契約を結び、その相手から強制執行令を受けることで、それに消費したSANの数値だけ成功確率をあげることができる。このとき、ハンドラー契約を結ぶ相手には≪SANC≫1d3/1d20も発生する。
時空遡上の通常初期値はHO1のPOW*3とする。
★この時点で、HO3が退散の呪文を自身に成功させていればHO1の時空遡上にグロースの妨害が入らない。成功確率に+1d20の補正を追加する(HO3の生存・ロストは問わない)
★時空遡上できるのはHO1のみのため、HO2とHO3のPLには少し待っていてもらう。
★流れとしては
1.時間軸の決定(何年前のどこに向かうか、まで指定してもらう)(シナリオとしては「十年前」「HO3が天体観測をする場所」を想定しているが、裁量はKPに任せる)
2.(HO1のPOW*3)+(ハンドラーによる強制執行令)+(HO3の退散の呪文成功による1d20) の時空遡上ロール
成功 →024
失敗 →023-x
>037-x.HO1が時空遡上ロールに失敗する
★HO1が時空遡上ロールに失敗したときのみ発生するシーン。
◎ここじゃない。
そう気付いたときには手遅れだった。
時の流れに翻弄され、自らの位置さえ分からなくなってしまっていた。
△≪SANC≫1/1d4
△≪聞き耳≫
背後に気配を感じる。
◎「喋るな」
なにかを言うまえに、口を塞がれた。
その相手を知っている。
グロースによって消えたはずの、真守だ。
「怪物の条件を維持しろ。じゃないと出力が落ちて、人間に引っ張られる。一つ、言葉を喋ってはいけない。一つ、正体不明でなければならない。一つ、不死身でなければならない。俺たちにできるのは言葉を喋らないことぐらいだからな。まあ、黙ってついてこい」
彼はHO1の手を引いて進み出す。
……言葉を喋ってはいけないのなら、いまの真守は?
そう思ったときに気付くだろう。
彼の身体はうっすらと透け始めていた。
「聖も翠も気付いていないが、星辰の符牒は世界のすべてを完全に記録しているわけじゃない。アレは、帳尻が合えばそれでいいんだ。そのうえで騙して破綻させろ。HO3は星を見つけると定められているが、それはなにもグロースでなければいけないと決まっているわけじゃないんだ」
風に揺らぐ柳よりも儚いその姿が、ふいに遠方の光を指し示す。
「HO3に星の名前を教えてやってくれ。頼んだぞ、HO1」
その言葉が届いたときには、もう真守の姿は跡形もなく消えていた。