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    krimstowrds

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    POIPOI 29

    krimstowrds

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    スミイサ/花屋バース⑦
    ※スミ→(←※無自覚)イサ

    最初①https://poipiku.com/9568623/10481928.html
    前回⑥https://poipiku.com/9568623/10701347.html

    I would like extra syrup please 他人と接するのが苦手というわけではないんだよな、と和らぐ表情を見ながらスミスは思う。思っていたよりも乾いていた喉に冷えたカフェラテが美味かった。
     初デート――だとスミスは認識している――に訪れた大型のショッピングモールにて、最初の希望を上げたのは意外にもイサミの方だった。
    「靴を新しくしたいんだ」
     言われて、スミスは無意識にイサミの足元へと視線を落とす。服に合わせたのだろう白地に黒のラインが入った靴は服と違って下ろしたばかりではないが、普段あまり見ない靴だ。傷も汚れも少ない。
    「普段用じゃなくて、仕事用の」
    「ああ」
     そう言われてみれば、確かに仕事用にしているスニーカーは随分とボロボロになっていたことを思い出し、そんな細かなことまで記憶している自分にスミスは苦笑する。我ながら観察しすぎだな、とは思うものの、イサミのことは見ずにいられないのだから仕方がない。
    「どういうのが欲しいんだ?」
     じゃあそうしようかとも言わずに靴屋に向かって歩き始めればイサミも特に何も言わずに横を着いてくる。何度か訪れている場所なので店の場所も大体は把握しており、何店舗か頭をよぎった候補のうち仕事用だというならあの店かな、と四階を目指した。
    「動きまわるし軽いやつがいい」
    「Okay、良いのがあるといいな」
     運の良いことに試着三足目にしてイサミは気に入る靴があったようだ。決して広くはない店内をぐるりと二周回ると「これにする」と、スミスが口を挟む間もなく靴をレジに持って行く。ファッション性ではなく機能性を重視しているのだから他人の意見は不要だとはいえ、潔いことこのうえない。あわよくば「日頃のお礼に」と買ってあげようと思っていたスミスの目論見はあえなく崩れ去ったが、戻って来たイサミが嬉しそうだったのでどうでもよくなった。
    「SNS登録したら五%OFFになった」
     いいなあれ、うちもしようかな、と言いながらイサミがほんのりと口角を上げている。安くなったことではなく、いいものが買えたのが嬉しいのだろう。ふわふわと花を飛ばすような雰囲気が可愛くて、ついついスミスの口角も上がった。
    「もし導入したらすぐに教えてくれ、登録するから」
    「お得意様だからスミスは十%OFFにしてやるよ」
    「お得意様だから? 俺だからって事にして欲しいなぁ」
    「言ってろ」
     軽口を言い合いながら、一階にはフードコートがあるしこのまま上から順繰りに店を見て回り階下に降りようという話になった。普段は立ち寄ることのない系統の店でも二人で入れば楽しかったし、興味のある店であれば尚のこと盛り上がる。子供も連れずに男二人で子供服の店に入った時はいささかの奇妙さを感じたものの、やれルルにはこの服が似合うだの、やれルルはこっちの色の方が好きだだのとやり合っていれば、感じた奇妙さもすぐに薄れてしまう。
    「そう言えばルルから言伝があったんだ。またイサミのカリーが食べたいってさ」
     コットン生地のワンピースを片手に、別れ際に頼まれた伝言を思い出す。今朝のルルはスペルビアに会うからとうんとお洒落をしてシフォン素材のワンピースを着ていたが、少々熱そうだった。これぐらいの生地なら通気性もよく、過ごしやすいだろうか。ルルを引き取ってから数年は経つのに、成長の早い子供はまだまだわからないことだらけだ。
     色は何色がいいかと迷っていたらひょいとスミスの手元を覗き込んだイサミが「ルルに似合いそうだな」と言う。先程からどの服を見てもそればかり言っていることにきっとイサミは気付いていなくて、スミスはそれが微笑ましかった。
    「カレー作るとあんたもルルもよく食べるからな。毎度作り甲斐がある」
     事もなげに告げられた言葉にスミスが咄嗟に頬の内側を噛んだのは、そうしなければ盛大に腑抜けた表情を晒してしまいそうだったからだ。
     甲斐がある、なんて甘やかすにも程がある台詞にイサミは全くの無自覚なのだから恐ろしい。純真な顔のままで「その服ならこれとか良くないか?」と麦わら帽子を差し出してきて、その帽子に巻かれたリボンに白く小さな花が咲いていることにもスミスは心を掻き乱された。呻かずにいるだけで精一杯だ。
    (イサミ……君って、ほんとに)
     どうしてそんなに健気なのか、いじらしいのか。
     いかにも〝お花屋さん〟らしい選定も、イサミにとってスミスとルルに手料理を振る舞うことは手間でもなんでもない事も、眩しくて仕様がない。
     今更ながらに今日はルルがいないことを実感する。彼女がここにいれば自制心を保つのはもっと簡単だったのに。これが今日一日続くのかと思えば、嬉しいような、なかなか厳しいような……それでも天秤は僅かに前者に偏って、スミスは笑顔を見せた。
    「イサミの作るカリーは絶品だからな、食えば食うほど腹が減っちまうんだ!」
     帽子を受け取れば、スミスの言葉と行動の両方にイサミは嬉しそうにして、スミスはまたしても呻き声を呑み込むこととなった。幸せな前途多難である。
     どうせなら上から下まで一式揃えようということになり、靴まで選ぶと箱の分だけ荷物はそれなりに嵩張った。大した負担ではないものの時間はまだまだあることだし、一度休憩を挟むことにして二階フロアの片隅にあるコーヒーショップを覗き込む。有名なチェーン店だが昼前だからか客はまばらでカウンター席もテーブル席も空いていた。休憩するには丁度良い時間だったようだ。
    「あら、イサミくん」
     その人が声をかけてきたのは、イサミがホットのドリップコーヒーを、スミスがアイスのカフェラテを片手に壁際の席に着いた時だった。
    「サトウさん」
     グレーヘアを上品に整えた女性は、驚きに目を見開き立ち上がろうとしたイサミをやんわりと片手で押し止めた。そのままで、と首を横に振る仕草もどこか品がある。
    「奇遇ねぇ。今日はお店、お休みなの?」
    「はい、本当に。俺は休みで、店はヒビキが」
    「ああ、ヒビキちゃんが!」
     うふふ、と笑う女性の声は柔らかい。イサミも緊張を見せたのは一瞬のことで、すぐに表情を和らげた。
     雰囲気からしてどうやら彼女は花屋の客らしい。イサミのこともヒビキの事も親しげに呼んでいるところを見るに、常連客なのだろう。邪魔をしては悪いとスミスはそっと気配を殺した。
     ほんの二、三言、会話を交わすイサミの横顔を静かに眺める。堪能ではないとはいえ全く日本語がわからないわけではなく、聞き取ろうと思えば可能だったが盗み聞くようで気が引けたので、会話はなるべく意識の外においた。それでも、イサミの声が穏やかであることは耳に入って来る。
     スミスはストローに口をつけてカフェラテを啜った。どこの店も紙のストローであることが増えてきたが、この店はまだプラスチックのストローなのが嬉しい。紙のストローはどうも口当たりがよくなくて好きになれないのだ。ミルクの甘味が優しいカフェラテはよく冷えていて、ひんやりとした喉越しが心地良かった。
     常々イサミは自身を不愛想だ、愛嬌もないと言うが、そんな事はないとスミスは思う。現に今だって低い声はカフェラテの如く心地良く鼓膜を揺らすし、表情筋も柔らかい。露骨な笑みを浮かべはしないが十分に優しくて誠実だ。
    (イサミは結構、他人が好きだよな)
     イサミは愛想がないわけではなくて、善意であれ悪意であれ、嘘を付けないだけなのだ。その分だけ、相手から向けられた好意には好意で報いる性質である。イサミが今こうして穏やかな空気を漂わせているのはきっと常連客である彼女もまた、誠実な人だからだろう。スミスが彼女に好感を抱くにはそれだけで十分だった。
     三分にも満たない会話を終えると、彼女はスミスに向かって微笑んだ。
    Excuse me for interruptingお邪魔してごめんなさいね.Hope you have a wonderful day素敵な一日を
    Likewiseあなたも
     突然の英語に今度はスミスに目を瞠る番だったが、驚きつつも返せば彼女は笑みを深めて頭を下げる。吸い寄せられるように立ち去った先には彼女を待ち構える男性がいた。恐らくは彼女の夫なのだろうその人は、こちらを振り向くと彼女同様に頭を下げる。なんとも日本人らしい所作にスミスもつられて頭を下げれば、隣からくすくすと楽しそうに喉を揺らす声が聞こえてきた。
    「お前もすっかり日本に染まってきたな」
    「そうかな? まだ俺としては全然だけど。例えばこれとか」
     そう言って容器の結露したカフェラテを掲げてみせる。
    「ジャパンはなんでも小さい……足りない……」
     わざとらしくしょげて見せればイサミはいよいよもって肩を揺らして笑った。小さな口からちらりと覗く並びよい白い歯にスミスは目を細める。
    「可哀想に。俺がもう一杯ご馳走してやろうか? チョコレートソースとクリームを増し増しにしたやつ。チョコチップもいいぜ」
    「それ、後日でも有効?」
     至って真面目な表情でスミスが言えば、イサミは目を丸くして、とうとう顔を覆って笑いだす。想定以上にツボに入ったようでなかなか顔を上げられない姿にスミスは満足だ。
    「後日も有効にしてやる。一番大きいサイズにしてやろうな、クッキーも買ってやるよ」
     まるで子供に言い聞かせる調子なのに声は優しい。イサミがこんなに優しいのは、スミスの好意にも報いてくれているからだろうか。なんにせよ、自称不愛想なイサミがスミスの前ではこんなにも表情豊かなことは、スミスの優越感を満たすのだった。
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