補色 「ハインライン大尉。一つ試したいことがあるのですが協力を願えますか?」
「僕にできることでしたら」
「大尉にしかできないことです」
「詳細を聞いても?」
「俺の上着を羽織ってもらえませんか?」
改まって協力してほしいなどと言うから何事かと思えば斜め上の回答が来てしまった。言葉に詰まる。無言を肯定と受け取ったらしく、じゃあさっそく、なんて言いながらノイマンは上着を脱いでハインラインに手渡そうとしていた。
「羽織ってもらうだけでいいですよ」
上着を着るくらいなんてことないが、ノイマンの意図が掴めない。着たらスッキリする回答が得られるのだろうか。ハインラインは自らの上着を脱ぎ、ノイマンから彼の上着を受け取る。持ちますよとハインラインの上着は預かってもらった。羽織るだけでいいと言っていたが、腕も通す。ほのかに暖かい。サイズは別段差は無いようだが?前を閉めていないので確信は得られない。ノイマンはこれを見て何を知りたかったのか。
「やっぱり似合いますね!」
ハインラインはノイマンの弾んだ声に意識が戻される。
「やっぱり?」
「知ってますか?黄色と青色って補色なんですよ。互いに補い合って良い色に見せてくれるんです」
なるほど。やりたかったのはこれかともやもやが晴れていく。
「普段大尉が着ているのは技術部門の制服でしょう?そっちももちろん似合ってますが、俺の制服の色も似合うんじゃないかなぁと」
試してみたくなってしまって、と照れくさそうにノイマンは告白した。ハインラインの髪色とノイマンの制服。制服よりもわかりやすい対象があることに気づいていないのだろうか。
「その理論でいくと、僕の髪色とあなたの髪色もそうではないですか?」
「へ?」
ノイマンへと手を伸ばし、濃紺の艶やかな髪へ指を絡める。サラサラと指の間からすり抜け、心地よい手触りに口角が上がる。
「僕とあなたは相性がいいみたいですね」
髪から手を引く瞬間に、指の背で頬を一撫でするのを忘れない。ぴく、とノイマンの身体が反応した。貸してください、と半ば強引にノイマンが持ってるハインラインの制服を奪い取った。呆けているノイマンに肩から羽織りかける。
「あなたも似合いますよ」
「こ、これは補色では、」
「自分のものを着せるというのはこんなにもいいものなんですね」
「き、聞いてます?」
「なるほど、これが彼シャツ…」
「ちょっと!?」
暫く自分色に染まったノイマンを堪能するハインラインと、恥ずかしさが襲ってきたのか脱がしにかかるノイマンの攻防が目撃されたとか。
「早く脱いでください!」
「おや、大胆ですねノイマン大尉」
「ハインライン大尉!!」