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    natsume_genko

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    natsume_genko

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    HO別導入

    いわゆる個別導入【HO1 導入】

    ■病院 昼

     あなたは警察庁交通指導課の刑事である。
     交通指導課とは、交通指導の取締りや交通事故捜査、暴走族対策などを行っている部署である。
     あなたは今日は午前休を取り、定期健診のため、病院に赴いている。
     
     「変わりないか?」
     
     「相変わらず人間が怪物に見えるかと聞いている」
     
     かかりつけ医の六曜は、あなたの顔を見るなり言った。
     彼とあなたはもう数年の付き合いだから慣れが生じていても、愛想も何もない医者の態度に呆れるところはあるかもしれない。
     
     あなたは15年前、交通事故に遭い、血の繋がっている家族を失った。
     犯人の名は日賀板 礼央(ひがいた れお)。
     当時、子どもだったあなたも大怪我を負った。
     大人になったいまでも見えない場所に後遺症がある。
     脳だ。
     高次脳機能障害による視覚失認と診断されている。
     あなたの目に映る怪物はすべて、この世に生きる人間であるらしいのだ。
     だが例外はある。
     あなたの知る限り、雪星ぼたん、HO4、六曜の三名だけは人間の姿で認識できている。
     特定の三名だけ人間の姿で認識できる理由はまだ突き止められていないが、もし分かればあなたの治療にも繋がるかもしれない。

     「あの建物はどう見える?」

     六曜が指し示したのは、窓から見える冬京タワーだ。
     あなたもよく知る赤色が、日差しに煽られてきらきらと眩いほどだろう。
     

     >≪知識≫
     数年前に冬京タワーのメインデッキが改装されたことをあなたは知っている。
     その改装が終わった頃に、あなたの六曜がかかりつけ医になったのだ。


     「……変わりないか。他に異常は? ないな。ならいい」
     
     「今日の健診は終わりだ。また来月に来い」
     
     六曜の診察室を後にしたあなたは、待合室に通りかかったとき、テレビのニュースをなんとなく目にとめる。アナウンサーとコメンテーターが結論の出ないやり取りを続けているようだ。
     
     『先日の実高市での爆発はいったい何だったんでしょうね』
     
     『それより甲塔区の不審死ですよ! 一人や二人じゃない数が同じ場所で死んでて、何もないってことはないでしょう。警察が何か隠しているんですよ!』
     
     『若者の間ではいずれも紅機関の仕業である、なんて説もあるようですが……』

     『紅機関なんてただの都市伝説でしょう! まさかあなた信じてるんですか?』


     >≪オカルト≫
     起源不明、規模不明、正体不明の秘密組織。
     暗部から世界に強い影響力を及ぼしているという噂がまことしやかに囁かれている。
     宇宙人と手を組んでいる、人間を化け物に変えてしまう、国の上層部にも彼らの犬がいる、など真偽不明の与太話も多い。フリーメイソンと同一視されることもあるような、ある種の都市伝説である。
     

     あなたはテレビから視線を外し、病院を出る。午後の出勤のため、警察局へと向かうだろう。





    ■交通指導課 昼

     あなたが交通指導課の自分の机に座ろうとしたとき、近くの同僚から声をかけられる。
     
     「あ、HO1。おまえ課長に呼び出されてたぞ」
     
     「何の用事かは知らねえけど。ま、行けば分かるって」
     
     課長席に座っている課長の下へ行けば、物々しい雰囲気の相手と目が合うだろう。
     
     「……いま私は悩んでいる。この辞令を喜ぶべきか、そうでないのか……」
     
     「間違いなく出世への道ではある。だが、なんというか……勤続二十年の私の勘が良くないものを感じているのだ……」
     
     「HO1くん。きみに異動の辞令が来ている。来週から警視庁の新部署へ班長として配属されるそうだ」
     
     「その部署の名は、虚数犯災対策部」
     
     「きみの部下になる者たちも同時期に配属される。だが……なんというか、きみは苦労するかもしれんぞ。なにせ仲間殺しに、不死身に、秘密警察の混ざりものだ。班長として音頭を取るのも難儀するだろう」
     
     「あー……どうする? 私の方から一応上に断りを入れてみることもできる……いや、たぶんうまくいかんだろうが……」
     
     かくして、あなたは虚数犯災対策部──通称、虚災対へと配属されることになる。




    【HO2 導入】



    ■一課時代 昼

     あなたは警視庁捜査一課に所属している。
     捜査一課は強行犯と呼ばれる殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火など凶悪犯罪を担当している部署である。
     配属当初は先輩刑事を見習うばかりだったあなたにも、去年から主唐 直那(ぬしから すぐな)という後輩ができた。
     いまは彼とコンビを組んでおり、共に先日から連続行方不明事件に当たっているところだ。
     
     
     >情報提示 【連続行方不明事件】
     数日前、炊き出しのボランティアを行っている団体の女性から相談が持ち込まれた。
     彼女曰く「いつも見かける顔ぶれがどんどん減っている気がする。どこか住むところを見つけたならばそれでよいのだが、そのうちの一人──ケンさんから預かっているものがあり、それを返したいので探してほしい」とのこと。
     当初は事件性は薄いと思われていた。
     しかし、ケンさんが最後に目撃された場所で、見知らぬ女性と男性を一人ずつ引き連れていたこと。この男女二名の特徴が数日前から行方不明届を出されている人物と合致したこと。また、相談を持ち込んだボランティアの女性も二日前に忽然と姿を消したことなどから、警察は誘拐の線も含めてHO2と主唐を捜査にあてている。
     
     
     あなたが自分の机で捜査資料を確認していると、いつの間にか近くにやってきていた主唐に話しかけられる。
     
     「先輩はこの件、どう思います?」
     
     「おれはよく分かんねッス。誘拐にしちゃ身代金の請求もないし、みんなただいなくなってるだけって感じですよね」
     
     「でも人間を集めてどうするんでしょう? 人間なんていればいるほど場所は取るし、金はかかるし、うるせーし、いいことなんてなくないスか?」
     
     「ま、先輩なら絶対解決できますよね! おれ、捜査一課に配属されたときに、いちばんカッケーなって思ったのが先輩だったんスよ。だからこうやってペア組めてスッゲー嬉しいッス! いままでみたいにパパッと解決してやりましょうね!」
     
     「おれ、先輩のこと信じてるんで! なんでも言うこと聞きますよ!」
     
     主唐との会話のあと、あなたは席を離れ、外へ捜査に向かうだろう。
     
     
    ---
    【KP情報】
    主唐はマジでなんでもHO2の言うことを聞く。
    ---
     
     
     
     
     
    ■一課時代 夜

     気付けば、冬京の景色は薄闇に包まれつつあった。
     今日の当直はHO2と主唐ではない。捜査一課へ戻る必要はなかった。
     大して収穫もなかった今日の捜査を切り上げ、あなたは主唐と別れて直帰するだろう。
     
     「それじゃ先輩、また明日!」
     
     主唐は子どものような笑顔を見せたあと、あなたとは違う道へ向かっていった。
     それが、あなたが最後に見た、主唐の笑顔になった。
     
     数時間後。
     夜の十二時を過ぎたあたりで、HO2の携帯端末に着信がある。主唐からだ。
     
     『……あ、先輩……ごめんなさい、こんな時間に……』
     
     
     >≪聞き耳≫ 【主唐の様子】
     電話越しでも、主唐の息がひどく荒れていることが分かる。
     彼の背後で金属が擦れるような音がかすかに聞こえた。
     
     
     『あの、おれ、最後に先輩にだけは言っておきたくて』
     
     『おれ、ちゃんと警察官です。ホントです。もしかしたら誤解されちゃったかもしれないから、先輩には言っておきたくて』
      
     『でも分かったんで、お願いします。甲塔区の港で、大きな赤いコンテナです。そこにみんないるはずです。先輩が助けてあげてください。おれは、もう行けないから』
     
     『先輩、ありがとうございました』
     
     
     主唐は一方的に言うだけ言って、電話を切ってしまう。
     もし電話をかけ直しても、二度と繋がることはない。
     HO2は主唐の住所を知っている。いますぐ向かうこともできる。
     
     
    ---
    【KP情報】
    主唐はHO2から何を言われてもまともに答えない。
    ドーの落とし子に支配されつつある彼は、答える余裕がないからだ。
    ---
     
     
     
     
     
    ■主唐の家

     主唐の家である賃貸アパートに着けば、彼の部屋の電気がついていることが外から確認できた。
     その部屋のドアを開けようとしたとき、鍵がかかっていないことに気付く。
     望むのであれば、いますぐにでも中に入ることができる。
     
     
     >≪聞き耳≫ 【異臭】
     廊下の奥から鼻をつく臭いが漂ってきている。
     捜査一課の刑事であるあなたは、いままでも何度もこの臭いを嗅いだことがあるだろう。
     
     >【異臭】提示後に≪アイデア≫
     間違いない。血の臭いだ。
     
     
     賃貸アパートは寝室を兼ねた居間と浴室とトイレぐらいしかない間取りである。
     居間にもトイレにも、主唐の姿はなかった。
     必然、あなたは浴室へと踏み込むだろう。
     
     そこに彼はいた。
     がっくりと項垂れており、表情は前髪に隠されてよく見えない。
     浴槽から出ようとでもしたいのだろうか、垂れ下がる右手には手斧を握っている。
     血まみれの手斧。
     それが何を切断したのかは、一目瞭然だった。
     両足と左腕。
     主唐の身体からは、四肢のうち、三つが切り落とされていた。
     
     あなたは彼の死を認めざるを得ないだろう。
     親しい後輩を亡くしたことによる正気度ロールが発生する。


     >≪SANC≫ 1/1d6

     
     あなたは優秀な警察官だ。
     速やかに警察と救急への通報を済ませるだろう。
     ただ、それでも十分弱ほど──あなたには現場検証の猶予が与えられる。
     
     >≪医学≫ 【背骨】
     主唐の身体から、両足と左腕のほかにも、背骨が抜かれていることに気付く。
     だが、両足と左腕と違い、手斧で切断された風ではない。
     頭蓋骨の後ろから引き抜かれたように見える。
     (HO2が主唐の電話からすぐ駆けつけていた場合、)
     
     >≪追跡≫ 【現場の痕跡】
     浴室内は主唐のものと思われる血液や肉片、油で汚れていた。
     それでもあなたは確信できる。ここに立ち入ったのは、自分以外には主唐本人だけだろう、と。
     
     >≪目星≫ 【携帯端末】
     浴槽内に、真っ赤に染まった携帯端末を発見する。主唐のものだろう。
     起動すればHO2とのツーショット写真がロック画面として表示されたあと、パスワードか指紋認証が求められる。
     
     >【携帯端末】を提示後に≪アイデア≫
     苦渋の決断だが、パスワードは分からなくても、主唐の指紋ならそこにある。
     
     >パスワードを入力するか、指紋認証で【携帯端末】のロックを解除後に情報開示
     着信履歴の最後はHO2と記録されている。
     
     一通り調べ終わったあと、アパートの外がサイレンで騒々しいことに気付く。
     到着した刑事と救急隊員は、部屋の中にいたあなたに対し、ほんのわずかに躊躇いを見せたかもしれない。それでも彼らはすぐに各自の職務を遂行していった。
     あなたは第一発見者として保護されることになる。


    ---
    【KP情報】
    主唐の携帯端末のパスワードはHO2の誕生日である。
    また、甲塔区より先に主唐の家を訪れていた場合、コンテナの探索を行うことはできない。HO2が伝えたという体で進行し、別の刑事が捜査に赴いた結果のみを聞くことになる。
    ---





    ■甲塔区 深夜

     甲塔区にはコンテナ埠頭がある。
     あなたは主唐から伝えられた『大きな赤いコンテナ』を探すだろう。
     似た特徴のものを何度か空振ったあとに、それは見つかった。
     
     
     >≪アイデア≫
     行方不明事件の捜索対象であるケンさんが最後に目撃されたのは、ここから半径1キロ圏内だった。
     
     
     施錠されていないコンテナのドアを押し開ける。
     高さは3メートル未満、幅は1メートル弱、奥行は5メートルほどだろうか。
     中身はとうに運び出された空箱のはずだ。
     けれど、いる。
     ある。
     薄闇に慣れたあなたの目が、倒れている女性をすぐに見つけるだろう。
     警察に相談を持ち掛けてきた、そして二日目から行方不明になっていたボランティアの女性だ。
     その周囲に、いくつかの影が倒れている。
     
     
     >≪目星≫ 【いくつかの影】
     ボランティアの女性以外、倒れている影の形が歪だ。
     糸が切れた人形みたいにグニャグニャになっている印象を受ける。
     
     >【いくつかの影】提示後に≪医学≫
     周囲に倒れている影はいずれも背骨が抜かれていることが分かる。
     
     
     女性に駆け寄ろうとしたとき、あなたはコンテナ内部に違和感を覚える。
     
     
     >≪アイデア≫ 【違和感】
     あなたは感覚の言語化に成功する。
     この空間は、どこか油っぽい感じがする。空気が重いとでもいうのだろうか。
     
     >【違和感】提示後に≪聞き耳≫
     風が流れるような感覚があった。
     自分と入れ替わりに、何かが外へ出ていったかのような。
     
     
     女性にはまだ息があった。
     あなたは速やかに警察と救急に連絡を入れるだろう。
     まもなく到着した同僚たちに、あなたは報告の義務がある。
     
     
     
    ---
    【KP情報】
    ドーの落とし子と幸運にも無傷ですれ違う。
    ≪聞き耳≫成功後に振り返っても、現時点ではPCにドーの落とし子を視認する手段はないため、何もないように見える。
    甲塔区探索後、同僚たちに頼んで主唐の家に向かうことは可能。ただし他の刑事が同行しているため、技能ロールによる探索は行えない。
    ---





    ■翌朝
     激動の一夜から明け、あなたは警視庁の取調室にいる。
     いつもなら隣に立って同じ目標に向かっているはずの同僚たちはみな、険しい顔で正面からあなたを睨みつけている。
     
     「行方不明者発見、お手柄だったな」
     
     「ひとりは間に合ったよ。弱っちゃいるが、命に別状はないそうだ。他はまァ……残念だったが」
     
     「詳しい捜査はこれからだが、被害者がひとりでも保護できたのはいいことだ」
     
     「なァ。なんでなんだ」
     
     「なんであのコンテナにいるって分かったんだ。なんで主唐の家に行ったんだ!?」
     
     「……おまえは知らねえだろうが、昨晩暴行未遂事件が起きてる。被害者は塾帰りの女子高生だ。いまはとっくに保護されてるが……その被害者がいうには『背後から突然のしかかられたと思ったら、すぐに離れていって、叫んでいた』そうだ」
     
     「『おれは警察官のヌシカラスグナだ』とな」
     
     「なんで主唐がそんなことをしたのかも言ったのかも分かんねえよ。目下捜査中だ」
     
     「いま分かってるのは、暴行未遂事件を起こしたあとの主唐と最後に話したのはおまえで。主唐の家に向かったのもおまえだってことだ」
     
     「分かるだろ。いまのおまえは、容疑者なんだよ」
     
     そのとき、取調室のドアが外からノックされた。
     すぐにあなたも知っている顔が入室してくる。
     二月(ふたつき)イツカ。警察庁の男だ。
     
     「取調べの最中に失礼。急用で参りました。捜査一課の皆さんはご退室願います」
     
     「なんだと? そんないきなり……」
     
     「刑事局長のご用命です。処分を伴う命令をご所望なら、そのようにさせていただきますが」
     
     あなたを取調べていた刑事は舌打ちして、椅子から立ち上がった。
     「行くぞ」と同室していた仲間たちに声をかけ、ぞろぞろと取調室を後にする。
     やがて、部屋の中にはあなたとイツカの二人きりになった。
     
     「あなた、容疑者だそうですね。刑事ともあろう者が情けない。望んでこの職に就いたのではないのですか?」
     
     「……世間話をしに来たのではありません。辞令です、HO2」
     
     「あなたには、近く新設される虚数犯災対策部への異動が命じられました。配属は一週間後です」
     
     「また、あなたには秘密裏に実行すべき指令もあります」
     
     「あなたと同時期に配属されるHO3という人間を殺しなさい。疑問は持たなくてけっこう。HO3を殺すことでしか、あなたは捜査一課に戻ることはできません」
     
     「パートナーの仇を取りたければ、せいぜい手早く済ませることですね。それでは失礼」
     
     イツカは辞令の書類を押し付けると、足早に取調室を出ていった。
     あなたは一人、紙面に記された虚数犯災対策部の文字を見つめるかもしれない。
     
     かくして、あなたは虚数犯災対策部──通称、虚災対へと配属されることになる。


    ---
    【KP情報】
    二月はHO2から質問を向けられても、ろくに答えない。
    主唐が死んで憔悴しているHO2を目にするのが辛いからだ。
    家族として助けてもやれない二月は、一刻も早くこの場から立ち去りたい。
    ---





    【HO3 導入】



    ■組対時代 夜

     あなたは警視庁の組織犯罪対策部に所属している。
     組織犯罪対策部とは、暴力団等の組織犯罪、銃器や違法薬物の取締りや外国人犯罪、国際捜査共助などを目的とする、警察の内部組織である。
     あなたは数々の危険な現場に立ち会い、そのすべてを五体満足で生還している。
     死傷者が出るほどの現場でも、あなただけは大怪我を負ったことがない。
     誰かがそんなあなたに「不死身」のあだ名を付けたのは、いつのことだっただろうか。
     
     夜の沈黙があなたの耳を撫でていく。
     その静寂が破られるときこそ動き出す瞬間だと、あなたはよく分かっていた。
     だからこそ、もう一時間以上、配置場所で通信機からの指示を期待していた。
     実高市。もう使われなくなった工場跡地と、その倉庫。
     いま、あなたは銀明組という暴力団が銃器の大量取引が行う現場に突入するときを待っている。今回売買される数はおよそ数千丁とされている、超大型取引だ。
     周囲に民家はない。あなたは木の陰に身を潜めている。

     『突入!』
     
     そのとき、号令がかかる。
     近くに潜んでいた仲間と共に、あなたは工場へと押し入った。
     中は暗く、持参した懐中電灯ではすべてを見通すことは難しかった。
     怪しい気配を探し、慎重に仲間と共に進んでいくだろう。
     
     
     >≪目星≫ 【異物】
     足元に薄汚れたものが落ちている。それは小さく、細く、白い。
     
     >【異物】提示後に≪アイデア≫
     刑事としての職業病だろうか。それはなんとなく、骨のように思えた。
     
     >≪聞き耳≫
     チッ、チッ……と時計の針が進むような音が聞こえた。
     
     
     「逃げろ!」
     
     ふいに、そう叫んだのは誰だっただろう。
     仲間の誰かだったかもしれない。もしかしたら、あなただったかもしれない。
     だが、誰何の間はなかった。
     工場内部に仕掛けられていた爆弾が炸裂し、近くにいたあなたとその仲間たちを嬉々として衝撃と炎の渦で呑み込んだからである。
     あなたの意識は、そこで途絶えた。



    ---
    【KP情報】
    この骨のようなものは、15年前にイツカが殺した子どもの骨である。
    ほとんどは消失してしまったが、HO3が見つけたのはその破片。
    ---





    ■病院 昼

     目を覚ましたとき、知らない天井だ、とは思わなかった。
     あなたの兄は医者である。彼が勤めている病院のものだと、すぐに分かったからだ。
     
     
     「起きたか」
     
     
     ギッ、とパイプ椅子が揺れる音。
     あなたが眠るベッド脇に、白衣の男が腰掛けていた。
     目を通していたらしいカルテの束から顔をあげた彼は六曜。あなたの兄である。
     
     
     「爆発に巻き込まれたと聞いている。意識が戻って何よりだ」
     
     「おまえは一週間後には職務に復帰できる」
     
     「医者の役目は終わった。仕事の話は仲間から聞け」
     
     
     さっさと立ち上がり出ていった六曜と入れ替わりに、組対の上司が病室へと入ってくる。
     
     
     「意識が戻ったか。よかった。相変わらずおまえは不死身だな」
     
     「……他の仲間は……とくに、おまえと同じように突入していた奴らは助からなかった。あの工場から生き延びたのはおまえだけだ。おまえだけでも、というと言葉は悪いが……それでも、本当に助かってよかったよ」
     
     「偽の情報を掴まされたのか、こちらの動きが漏れていたのか……どっちにしても、取引現場なんて押さえられなかった。取引は終わり、仲間は死んだ。それが真実だ。こんなに悔しいことがあるか!」
     
     「銀明組の奴ら……許せねえ。あいつらがやったに違いねえんだ。なのに証拠がない。証拠がないだけで仲間の仇も取ってやれねえ……!」
     
     「いまは銀明組に余罪がないか洗ってる。なんでもいいんだ。あいつらの下っ端をしょっ引ければ、そこから敵討ちの糸口が見つかるかもしれねえからな。おまえも何かあったら教えてくれ」
     
     
     話しているうちに、上司の顔色が曇っていく。
     
     
     「……復帰できるの、一週間後だって聞いたよ。あんな爆発の中心地にいて一週間で復帰できるなんて、やっぱりおまえは不死身だな」
     
     「いままでも……がんばってたもんな。だからこれは上司として喜ぶべきことなんだと思う」
     
     「辞令だ、HO3。警察庁刑事局長肝煎りで新設される部署に異動だそうだ」
     
     
     上司から渡された辞令の書類には、たしかに異動の旨が記されていた。
     虚数犯災対策部という未知の文字列に、どういう印象を抱くだろう。
     
     
     「こうしてちゃんと話せるのも最後かもしれねえ。こんなことを訊くのは侮辱じみてると分かっちゃいるが、聞かせてくれねえか、HO3」
     
     「なァ……なんでおまえ、死なねえんだ?」
     
     
     そう問いかける上司の顔には、疑問以外の感情も窺えた。
     
     
     >≪心理学≫
     そこにあるのは恐怖、怪訝……そういった感情だと分かる。
     
     
     かくして、あなたは虚数犯災対策部──通称、虚災対へと配属されることになる。



    ---
    【KP情報】
    上司に工場にあった骨のことを伝えても「分かった。調べておく」程度しか返されない。
    上司も知らないものなので。
    ---





    【HO4 導入】



    ■公安課時代 昼

     あなたは警察庁の警備局公安課に所属している。
     警備局公安課は時に秘密警察と指摘されることもある部署だ。
     その職務子細は、たとえ家族や友人であっても、部外者には一切漏らしてはならない。
     それでも、あなたには家族や友人と呼べる存在もいるだろう。
     あなたは刑事局長との面会を午後に控えている。
     一息つける貴重な昼休みに、公園で昼食を共にしようと友人と待ち合わせをしていた。
     相手の姿は、まだない。
     
     「ごめん、HO4。待たせたかな」
     
     待ち合わせ場所に、あなたの友人である六曜は息を乱して現れた。
     彼は近くの病院に勤めているらしい。白衣を羽織ったままなのを推すに、急いで来たのだろう。
     
     「刑事さんの時間は貴重だからね。さっそくご飯にしよう」
     
     あなたと六曜はそれぞれに持ち寄った昼食を食べ始める。
     六曜はコンビニで買ったらしいおにぎりにかじりついている。具は焼きたらこだ。
     あなたが六曜に明かしているのは「自分が刑事であること」だけである。
     どんな部署に所属しているか、どんな仕事の内容をしているか、などは一切教えていない。
     
     「どう? 最近は忙しい?」
     
     「このまえ見ていたドラマで知ったんだけど、刑事さんにも異動ってあるんだろう? きみが多忙な部署に異動しないことを祈るよ。こうして一緒にご飯もできなくなったら寂しいからね」
     
     「私? いつも通りだよ。刑事さんの前で、忙しいなんて言ったら失礼になっちゃう」
     
     「このまえも、ほら。甲塔区では謎の不審死で、実高市では爆発事故があったらしいじゃないか。ニュースで見たよ。きみがあんな怖い話に巻き込まれないといいんだけど」
     
     
     >≪知識≫/≪アイデア≫ 【甲塔区の不審死】
     甲塔区の港で、警視庁の捜査一課の刑事が数名の行方不明者を遺体で発見した事件だ。
     第一発見者の刑事の他に、もう一人、関係者と目されている刑事がいるらしい。だが後者は自宅で両足と左腕を失った姿で、遺体として発見されたため、証言の聴取は不可能になっている。
     いずれにせよ、公安まで事件の担当が回ってくることはないだろう。
     メディアは被害者たちは心中を目論んでいたのではないか、と動機の推察で盛り上がっているようだ。
     
     >≪知識≫/≪アイデア≫ 【実高市での爆発】
     実高市の廃工場での爆発のことだろう。
     一般にはまだ伏せられているが、実はあのとき警視庁の組織犯罪対策部の刑事数名が現場に踏み込んでおり、幸運な一名を除き、そのほとんどが爆発に巻き込まれて殉職している。
     あのとき何故警視庁の組織犯罪対策部が現場に突入していたのか、あなたは知らない。そのうち報告が上がってくるか、唯一の幸運な生存者から聞き出すか、どちらが早いだろうか。
     
     
     「……と、ごめん。喋り過ぎてしまったかな。きみはこのあとに予定があるんだったね。時間は大丈夫?」
     
     時間を確認すれば、刑事局長との面会時間まであと十五分ほどだと分かる。
     万が一にも遅刻はできない。あなたは六曜との交流を中断せざるを得ないだろう。
     
     
     「じゃあね、HO4。いってらっしゃい」
     
     
     六曜に見送られ、あなたは警察庁へと戻る。
     
     
     
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    【KP情報】
    この六曜は、六曜のふりをしている九曜である。
    そのため一人称は「私」だし、六曜の口調とも違う。
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    ■刑事局長室 昼

     「来たか。座りなさい」

     警察庁刑事局長室では、その主である、雪星ぼたんが座していた。
     彼女はあなたを正面に座るよう促すと、落ち着いた声色で話し始める。
     
     「率直に言おう。きみに辞令がきている」
     
     「どうして直轄の上司ではなく私から伝えるのかは考えるな。意味のないことだ」
     
     「きみには近く新設する虚数犯災対策部へ異動し、班長になるHO1を支えてやれ」
     
     「配属は来週になる。話は以上だ」
     
     
     >≪心理学≫
     雪星は何かを隠している。だが、それがいったいどんなものなのか、見当はつかない。
     
     
     かくして、あなたは虚数犯災対策部──通称、虚災対へと配属されることになる。

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    【KP情報】
     雪星は「私は彼らの親ではない」と自戒しているため、もし職場でHO4に親しげに家族として話しかけられたら「仕事の場でふざけるな」と一蹴する。それでも家族として接されたら無視して話を続ける。
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