うたたね とん、と寄りかかってきた円城寺さんの重みと熱と、すぐ近くに聞こえる規則正しい寝息。それから心臓の音……は、俺のか、円城寺さんのものか、どっちかわかんねぇ。ドキドキする。それと向こう側で不貞腐れてるヤツの、横顔。
優越感――思わず口元が緩んだ。とはいえ、横目で円城寺さんとソイツを眺めながら、胸ん中に浮かんできたのはそれだけじゃないって気もしてる。
ソイツが子供っぽく尖らせた唇の、薄いピンク色に少しだけ見とれた。
「静かにしてろよ」
小声で呟く。が、思ったより自分の声が部屋ん中響いた気がして、慌てて円城寺さんの顔を覗き込んだ。……大丈夫だ、起こしちゃいねぇ。俺の肩を枕にして、円城寺さんはすっかり眠ったままだ。
今は打ち合わせの合間の空き時間だ。だからって円城寺さんがこんな風に事務所で居眠りするなんて珍しい。アイツは事務所でもよく、居眠りどころか豪快にいびきをかいて爆睡しているが――。円城寺さん、よっぽど疲れてるんだろう。だから起こしたくない。
拗ねてるソイツも、一応は円城寺さんのことを気遣ってるらしい。こっちを睨んできたが、いつもみてーに騒がない。
「ンでチビの方に」
口の中でボソッと呟いたのも、コイツにしては珍しいぐらいの小声だった。独り言っぽい、本音っぽい、喧嘩売ってるつもりじゃないっぽい、拗ねた顔。羨ましいって、素直な反応。だから優越感と……わかんねぇ。いや、正直に言うと、多分……かわいいとか、そういう感情だ。……わかんねぇ。
「オマエ、一人で差し入れ食ったり茶飲んだり動き回ってたからだろ」
伝わる気はしねぇが、一応慰めるつもりで言った。小声。ソイツのツンと尖った唇がむにむに動いてる。なにか言いたげなのか、そうでもねぇのか。背中を丸めて上目遣いに円城寺さんと俺をじっと見て、結局黙って何も言わなかった。気付くと、ソイツの口は拗ねて尖った形でもなくなってる。何を考えてんだかは、わからない。
あんまり見つめ合ってんのも恥ずかしくなってきて、俺は前に向き直った。ソファの前のローテーブルに、打ち合わせで貰った薄い資料が置いてある。円城寺さんが寝落ちする前にウトウトしながら置いたヤツ。俺もだいたい全部に目を通しちまったけど、他にすることもない。
それに手を伸ばした。慎重に。円城寺さんを起こしたくねぇから。
やっぱ、頼れられてんだって自惚れている。こっちに寄りかかって寝てるって、すげー些細なことかもしれないけど。少しでもこの時間が続けばいいと思う。
資料に書いてあること読んでるつもりでも、頭に入ってくるものがあまりない。円城寺さんの寝息とか、心臓の音とか、そればっかり聞こうとして集中しようとしてた。
それからすぐに、どん、と円城寺さんの体重がさらに重くのしかかってきた――いや、いくら円城寺さんでも寝てる間に急に体重が増えるわけが――。
訝しく思って視線を横に向ける前に、もう一人分のうるさい寝息が聞こえ始めた。見ればアイツが円城寺さんに伸し掛かって寝てる。アイツの体重まで俺の肩に掛かってるらしい。
あんだけ差し入れ食ったら、眠くもなるかもな。ほんとしょうがねぇヤツだ。ちょっと声出して笑いそうになったが、円城寺さんとコイツを起こさねぇように、慌てて深呼吸して飲み込んだ。