風景「漣はこっち、タケルはこっちな」
らーめん屋はいちいちわかりきったことを言う。いつもと同じだ。言われなくてもそっちの布団はオレ様のモンだ。
眠い。らーめん屋とチビはまだなにか喋っているが興味はねぇ。真ん中の布団に座り込んだらーめん屋の足をまたいで、布団に入り込む。
「いたっ。漣、わざわざ踏んでいくなよ」
「円城寺さん、この枕……」
「ん?」
ンだこれ。オレ様のじゃねぇ。
「おい! 枕を投げるな!」
「うるせぇ。さっさとオレ様のをよこせ」
らーめん屋の背中の後ろを通って枕が飛んでくる。だがチビの下手な投げ方のせいで、こっちまで届かずらーめん屋の横に落ちた。
オレ様が起きて拾おうとする前にらーめん屋が拾って、どういうわけだかオレ様の胸にそれを押し付けた。意味不明だ。フワフワの枕なんか痛くもねェし。だがオレ様を起き上がらせることなく枕を差し出したのはヒョーカしてやってもいい。
「もしかしてどっちがどっちの枕か決まってたのか? 枕も枕カバーも、自分は同じのを二つ買ってきたはずなんだが」
「全然ちげーし」
「できれば同じ枕で寝たい……」
らーめん屋がオレ様の腕の中にある枕を覗き込んだ。近づいてくる顔に思わず身構える。でもなんにもしねぇで、すぐに反対側のチビの枕にも同じことをした。チビも目を丸くして身構えてやがる。ビビってんのか期待してんのか。どーせ期待外れだっつーのに。
つまんねー。今日は何もしねぇ、そういう夜。眠いから別にいい。
「自分にはどっちも同じ枕に見えるぞ。うーん、それじゃ名前でも刺繍しとくか」
「それ、小学生みたいだ」
「ダッセェ。チビにはお似合いだな」
「あはは。いいじゃないか、別に誰かに見せるものでもないんだし」
どーでもいい。シシュウだかなんだか知らないが勝手にやってろ。オレ様は寝る。らーめん屋とチビはまだ話し込んでいるが、それもどうでもいい。いつものことだ。
「漣、枕は抱えるより頭の下に敷いたほうがいいんじゃないか?」
「変な寝相だな……。寝苦しかったら勝手に起きるだろ」
「それもそうか」
やっとらーめん屋が布団に入った。オレ様の横に寝転がったのが、布団が沈む感覚でわかる。あっち側でチビも。
「れーん、枕を離してもっとこっちに来てくれないか?」
「やだ」
「変な寝言だな」
夜、寝る間際までらーめん屋とチビは喋っている。だんだん小さな声になっていく。うるせぇ。でももう慣れた。