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    krimstowrds

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    krimstowrds

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    スミイサ/花屋バース⑤
    ※スミ→(←※自覚無し)イサ

    最初①https://poipiku.com/9568623/10481928.html
    前回④https://poipiku.com/9568623/10521495.html
    次回⑥https://poipiku.com/9568623/10701347.html

    Flowering ジーワジーワと蝉が鳴いている。容赦なく降り注ぐ直射日光に額から汗が止めどなく流れ、イサミは目に入りそうな雫を軍手で拭った。
    (あっちぃ)
     時刻は昼の一時を過ぎた辺り、太陽が最も高くなる時間帯である。イサミは握り締めていた雑草に目を落とすと、溜息と共にそれをゴミ袋へと放り込んだ。
     先日、スミスから一緒に出掛けないかと誘われて以来イサミはずっと落ち着かないでいる。今日もヒビキの頼みで勤務が交代となり、急遽休みになったのにじっとしていられず朝から動き通しである。午前の内に家事を済ませてしまうとたちまち手持ち無沙汰になって、思い立って始めたのが草むしりだった。
     しかし、よく考えずとも真夏の昼過ぎなど草むしりに向いている時間ではない。まだ開始してから三十分も経っていないというのに危ない火照りを体に感じ、これは失敗だったなと自身に続行不可を言い渡したイサミは傍らに置いていた蚊取り線香を手に取ると縁側へと上がった。ゴミ袋の処理は夕方になってからでいいだろう。
     水分補給用にとガラスポットで用意しておいた麦茶はたっぷりと入れていた氷が二回り小さくなっている。結露で手を濡らしながらコップに注ぎ、一気に飲み干すと胃がひんやりとした。
     そう言えば、甘くない麦茶を飲むのは久しぶりだ。ここ最近は何かとルルとスミスに合わせて麦茶には砂糖を入れていたから、何だか違う飲み物を飲んでいる気分になる。別にイサミは甘党ではないし、元々は砂糖を入れていない麦茶を好んでいたのに不思議と口寂しく感じた。
     まだ十分に冷たいガラスポットを頬に押し当て、熱を下げる。火照った体を冷ますなら、さっとシャワーを浴びてクーラーを効かせた部屋に籠るのが手っ取り早いとわかっていても、そんな気になれなくて手繰り寄せた扇風機のスイッチを入れた。カタカタと音を立てて回る羽が送るぬるい風を浴びながら、イサミは空を見上げる。突き抜ける、どこまでも青い空だ。
     スミスと出会ったのもこんな日だった。空は青くて、太陽は容赦がなくて、茹だるような暑さで。アスファルトの照り返しが厳しく、店の表に出しているのは暑さに強い植物ばかりとはいえ地表の熱気を少しは下げた方がいいと水を撒いている最中だった。
     どこからか視線を感じて振り返ると、まず視界に飛び込んできたのは見事な金髪だった。
     外国籍のお客様はそう珍しくない。花を贈る文化は日本人よりも根付いている分、それなりに来店される。お陰で天然のブロンドもブリーチで色を抜いた人工のブロンドも数多く見てきたというのに、スミスの金髪はイサミの目を引いたのだ。
     その時のスミスの服装が白いワイシャツだったことも効果的だったのかもしれない。シャツがレフ板代わりとなって汗で萎びれながらも金色はキラキラと輝いていた。美しいものなら毎日見ているというのに綺麗だと感心していたところで、相手が突然ぶっ倒れたのだ。この間約三秒、イサミにとって忘れられない衝撃体験だった。
     その後まさか、介抱の礼だと言って贈答品を持ってきたばかりか常連となり、それどころか個人的な付き合いまでする仲になるとは思わなかった。イサミは他人が嫌いなわけではないが人付き合いが上手いとは言えないし、交友関係は狭い方だ。仲良くなれたのは一重にスミスの高い社交性のお陰だろう。後は、彼の娘であるルルが妙なまでにイサミに懐いてくれたお陰でもある。
    (今回のことはルルが発起人なんだよな)
     スミスから誘いを受けたあとにルルから「しゅみしゅ、上手におさそいできた?」と舌ったらずに尋ねられた。どうやら今回のお出かけはルルがスミスを一人ぼっちにすることを嫌い、イサミを誘うように提案したのが発端らしい。
    (スミスからじゃ、ないんだよな……)
     スミスの発案でないことを知ったイサミは何故だか落胆した。冷静な頭はルルを最優先にしているスミスがルルを置いてそんな提案をするわけがないとわかっているし、イサミもそんなスミスだからこそ信頼しているのに、どうしてがっかりしたのか自分でもわからない。けれどそんな落胆も、どこか緊張したスミスの面持ちと、イサミとならどこへでもと言った優しい声を思い出せば掻き消される。
    (ふたりきり……)
     はた、と気が付く。
     いつもはルルがいるからプライベートで会う時も〝汚れていい服〟を着ているが、今回はルルが不在だ。
    (え? あれ? どんな格好してきゃいいんだ⁉)
     行き先は二人で相談した結果、お互いに「ルルに何かあった時にすぐに駆け付けられる場所がいい」と意見が一致したので、そう遠くないショッピングモールに決まった。特別にお洒落をしていくような場所ではないが、大人二人ならいつもの汚れていい服で行くような場所でもないだろう。
     けれど正直言って、イサミの私服は〝汚れていい服〟と大差がない。上はTシャツ、下はカーゴパンツかジーンズ、たまにジャージくらいしかレパートリーがない。かつてヒビキには「イサミって服がおっさん臭いよね」と手厳しいひと言を頂戴した。その時は「別に着られりゃなんでもいい」と気にしていなかったが、初めての二人きりのお出かけで、それはなんだか……。
    (よくない気がする)
     何がどう良くないのかはイサミにも説明できないのだが。
    (けど、俺、服とか全然わかんねぇ)
     サァっと青ざめながら頭に思い浮かんだのは、正にイサミに辛辣な評価を下した人物、ヒビキの顔で。
    「ひ、ヒビキっ……」
     イサミは慌てて部屋に駆け戻り、充電コードに指していたスマートフォンを手に取った。自他ともにファッション好きのヒビキなら、イサミの残念な服もどうにかしてくれるかもしれない。
     スミスと出かける時の服、相談に乗ってくれ。送ったメッセージに『OK!』と返事がくるまで、イサミはなんだか生きた心地がしなかった。
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