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    natsume_genko

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    natsume_genko

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    1話初稿 あと3話ある

    連ドラの1話っぽかったらいいな【1話 1日目】



    ■虚災対集合 朝

     あなたたちは虚数犯災対策部配属初日を迎える。
     虚災対の部署は警視庁の地下21.5階に在る。通常のエレベーターでは直行できない。一度地下21階で降り、22階までの非常階段の踊り場にある梯子を下り、通気口を経由したあと、ようやく到着できる。
     辞令によれば、虚災対の職務内容は“形而上学的怪物およびそれが引き起こす怪事件への対処”とされているが、その意味を説明してくれる前任者はいない。
     HO1が班長であること、また虚災対に配属されるのは自分たち四人だけだと、全員が事前に把握できていてよい。
     
     
     >≪目星≫
     傍らの壁が回転構造になっていることに気付く。
     軽く押してみると、壁はそのまま裏返り、そこに飾られていた無数の武器を紹介してくれる。



    ---
    【KP情報】
    探索者の顔合わせ。ここで自己紹介をさせるとよい。
    済んだあたりでHO1に日賀板脱獄の連絡が入る。
    また、ここにある武器は、PLが提案しKPが納得できるものすべて採用して与えてよい。
    後々戦闘に使うものなので、なるべく火力高めだと望ましい。遠慮するな。いっぱい撃て。
    ---





    ■脱獄発生

     そのとき、HO1の無線に連絡が入る。
     周囲にいた他の三人にも内容が聞き取れるだろう。
     
     『医療刑務所より受刑者一名が脱走! 繰り返す、医療刑務所より受刑者一名が脱走! 本名は日賀板礼央、近くに配達に来ていた軽トラを強奪し都内を逃走中! 応援求む! 繰り返す、応援求む!』
     
     
     >HO4限定 ≪アイデア≫
     あなたは「日賀板 礼央」の名を知っている。
     15年前に交通事故を起こし、あなたの実父の会社を潰した直接的な原因といっていい存在である。
     
     >HO1限定情報提示
     あなたは「日賀板 礼央」の名を知っている。
     15年前に交通事故を起こし、あなたの家族を奪い、あなた自身にも未だ根強い後遺症を残した張本人だ。
     あの男は当時、違法薬物を接種していたはずだ。いまも医療刑務所にいるほどの状態なのだとすれば、また自分のような交通事故の被害者が出るかもしれない。止めなければいけないだろう。
     





    ■日賀板追跡

     あなたたちは指定の警察車両に乗り込み、日賀板を探すことになる。
     虚災対の警察車両は二台ある。一台に全員乗り込んでもよいし、個人の車両があるなら使ってもよい。ただし乗車が分断される場合、連携は取りづらくなるだろう。
     無線から日賀板についての追加の連絡が断続的に入る。それをちゃんと聞き取れるだろうか。
     
     
     >≪聞き耳≫ 【日賀板の情報】PCの成功数によって提示する情報の数を変える
     ①軽トラの色は白
     ②軽トラのナンバーは69-96
     ③それらしい車が港へ向かっていくのが目撃された
     ④日賀板は脱走時、入院着とサンダルしか身につけていなかった
     
     >【日賀板の情報】提示後に≪追跡≫ 提示した数d10のプラス補正が入る
     あなたは情報を総合し、日賀板の逃亡ルートを割り出した。
     彼はおそらく甲塔区に向かっている。
     逃亡ルートを先回りすれば、周囲に被害が出ない場所で待ち伏せすることもできるかもしれない。
     
     >上記の≪聞き耳≫≪追跡≫両方失敗時に情報提示
     無線から「被疑者と思われる車両は甲塔区へ向かっているとの目撃情報! 繰り返す、被疑者と思われる車両は甲塔区へ向かっているとの目撃情報!」という連絡が入る。
     
     
     あなたたちは甲塔区へ車両を走らせる。
     まもなく不審な軽トラが視界に入る。
     相手もあなたたちに気付いて速度を上げた。
     日賀板とのカーチェイスを開始する。





    ■カーチェイス

     「ポジション」というこのカーチェイスでのみ使用する一時的ステータスを使用する。
     特殊ルールによるカーチェイスとなる。
     1.DEX順に各車両の運転手が≪運転≫を振る。成功時、ポジションが1上昇。失敗時、増減なし。
     2.探索者側車両のポジションが日賀板側のポジションを追い抜けば終了。
     (日賀板の逃亡成功は想定されていない)
     このとき、運転手以外の同乗者PCは任意の技能に成功することで日賀板の≪運転≫50%にマイナス補正を与えることもできる。
     カーチェイススタート時、探索者側のポジションは0、日賀板のポジションは2とする。
     

     >カーチェイス終了
     その車が日賀板の軽トラを追い抜いた。
     と思った瞬間、運転手はハンドルを素早く切る。
     車体ごと回転し、自らが壁となって日賀板の軽トラを無理矢理停止させた。
     互いに乗客は激しい衝撃に見舞われるだろう。
     いずれにせよ、日賀板はあなたたちに捕まった。
     
     「くそっ……くそっ……なんだってんだよ……」
     
     「俺はただルパンを……ルパンが欲しいだけなのに……」
     
     まもなく他の警察車両も到着し、あなたたちを労ったあと、日賀板の連行や現場の後処理、負傷者の手当などを済ませていく。





    ■日賀板確保後

     日賀板を聴取した刑事から、確保に協力したあなたたちに報告が入る。
     
     「あの男、ルパンのことしか喋りませんね。十何年も服役していたのに、ドラッグが欲しい一心で脱走したのか……人間、ああはなりたくないですね」
     
     「ルパンはMDMAの一種ですよ。いわゆる違法薬物です。十年以上前に流行って、ここ数年はあまり話を聞かなかったんですが……最近また出回り始めたみたいです」
     
     「最近出回ってるルパンは、以前のものより質が良くて安いらしいんですよ。だから若者の間でも話題になってるようで……本当によくない話ですよ。こんなものに一時の好奇心で手を出して、人生が狂うなんて冗談じゃないですからね」
     
     「こんな事件が起こりましたからね……。ルパンの件で、引き続き協力をお願いすることになると思います。正式にそうなったら、また活躍よろしくお願いしますね」
     
     刑事は「まだやることがあるので、気になるなら日賀板の前科とかは各自で調べてください」と報告が終わったら去っていく。
     
     
     >≪図書館≫or≪コンピューター≫ 【日賀板の前科】
     15年前、2月5日の交通事故。運送会社の大型トラックが一般自動車に対面衝突した。大型トラックは逆走の形で道路に侵入していたほか、トラック側運転手の日賀板礼央から事件後に薬物反応が検出された。
     一般自動車に乗車していたHO1の家族は内臓破裂で即死。唯一生き残ったHO1も頭を強く打ち、重傷を負った。
     
     >【日賀板の前科】提示後に≪図書館≫or≪コンピューター≫
     日賀板が勤めていた運送会社は、日賀板が交通事故を起こしたのを機に世間から強いバッシングを受け、まもなく倒産。経営者は行方不明になり、一家は離散を余儀なくされたようだ。いまはどこにいるのか分からない。





    ■探索開始

     数時間後、虚災対にルパン摘発に関する正式な協力要請が届く。
     
     
     >探索箇所提示
     クラブ / 組織犯罪対策部 / 捜査資料室 / 図書館orインターネット





    ■クラブ

     繫華街の一角にある、半地下のクラブ。
     人口の大小はあるだろうが、昼夜を問わず若者が多く出入りしている。
     そこには数人の男女がいる。刑事であるあなたたちの、一般人との空気の違いを感じたのか、彼らはそわそわと様子を窺っている。
     
     「え、なんです? 新顔さんですよね。……え、刑事さん?」
     
     「すごい、ドラマみたい。何か事件とかあったんですか?」
     
     
     >≪交渉技能≫、もしくはRPによる質問 【ルパンについて】
     「ルパン……? かどうかは知らないけど、良いものくれるおじさんならいますよ」
     「水曜日の夜に来るひとなんですけど、合法だから大丈夫だよ、って安い値段で譲ってくれるんですよ。これなんですけど」
     そう言って差し出された手のひらに乗っている桃色の錠剤がルパンだと、刑事であるあなたたちには判断できる。
     
     >【ルパンについて】提示後、≪交渉技能≫、もしくはRPによる質問 【水曜日のおじさん】
     「おじさんについては何も知りません! ただ水曜日の夜にここに来るってだけで、連絡先とか、名前とかも知らないし!」
     「こ、これだって、そんな、ダメなものだなんて、そんなの知らなかった……!」
     
     >≪交渉技能≫、もしくはRPによる質問 【ルパンの使用所感】
     「……すごいですよ。ふわーっとして、でも肌が敏感になるっていうのかな、全部分かるんですよ。全部、本当に全部です。世界を自分が作ったような気持ち良さです」
     「世界五分前仮説って知ってます? いまの世界は、たった五分前にすべてそうなるように作られたって思考実験です。あれが本当だなって気持ちになるんですよ。で、自分だけがそれを分かって、操れるような気がして、だから全部が気持ち良くなるんです」
     
     >≪目星≫ 【暴走の火種】
     あなたたちが話を聞いている間、とくに落ち着きのない青年がいる。
     
     >【暴走の火種】提示後に≪心理学≫
     彼は強い焦燥感に駆られているようだ。
     
     
     この青年に警告や聴取をしようにも「僕は何もしてません。薬物なんて、そんな」と当惑して繰り返すばかりで、ろくに話もできない。いかにも怪しいが、いまは補導ぐらいしかできない。
     
     
     
    ---
    【KP情報】
    若者たちはルパンが違法薬物だとは知らない。警察官にちゃんと補導させよう。
    また【暴走の火種】で提示される青年はルパンにドハマりしており、ほとんど依存といっていい状態になっている。この場では刑事である探索者たちを誤魔化すことに専念するが、後になって「もうルパンが手に入らないかもしれない」という恐怖心に支配されていく。
    ---





    ■組織犯罪対策部

     警視庁組織犯罪対策部。
     元々忙しかったところに、このルパン騒ぎが起こったせいだろう、組対の人員は上を下への大騒ぎになっている。
     
     
     >HO3限定≪アイデア≫
     あなたは組対の元々の忙しさに見当がつく。
     先日の拳銃取引と、その現場で起こった爆発のせいだろう。
     
     
     あなたたちの登場に気付いた、近くを通りすがった刑事が立ち止まった。
     
     「あれ、おまえら協力してくれてる奴らか。どうしたんだ?」
     
     
     >HO3を見つけたとき
     「あー……なんだ。大変だったな」
     
     >ルパンについて
     「新しい資料はまだ作成中だが……っと、あったあった。十年以上前の資料だが、信憑性はあるぞ。当時からルパンの工場は特定できてなくてな。海上ルートでも摘発された記録はない。国内で作ってるんじゃないかって話だが、いったいどこなんだか……」
     「ルパンは身体依存はわりと弱いんだが、なんていうかな、精神依存が他の比じゃないんだ。再犯率が異常に高い。一度どっぷりいったら、さらに強い刺激を求めてどんどん摂取量が増えて、人間として取り返しがつかなくなっちまう。そういう薬物だよ」
     
     >先日の銃取引と現場での爆発
     「……悪いな。いくら協力してくれてても、それは言えねえや。部外秘ってやつだ」





    ■捜査資料室

     警視庁の捜査資料室。
     今昔さまざまな事件資料が集められている。
     
     >≪図書館≫、もしくはPLからの直接的質問 【過去にルパンを扱っていた暴力団】
     過去にルパンを売買していた暴力団が“銀明組”だと分かる。
     銀明組は数年前に資金難でかなりの苦境に立たされていたのか、その頃にはルパンを扱う体力もなくなっていたらしい記録も見つかる。
     
     >≪図書館≫、もしくはPLからの直接的質問 【銀明組】
     銀明組はたしかに活動資金不足で苦しんでいたようだが、あるときを機に急速に持ち直している。またその頃から組対の報告書に名前が挙がることも増えている。
     摘発に繋がる直接的証拠はないながらも、店舗ごと購入して乗っ取ることで、民間の営業店を複数の下部組織として運営していたのは確かなようである。その職種はクラブ、地下野菜工場、飲食店、電子機器販売、不動産、金融業、自動車販売、保険など多岐にわたる。いずれも名義が違うため、銀明組の下部組織である証明は困難であるようだ。





    ■図書館 or インターネット

     リアルかネットか、どちらの場所で調べものをするかの差である。
     どちらであっても出る情報は変わらない。
     
     >≪図書館≫/≪コンピューター≫ 【HO4の過去】
     日賀板の交通事故がきっかけで倒産した運送会社の社長の顔と名前を突き止める。
     名前に覚えはなかったが、その顔はどこかHO4に似ている気がした。





    ■組対刑事との対峙

     そのとき、HO3に不機嫌そうな声がかけられる。
     
     「HO3じゃねえか。なんでこんなところにいんだよ」
     
     HO3には見覚えのある顔だ。組対の刑事である。
     
     「協力? 自分以外の仲間が死んだあとに、一人だけ無事だったからって、のこのこ異動しやがった腑抜けに手伝ってもらうことなんかねえよ」
     
     「まだ銃の行方も掴めねえってのに……ダサい面見せんな。とっとと消えろ」
     
     「あ? なんだ、その顔。文句あんなら言ってみろよ。そんな度胸ないだろうけどな」
     
     けんか腰を崩さぬまま、組対の刑事は大股で去っていく。

    ---
    【KP情報】
    任意のタイミングでHO3に発生するイベント。
    のちのちHO3に謝らせる役回りなので、なるべく腹が立つような態度が望ましい。
    ---





    ■一日目終了

     この日の虚災対は業務終了となる。
     夜は各自、自由行動が取れる。
     ただし本日の当直はHO3、HO4であるため、二人は警視庁から出ることはできない。
     各々好きな行動を取ったのち、一日目は解散となる。

    ---
    【KP情報】
    PLが「銀明組が運営する地下工場でルパンが生産されているのでは?」や「クラブで売人の男を捕まえるか、その後を追えば工場に行けるのでは?」まで行きついて、二日目の方針を決められたらOK。
    道具の調達、探索者のRP時間として使ってもよい。
    ---





    ■一日目 夜 HO2限定イベント

     帰り道で、あなたを待ち受けている人影がある。
     人影は、近づいてくる。
     その足音がやけに響く。
     はたして街頭に照らされて明らかになるその顔を、あなたは知っている。
     二月イツカだ。
     
     「まだHO3を殺していないんですか」
     
     「はやくHO3を殺しなさい。でないと、……なんでもない」
     
     「あなたは何も考えなくていい。言われた通りにすればいいんです」
     
     「主唐とかいう奴の仇を取りたいんでしょう? 悠長に遊んでいる暇なんてないはずですよ」
     
     言うだけ言って、イツカはあなたの横を通り過ぎていった。



    ---
    【KP情報】
    このイベントは「一日目の夜までにHO2がHO3を殺していないとき」のみ発生する。
    まあほとんど発生するとは思う。実質確定イベント。
    イツカは「HO3はビーコンだから殺せない」と上層部に証明したくて焦っている。
    ---




    【1話 2日目】

    ■水曜日の夜 クラブの売人

     夜のクラブはいっそう派手な賑わいを見せていた。
     腹の底から震えるような音量で流れる音楽に、大勢の客が身を躍らせている。
     バーカウンターでカクテルを一気飲みする男女。若い女にのみ声をかけることを繰り返す男。ダンスを中断し、暗がりへと寄っていく少女たち……そのいずれもあなたたちの目的ではない。
     
     
     >≪目星≫ 【発見】
     誰も目を遣らないような角に、一人でひっそりと佇む壮年の男がいる。
     やや薄汚れたコートを羽織っている。あまり裕福な暮らしはしていなさそうだ。
     
     >【発見】提示後にHO4限定≪アイデア≫
     あなたはあの男を知っている。何年も前に行方知れずになっていたあなたの実父だ。
     
     >常連やスタッフに確認を取る
     「あの人ですか? 水曜日の夜にいつもいらっしゃいますよ」
     「名前とかお仕事とかは知らないなぁ。若い人と話をしている姿はよく見ますけどね」
     
     
     あなたたちは男に話しかけることができる。
     (その場合、男は≪心理学≫を80%で振ってくる。
     成功すれば即座に逃亡。失敗すれば話に応じてくれる。ただし一言ごとに≪心理学≫ロールを繰り返す。男は常に買い手の動きに不審なところがないか観察しているのだ。)
     (またこのとき、話しかけたのがHO4であれば、男は≪心理学≫を振るより先に逃亡する。彼はHO4のことをよく覚えているため、HO4が目を合わせてパンの子の能力を発動させようとしても腕で視線を阻むなどして的確に防ぐ)
     
     
     
    ---
    【KPの情報】
    この売人の男はHO4の父親である。HO4と同じ苗字を名乗らせてもよい。
    経営していた会社が倒産後、彼はありとあらゆる自暴自棄に陥っている。
    KPは彼を工場まで逃亡させ、探索者たちを誘導すること。
    ---





    ■売人の逃亡

     そのとき、男は突然にあなたたちの脇をすり抜けていく。
     あなたたちを刑事だと見抜き、逃げ出したのだ。
     当然、あなたたちは素早く追いかけようとするだろう。
     しかしクラブはたくさんの人間でごった返している。男はあっという間にその人混みに紛れてしまった。まだこの場の流れに慣れていないあなたたちと、毎週のように現れていた男とでは、地の利は向こうにあったのだ。
     人の波をかき分け、どうにか見つけた男は、クラブから外へ出ていくところだった。
     
     
     >≪目星≫/≪追跡≫
     あなたは夜の街に残された男の痕跡を見逃さない。
     彼は明確な目的地へと向かっているようだ。
     このまま追いかければ件の地下工場が分かるかもしれない。
     
     
     追いかけてくるあなたたちに気付いたのだろう、先を行く男から怒声が飛んでくる。
     
     「なんだよ! なんでいまさら俺の前に現れるんだ! おまえを捨てた父親を恨んでんのかよ、HO4!」
     
     「父親、ハハッ。何言ってんだ俺は。俺は父親なんかじゃねえ! そうだ、HO4、おまえは俺の子どもなんかじゃねえ! なあバケモン! おまえだって俺を親だなんて思っちゃいねえだろう!」
     
     「おまえが先に俺を騙したんだ! おまえらが俺を裏切ったんだ! だから俺は悪くねえ!」
     
     やがて彼は繫華街の喧騒から離れ、静まり返った街外れのプレハブ小屋へと飛び込んでいった。
     プレハブ小屋の壁にかかっているプレートには“株式会社銀空”の名義が確認できる。
     
     
     >≪アイデア≫ 【株式会社銀空】
     株式会社銀空は、銀明組の下部組織と考えられていた名義の一つだ。
     
     
     あなたたちはこのプレハブ小屋こそ、地下工場への入り口だと直感する。





    ■プレハブ小屋内

     プレハブ小屋の中は、外から想像できる通りの面積しかない。
     机、資料棚、水を沸かすためらしい簡易的なコンロなどの設備を見ていると、工事現場の一角にあるものとそう変わりないように思えるだろう。
     地下へ続く階段がなければ、の話ではあるが。
     あなたたちが追いかけていた男の姿も消えている。
     あの男がこの階段の下へ降りていったことは明白だった。
     
     
     >探索箇所提示
     机 / 資料棚 / 地下への階段
     
     
     ■机
     折りたたみ式の机。
     最低限の物書きができればよいのだとばかりに、何枚もの紙が乱雑に散らばっている。
     
     
     >≪目星≫ 【6-6】
     散らばっていた紙の一枚、その裏面に「小麦一ますは一デナリ。大麦三まずも一デナリ。オリブ油とぶどう酒とを、そこなうな」と書かれているのを見つける。
     
     >【6-6】提示後に≪歴史≫
     ヨハネの黙示録の一節だと分かる。第六章第六節の“すると、わたしは四つの生き物の間から出て来ると思われる声が、こう言うのを聞いた、「小麦一ますは一デナリ。大麦三まずも一デナリ。オリブ油とぶどう酒とを、そこなうな”から引用しているのだろう。
     
     
     ■資料棚
     棚には多くのファイルが雑多に詰め込まれている。
     その中に、どこかの経理記録と思わしい冊子を見つける。
     
     
     >≪アイデア≫
     この経理記録は銀明組のものだ。
     
     >≪経理≫
     どうやらこの団体は数年前に潰れかけていたようだ。
     しかし出納係が「九曜」という人間に変わった頃から明確に持ち直している。
     いまはすっかり黒字経営だ。
     
     
     ■地下への階段
     普段は台所の床にある納戸のように蓋をしているようだが、飛び込んだ人間がよほど慌てていたのだろう、いまは開け放たれている。
     梯子を使って垂直に降りていくタイプのようだ。中は等間隔で設置されている小さな照明のおかげで、視界には困らない。深さは十メートルに届くか届かないかといったところに思える。





    ■地下

     階段を降りていけば、広い廊下に出た。
     無機質なコンクリートのつくりながら、少なからぬ清潔感がある。
     道中よりよほどしっかりした照明も維持されている。
     なるほどたしかに“工場”である、と腑に落ちるかもしれない。
     街外れとはいえ、工場といえるほどの面積が地下に確保されていることに、多少なりとも驚く感情もあるだろう。
     廊下から確認できるドアは二つ。「栽培室」と書かれたプレートがかかっているドアの方が大きい。
     誰かが動くたび反響する足音が、あなたたちの緊張を煽るだろう。
     
     
     >探索箇所提示
     実験室 / 栽培室





    ■実験室

     幾つものコンピューターと、膨大な数のフラスコと実験器具が並べられている。
     壁の棚に詰められた資料には和書のみならず、洋書も多いようだった。。
     ピ、ピ、と規則的に鳴り響く電子音は、この部屋がいまも息をしている事実を物語っていた。
     男の姿はない。この部屋にはいないようだ。
     
     
     >探索箇所提示
     パソコン / 棚 / 実験器具
     
     
     ■パソコン
     ロックがかかっている。このままでは中身は見られない。
     
     >≪コンピューター≫ 【ロック解除】
     ロックを解除した。急ぎ中を確認し、関係のありそうなデータを探すだろう。
     あなたは「クールパンガ」と書かれたファイルに目を付けた。
     
     >【ロック解除】提示後に情報開示 【クールパンガ】
     誰かが備忘録として残したテキストファイルのようだ。
     「九曜が召喚した化け物。栽培室にてルパンの材料を作っている。
     化け物はクールパンガとかいうらしい。人間と同じ飯は食わず、睡眠も必要ない。九曜からは、近づきすぎなければ襲われない、と説明された。言われなくても、誰があんな化け物に近寄るものか。
     この化け物が歩いたあとは、その土から生える植物すべてに特別な毒が含有される。これがルパンの材料になる。そのため、栽培室への立ち入りには注意すること」
     
     
     ■棚
     無数の本の奥に、手製のファイルを発見できる。
     背表紙に貼られたシールには「rpann」とある。
     
     >情報提示 【rpann】
     栽培室での植物を主材料とし、他のドラッグと配合する。
     覚せい剤等と同じ手順で構わない。目に入らないよう、作業者は注意するように。
     なお、くれぐれも栽培室の植物を収穫するときには注意するべし。
     
     >【rpann】提示後に≪目星≫ 【走り書き】
     手順書とも呼べない些末なものだ。ファイルは最初以外、何ページも白紙が続く。
     その途中でふいに走り書きらしいものを見つけた。
     「怒りの日をつくる」とある。
     
     >【走り書き】提示後に≪オカルト≫ 【怒りの日】
     怒りの日とは、終末思想の一つである。
     かの方がすべての人間を地上に復活させ、その生前の行いを審判し、神の主催する天国に住まわせるか、地獄で永劫の責め苦を加えられるかを選別する日とされている。
     ヨハネの黙示録のほか、マタイによる福音書や第二テサロニケ一章などにも記されている。
     また、『最後の審判』と呼ばれることもある。
     
     >【怒りの日】提示後に≪歴史≫ 【最後の審判】
     『最後の審判』という概念は、一部に特有のものではなく、複数の宗教に共通して見られる概念である。たとえばゾロアスター教の世界観では、最終的に悪が滅びた後で世界も滅び、そのあと最後の審判が行われると考えられている。
     ゾロアスター教の最後の審判では、地上に世界の誕生以来の死者が全員復活し、そこに天から彗星が降ってきて、世界中すべての鉱物が溶解し、復活した死者たちを吞み込み、義者はまったく熱さを感じないが、不義者は苦悶に泣き叫ぶことになる。
     これが三日間続いたあと、不義者の罪も浄化されて、全員が理想世界に生まれ変わるとされている。
     
     
     ■実験器具
     桃色の錠剤が無数に並べられている。
     ルパンがここで製造されているのは間違いないだろう。






    ■栽培室

     広く、静かで、穏やかな空間だった。
     北の大地によく見られる、人のいない、荒涼な大地を思い出した者もいるかもしれない。
     縦にも横にも、あなたたちが通ってきた廊下より何倍も大きい。
     見渡す限り一面に咲き誇っている歪な草花さえなければ、心和むことさえあっただろう。
     それはあなたたちも一度は目にしたことのある、道端にあるような草花であって、そうではない。そうであってはならない。こんなものはあってはいけない。
     ねじ曲がっている。触れることさえ躊躇するほどに変形している。おぞましいとさえ感じるかもしれない。あなたたちはこの草花に対し、強い嫌悪と忌避を抱いた。正気度ロールが発生する。
     
     
     >≪SANC≫ 0/1d4
     
     
     暗黒の花畑の中に、ひとりの男が立っている。
     あなたたちが追いかけてきた売人だ。
     彼はあなたたちに気付くと、不敵な笑みを浮かべた。
     
     「ハハッ、こんなところまで追いかけてきやがった」
     
     「バカだなぁ。ここにいるバケモンは俺らのボスが呼び出したんだ。だから俺の味方なんだよ。おまえらはここで死ぬんだよ! ハハハハハ、ハ、……」
     
     男の哄笑がふいに途絶える。
     彼はふらりと身体を揺らし、信じられないといった面持ちで自らの腹部に目をやった。
     実に無駄な確認だった。
     腹部どころか、彼の下半身まるごと、とうに消えている。
     
     「なん、で……」
     
     眼球を裏返しにして、支えを失った男の上半身は地面に落ちた。
     あなたたちは人間が理不尽な死を迎えたことを目撃した。正気度ロールが発生する。
     
     
     >≪SANC≫1/1d6
     
     
     あなたたちは男の死がいかに訪れたのか、理解している。
     彼の下の土から、口が生えたのだ。
     そこに並ぶワニのような歯がギロチンめいて唸りをあげた。
     それだけのことが、ひどく驚異的に感じるだろう。
     なにせ、その口は大きすぎた。
     人間の下腹部を一瞬にして丸吞みにするなど、通常の肉食動物には有り得ない。
     
     バクリ、と何かを呑み込む音が聞こえた。
     地面に落ちていた男の上半身が、あの口に食われたのだ。
     
     あなたたちの目前の土が、山のように盛り上がっていく。
     理不尽が、あなたたちに顔を曝す。
     その巨体には、ほとんど毛がなかった。背骨に沿って並んでいる逆立つ毛と、尾の先の一房だけがその例外だった。
     口のような部位から除く歯は異様に鋭く、なにより信じられないほど多かった。あれに噛み砕かれたなら、矮小な人間には抵抗の術などないに違いない。
     あなたたちはグレート・オールド・ワン、クールパンガを目撃した。正気度ロールが発生する。
     
     
     >≪SANC≫ 1/1d10





    ■クールパンガとの戦闘

     クールパンガとの戦闘になる。
     またこの出現に伴い、栽培室の安全装置が作動し、ドアが閉鎖されているため、逃亡は選べない。
     
     【クールパンガ】
     HP 40 / 装甲 8 / DEX 20 / 回避 40
     攻撃方法 1d3
     ①噛みつき 90% ダメージ1d6+5d6
     ②恐怖の存在 自動成功 対象のCONを一時的に1減少
     ③吠える 自動成功 対象がPOW対抗に失敗したとき、対象のMPを1d6減少させる


     >HO1限定提示
     あなたの視界はクールパンガという怪物を、しかしあくまで人体として捉えている。
     目や首、人体の急所と呼ばれる部位が怪物にとっても急所だと分かる。
     あなたはそれらの急所を意図的に狙うことができる。
     あなたの攻撃がクールパンガに成功したとき、ダメージを二倍にしてよい。
     
     >HO4限定提示
     目の前にいるのは恐るべき怪物であったが、あなたは確信する。
     目さえ合わせられたなら、自分の目は、あの怪物にさえ有効だと。
     だが、あなたにはクールパンガの目に当たる部位がどこか分からない。
     その部位さえ明らかになれば、≪目星≫に成功することで怪物に狂気をもたらせるかもしれない。



    ---
    【KP情報】
    クールパンガの詳細はマレウス・モンストロルムp159に記載されている。
    HO4による≪目星≫がクールパンガに成功したときの一時的狂気は10の緊張症で固定。
    戦闘において1d2ラウンドのスタンとする。このスタン状態では≪回避≫もできない。
    ---





    ■戦闘敗北

     あなたたちは精魂尽き果てた。
     目の前の理不尽に抗う術はない。
     いや、そんなものはもう必要ない。
     だってもう、安穏たる死が、あなたたちを吞み込んでいるのだから。
     
    ---
    【KP情報】
     探索者ロストエンド。
     こうならないよう、なるべく強い武器を持ち歩かせよう。
    ---





    ■戦闘勝利

     怪物の巨体が花畑へと沈む。
     その重みによる衝撃で、無数の花びらが舞い上がった。
     見事、あなたたちは理不尽を退けた。
     ほんのわずかに安堵の息をついた、そのときだ。
     いつの間にか、背後のドアが開いていた。
     その隙間から見えたのは、一つの人影が実験室から何かを盗み出した瞬間だ。
     
     
     >≪目星≫
     クラブで挙動不審だった青年だ。実験室にあったルパンを懐に抱え込んでいる。
     
     
     刑事はいついかなるときも盗人を追いかけるものだ。
     いまも例外ではない。あなたたちは追跡のために、休む間もなく駆け出した。





    ■盗人青年を追いかける

     梯子を上がり、プレハブ小屋を飛び出す。
     外はいつの間にか雨が降り出していた。
     ばしゃばしゃとうるさい雨音は、しかしあなたたちという猟犬を誤魔化すには至らない。
     
     
     >≪追跡≫
     相手は逃げることに慣れていない素人だと分かる。
     
     
     追いかけているうちに、あなたたちはどんどんと人里から離れていく。
     隠れる場所の多い山林が目に入ったとき、誰かが舌打ちを漏らしたかもしれない。
     
     
     >HO3限定≪アイデア≫
     見覚えのある場所だ。自分たちが実高市へと入ったと分かる。





    ■青年と銃

     パキリ、と誰かが枯れ枝を砕く音がした。
     青年は逃げるのをやめた。
     けれど、あなたたちは彼を捕まえずに立ち止まっている。
     青年の手に、夜も黒い、人を殺す小さなものが握られているからだ。
     銃。
     何故そんなものがここにあるのか、どうして彼が手にしているのか。
     あなたたちはこの事態を解決し、青年を止めなくてはならない。
     
     
     >HO3限定≪アイデア≫
     あなたはその銃の出所に見当がついた。
     あの日、取引されたものの一つかもしれない。
     この辺りは銃取引が行われた現場から近い。
     銃を何千丁も入手した者たちが、その一つを逃亡の際に取り落としていったのかもしれない。
     
     
     「ち、近づかないでください」
     
     「ぼ、僕はもう、こ、この薬がないとダメなんです」
     
     「こうなっちゃったらも、もうダメなんでしょう? 人生やり直すことなんてできないんでしょう?」
     
     青年を止める方法は二種類ある。
     青年に対し交渉技能を二回成功させて落ち着かせるか、戦闘で問答無用に叩きのめすかだ。
     
     
     >青年のステータス
     HP10 / DEX16 / 回避 32
     攻撃方法
     ①銃 20% 1d10



    ---
    【KP情報】
    青年との戦闘で敗北は想定されていない。探索者を勝たせよう。
    HO4による≪目星≫による一時的狂気は青年にも有効である。成功時、
    与える一時的狂気は10の緊張症で固定。
    戦闘において1d6ラウンドのスタンとする。このスタン状態では≪回避≫もできない。
    ---





    ■事件の終わり

     青年は銃を取り落とした。
     あなたたちは彼を確保──いや、警察として保護するだろう。
     彼が本当に取り返しのつかない過ちを犯す前に、人間でいられるように引き留めたのだ。
     あなたたちを打ち付ける雨粒は冷たく、容赦なく体温を奪っていくだろう。
     それはまるでこの地すべての罪を洗い流すかのように、翌朝まで降り続いた。
     
     あなたたちは青年を連れ、警視庁へと戻った。
     彼の説明と、ルパンに関する一連の報告書を上げなくてはならないからだ。
     そんな後始末すべてを終える頃には、世界は次の朝を迎え、雨はすっかり止んでいた。
     あなたたちが仮眠を取っている間に警察の公式発表も済んだのか、流れるニュースは軒並みルパンや、それを製造していた銀明組に強制捜査が入ったことが話題になっている。
     さすがに「怪物が製造過程に存在していた」話は一度も流れなかった。あなたたちの報告書を警察上層部が信じなかったのか、メディアが信じなかったのかは定かではないが、一般にあの存在が流布されなくてよかったという安心感はあるだろう。





    ■HO3への謝罪

     ルパン騒動解決から一夜明け、虚災対に出勤しようとしていたHO3に声がかかる。
     以前、捜査中にHO3に突っかかってきた組対の刑事だ。
     
     「……よォ。例の銃、見つけたんだってな。……一丁だけ」
     
     「一丁ってなんだよ。全部見つけろよ。このまえの取引で流された銃は、どう見積もっても五千を下らない。その内の一丁なんて、しょうもねえ」
     
     「……でも、そのしょうもねえ一丁が、俺たち組対が喉から手が出るほど欲しかった一歩だ。今回のルパン騒動のおかげで、銀明組に礼状が出た。これで仲間たちの無念を晴らしてやれる」
     
     「だから、なんだ。……おまえのおかげだ。ありがとう、HO3」
     
     「っなんだよその顔は! いいか、別に俺はおまえを認めたわけじゃねえぞ! ただ事実は事実だから認めてやっただけでだな!」
     
     「あー、もういい! じゃあな! せいぜいくたばる前には教えろや!」
     
     組対の刑事は大股で去っていく。
     以前と同じ歩き方だ。
     だが、それを見送るHO3の面持ちは少し違うものかもしれない。





    ■次への布石

     夜の自由時間となる。
     この日の当直はHO1、HO2のため、この二人は警察庁から出ることはできない。





    ■二日目 夜 HO2限定イベント

     あなたは夢を見ている。
     これは夢だと自覚できている。
     だから、何もおかしくはない。
     
     あなたは子どもの姿で、誰かと手を繋いで天体観望会に参加している。
     人混みの中、ふいにその手を離されて、あなたは一人になった。
     子どもになっているせいだろう、あなたはひどく不安になった。
     不安になっているうちに、誰かがあなたから大切なものを持っていってしまった。
     それが何かは分からない。
     ただ、とても大切なものだったと感じるのだ。
     気付けば、あなたはいまの両親と手を繋いでいる。
     ぬるま湯の雑踏に溶けていった。
     
     あなたは夢を見ている。
     これは夢だと自覚できている。
     だから、どうしてこんなに悲しいのか、分からない。



    ---
    【KP情報】
    HO2が仮眠中に見る夢。
    15年前、イツカにとある子どもとすり替えられ、そのことを忘れたときの記憶である。
    ---





    ■二日目 夜 HO1限定イベント

     あなたは休憩スペースへと足を運んでいる。
     喉が乾いたせいで、仮眠から目が覚めたので、飲み物を買いに来ているのだ。
     
     
     >≪聞き耳≫
     入る直前で、休憩スペースから二人分の話し声がする。
     どういう内容かは分からないまでも、HO2の名前が漏れ聞こえてきたのが分かった。
     
     
     もう一歩近付いたとき、聞こえてきた言葉にあなたの足は知らず止まる。
     
     「だからHO2が殺したんだろ」
     
     「あいつは仲間殺しだよ」



    ---
    【KP情報】
    話しているのは、HO2の元職場こと捜査一課の刑事。
    捜査一課の一部には、HO2が主唐を殺したと思われているのだ。
    このセリフを言って飢饉編を閉めると連ドラっぽくていいかもしれない。
    ---





    ■一話終了

    HPとMPを全回復
    SAN回復 5+1d10
    任意の技能一つ成長 +1d10
    クトゥルフ神話技能 +3
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