その日の特別なプレゼント 欲しいものは? と口々に尋ねられた。タケルも漣も恥ずかしそうに、少し頬を赤くしたり、不機嫌を装って口を尖らせたりしながら。とはいえ、今は特にどうしても、ってものはないな……と答えると、思ったような答えではなかったからか二人とも困ったような拗ねたような顔になる。
「だってもう朝から沢山プレゼントをくれたじゃないか、二人とも。飯も旨かったしお前さんたちが選んでくれたエプロンも、それに手紙やメッセージカードにも感動した!」
「コイツが渡してた紙くず、メッセージカードだったのか……」
「!? オレ様のありがたいお言葉をカミクズだとォ?」
「あはは。全部が自分の宝物だ。そんなわけで、いくら誕生日だからってこれ以上欲しいものなんてすぐには思いつかない、というのが自分の答えだ」
「……円城寺さんが喜んでくれたのなら、よかったけど。でも……」
「もっと他にあんだろ。他に……その……せっかくオレ様とチビが家まで来てやったんだ」
二人がぐっと息を呑んで口ごもった。自分の顔をじっと見て、それから横目でチラッとお互いの顔を見る。そのタイミングが示し合わせたようにぴったり同時で思わず今日一番の笑顔になった。
なんて間に、二人にぐっと詰め寄られる。少し背伸びをするように、顔を近づけて。
「円城寺さんの欲しいものとか、したいこととか。……エロいこと、でも」
「これ以上ぐだぐだめんどくせーこと言うんじゃねェぞらーめん屋」
意を決したように自分に詰め寄る二人に対して、これは……と思わず生唾を飲む。
これは、下心を出したっていいんだろうか。いいはずだ。だったら、まずはたくさん抱きしめて、二人に触れて、それこそタケルが言うように、エロいこと……も、だ。
しかしそれはいつものこと、でもある。いつもタケルと漣がくれる特別に幸せなたくさんのことのうちの、いくつか。だけど今日は自分の誕生日なんだ。せっかくだから、いつもとは少し違う、特別な『欲しいもの』。
「じゃあ……タケルと漣、こっちとこっちにキスしてくれ」
「ハァ?」
「え……キスって、そんだけか?」
「そ」
頷く自分の顔を、二人は訝しんで上目遣いに見上げる。それぞれその頬が少しずつ赤らんでいる。それだけ……? と言いつつも照れているらしい二人の反応が思った以上にかわいくて、こっちとこっち、で指さした頬が緩むのが止められなかった。
「自分の欲しいものは……こっちとこっち、一度に両方、頬にタケルと漣からのキスが欲しい。贅沢すぎるか?」
「贅沢っつーか、そんなんいつでも……」
言いながらまた照れている。だけどいつもとは言いつつ、二人揃って一度に、ってのは案外してもらえない。だって改めて二人で、タイミング揃えてやることになるんだから……というのを、タケルも漣も想像している最中なんじゃないだろうか。どんどん頬が赤くなる。ぽーっとして湯気でも上がりそうな勢いだ。触ったらきっと暖かいんだろう。触ってしまおうか?
「……っ、ンなの楽勝だ。さっさとやるぞチビ」
「お」
ほっぺたにちょっかい出そうとしてるのがバレたかな? 漣は肌が真っ白だから、照れてるとピンク色の顔になる。そんな漣と、タケルが目配せして、グッと背伸びをした。タケルの手が自分の肩に寄りかかって掴む。漣は自分の後頭部と首に掴みかかった。
「せーの、だ。わかったか?」
「ッ……! さっさと合図しろチビ!」
最初のせーの、で思わずビクッと漣が動いた。あまりにかわいくて自分は吹き出してしまい、漣の指が首にギリギリと食い込んだが……タケルはそれどころじゃなさそうだ。
「……せーの」
「んッ」
緊張のあまり低く囁いたタケルの声が、ほとんど触れるほどの距離にあった自分の頬をくすぐる。漣の短い唸り声もだ。
そうしてすぐに、両頬に二人分の暖かく柔らかい感触が触れた。
二人ともどこか探るような、そっと弱い力で唇を押し当てている。……あっちもこっちも両方欲しくて両方見たくて欲を出した身から出た錆で、タケルの顔も漣の顔も真正面からは見えないけど、どうやら二人とも力が入りすぎて目を閉じているらしい。
それで、探るように触れるだけのキスを。尖らせた唇の形と少し濡れたような熱く柔らかい感触と……。
そっとゆっくり触れて、たっぷり長い間触れたままで、それからどちらともなく離れていった。
「二人とも、唇柔らかいなぁ」
離れていったきっかけは、自分が下心丸出しのこと言ったせいだったかもしれないが。
「……こんなんでマンゾクすんのかよ」
「やっぱエロいこととかした方が……なんつーか、これがプレゼントになんのか信じられねぇんだけど……」
「いーや、最高のプレゼントだった! 間違いなく自分は今世界で一番の幸せ者だ」
釈然としていないような顔で二人とも自分の顔を見上げている――いいや、これは照れ隠しかむず痒いのを我慢している顔か。
緩みそうになっている唇を、漣はへの字にしてタケルはきゅっと結んでこらえてる。そんな顔をさせていることも、やっぱり自分は世界一の幸せ者だ。