にらめっこ 朝、起きて隣に体温がある。そんだけでこんなに嬉しくなるのってさ、ちょっと単純過ぎるんじゃねぇかって、思う。自分のことだけど。浮かれてんだ、ずっと。円城寺さんと、こういう関係になってから……。それにアイツとも。
珍しく俺の方が早く起きて、横で寝てる円城寺さんの顔眺めてた。……多分、俺が先だったと思う。いや、アイツとどっちが先だったかはわかんねー。アイツは起きてるときはだいたい騒がしいけど、時々変に静だったりするから。
ただ、俺が身体起こして円城寺さんの顔を覗き込んだときは、アイツも起きてた。
円城寺さんの寝顔を覗き込んだら、ついでにその向こう側のアイツの寝起きの顔も視界に入る。不機嫌そうな顔は、いつも通り。アイツがだ。円城寺さんは、寝てるときも優しい顔してる。
アイツが不機嫌そうだから喧嘩でもふっかけられるかと思ったが、アイツはなにか言いたげな口をぐっと結んだだけだった。騒ぐと円城寺さんが起きるってことぐらいは理解できてんだろう。だってアイツも、円城寺さんの寝顔見てたらしいし……俺と目が合った瞬間に慌てて誤魔化そうと目を泳がせていたが。俺がそれを無視して円城寺さんの寝顔に視線を向けると、アイツもノソノソ起き上がって同じように円城寺さんの顔を覗き込んでいた。
円城寺さんの顔見て、何するってわけでもねぇ。円城寺さんの癖っ毛に寝癖ついてる。どうもしねぇ。瞼がぴくぴく動いてる。眠りが浅いときは人間はみんなそういうもんらしい……って円城寺さんが言ってた。もうすぐ起きんのかな。そんなことを考える。
……俺はそういう知識があるから円城寺さんの瞼が動いててもどうとも思わなかったけど、向かい側ではアイツがニヤニヤしていた。アイツはバカだから円城寺さんの瞼が変な動きしてるとか、もしかしたら円城寺さんが動いてるっつーだけで笑ってんのかも。
でもやっぱ声は一応我慢してる。こっちまで笑わされそうなぐらいすげぇあからさまに笑ってるけど。
……いや。やっぱり俺も、笑えてきたかもしれない。変だよな。そこにいるってだけで、こんなにさ……腹抱えて笑うっつーのとは違って、ただ嬉しくなって口が緩んじまう。しかも眼の前に似たような状態のヤツがいて……。
今何時だ? 今朝はいつまでこうしてていいんだっけ。そんなに長い時間、見つめ合ってたわけじゃねーとは思うが。
でもいつの間にか円城寺さんも、起きて、目開けてるし。
だから、見つめ合ってる……。朝起きた瞬間から、ってシチュエーションにドキドキしたけど、同時にやっぱ変だと思った。
円城寺さんが起きた瞬間、気付かなかった。俺はコイツの方見てた。視線を戻したら円城寺さんの目線もゆっくり俺の方を向いて、目が合って、俺は「おはよう」と言おうとしたんだった。
でもその直前にアイツが真顔に戻ったの見てたから、声が引っ込んだ。アイツ……この期に及んで円城寺さんの寝顔を見てたことを隠そうとしてる。どう考えても隠せる状況じゃねーのに。引っ込みがつかなくなって、意地を張ってる。今アイツの頭にあるのは、声を出したら負けだとかそういう意味のわからないルールだ。なんで俺、コイツの考えることにこんなに慣れてんだろ。
しょうがねえから俺も黙ってる。円城寺さんも黙って、俺とアイツのことを見つめている。
部屋ん中、まだ電気も付けてねーけど明るくて、少しアパートの外の朝の騒音とか、鳥の鳴き声とか、そういうのが聞こえてる。そんで何もしないで見つめ合っている。
変だな。笑っちまいそうだ。何もねーのに、ただ俺と円城寺さんとコイツがここに居るってだけなのに、見つめ合っちまって、嬉しいんだ。我慢、できねぇかも。我慢する意味、ねーか……。
「ふっ……ははは。もうダメだ。おはよう、二人とも」
最初に声、出したのは円城寺さんだった。いつものあの、でっかい笑顔……。
「にらめっこ、自分の負けだな。そろそろ起きて、飯作るか」
起きたばっかにしては円城寺さんはハキハキ喋ってる。結構前から起きてたんだろうか。急にその声聞くと、ちょっとびっくりした。さっきまで全員黙ってて静だったから。いや、円城寺さんの声がデカいってわけじゃねーんだけど。
で、固まってたコイツもワンテンポ遅れて動き出して、何故かふんぞり返ってデカい声で笑い始めた。