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    Rahen_0323

    @Rahen_0323

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    Rahen_0323

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    呟いていた合意誘拐監禁モブツバの導入です。今のところモブ→ツバ。
    kktbtが精神崩壊寸前でちょっと情緒不安定です。捏造妄想自己解釈、原作改変となんでも許せる方向け。モブツバなのでオリジナルのモブがメインキャラとして出ます。
    この後ふわふわハッピー監禁ライフが始まります。多分続く。

    氷獄の外へとオイラ、カキツバタがブルーベリー学園で初めての敗北を喫し、スグリが新チャンピオンになってから随分経った。
    チャンピオンが替わるということは、それはつまりリーグ部の部長も交代になるということで。まあオイラは頂点にもリーダーにもあまり執着は無かった為、最初は素直に努力して強くなった後輩を讃えた。

    ただ話はそう単純じゃなかった。

    確かに林間学校から帰ったスグリは豹変した。でもこんなことになるとは思うわけないじゃないか。

    まさかあの気弱で人見知りの少年が絶対王政を敷き、部員にまで強くなることを強要する独裁者になるなんて。気に入らない全てを排除するなんて。

    お陰様で四天王に都落ちしたオイラや残りの三天王はまあ色々走り回る羽目になって。楽しかった箱庭はあっという間に地獄の牢獄と化してしまった。

    「なーんか、虚しいねぃ………」
    なんとか仲間達、特にタロとネリネとアカマツ三天王にまでトゲが向かないよう頑張ってるが。何度も暴言をぶつけられ、寄りかかるように当てにされ、かと思えば公開処刑のようにスグリに負かされたら「期待外れ」と冷たい目を向けられる。そんなのが繰り返されれば流石に少しは堪えるってもんで。

    極め付けに、昨日なんて。

    『こんなことになったのはお前が負けた所為だろ。暗躍紛いのことしてヒーローごっこか?しょうもない』

    部員、いや今は元部員の一人にそう嘲られ退部届けを叩き付けられて、なんと言えばいいのか分からなかった。

    「無駄なんかなあ、全部」

    守ってやってるなんて思い上がってはいない。思わないし言わない。でも少しでも可愛い後輩達の助けになりたいという気持ちは本物で、責任も感じてて。
    償いなんて殊勝なモンでもないが、これでも皆の為になにか出来ないか考えてきたつもりだった。それでも彼ら彼女らの心は次々と離れていく。

    なにも報われない。なーんにも意味が無い。

    ……自分なんて居ても居なくても同じだとちゃんと知ってたつもりだったのに、こんなに傷付くなんて。馬鹿馬鹿しかった。

    「………………………」

    仲間達は忘れてるのかもしれないが、オイラだって普通の人間で人並みに悩むこともある。
    だから仕方ないんだ。こういう気分の時は考え過ぎない方がいい。お菓子でも食って寝てしまえば……

    ……まあ、最近食欲無いし、あんま寝れてないんだけど。

    「はぁ…………」
    人の居ない部室でつい溜め息を零す。
    そこでスマホロトムが震えて勝手に飛び出した。
    『ロトロトロト!』
    「電話……相手、は」
    ディスプレイには『ジジイ』と書いてあった。

    なんだか出てはいけない予感がする。いや、予感なんて大層な直感じゃない。きっと今のメンタルでは出ない方がいいというだけだ。

    どうせ応じたって説教をされるだけだ。そうだよ、皆いつも怒ってキレてばっかでさあ。もっと緩く気楽にやれないのかね。

    …………分かってても、結局祖父に逆らえない自分も居て。

    気付けば通話ボタンを押していた。

    (あーあ……もう、どっか遠くにでも行ってしまいたい)

    心の中で零したボヤきは、当然拾われることは無かった。









    氷獄の外へと









    「……くん?カキツバタくん!」
    「あ……」
    予想通りの内容だったジジイとの通話を終えた後、いつの間にか寝てしまっていたらしい。知らない声によって意識が浮上して、突っ伏していたテーブルから離れた。
    「あー…………」
    「起こしちゃってごめん。カキツバタくんに届け物があって……」
    視線を向けると、見覚えはあるにはある男子生徒が傍らに立っていた。名前は思い出せないので多分リーグ部員でも元部員でもクラスメイトでもないヤツだ。
    しまったな、知らない人間が近くに来ても起きないとか……随分爆睡しちまったようだ。
    「アンタは」
    「あ、二年のドーム部です。ポーラエリアとスクエアについての書類を……」
    次から次へと気持ち良くないものが舞い込む。そろそろ勘弁して欲しい。
    眠くて怠くて気力が無くて、それでもここで突っ撥ねるわけにもいかないので書類を受け取った。……いつも以上に目が滑って読めない。わざわざ直接届けに来るなら急ぎなのかもしれないが、どうにか引き延ばせないだろうか。
    「あの、カキツバタくん、大丈夫……?」
    「んー?なにが?」
    ぼんやりと文字を読んでる振りをしていたら、ドーム部の男はオイラの顔に手を伸ばした。
    咄嗟に逃げられず固まっていれば、目の下をなぞられる。
    「隈。凄いよ」
    「…………」
    「顔色も悪いし、もしかして体調でも」
    「いやあツバっさん全然元気だぜぃ?大丈夫大丈夫」
    「でもさっきボクが近づいても起きなかった。キミらしくもない」
    リーグ部ですらないヤツがオイラのなにを知ってんだか。なんだか苛々してきて、しかし他人に当たり散らせばスグリと同じだとグッと堪えいつも通り笑う。
    「書類は後でもいいですから、ちょっと休んだ方が」
    「へーきだよ。ペン取って来るわ」
    「いやでも」
    なにを書けばいいのかも分からなかったが、テキトーにやってんのはいつものことだしいいだろ。
    そう立ち上がった瞬間、視界が一気に回転した。
    「え」
    「危ないっ!!」
    まるで踏ん張ることも出来ずに崩れ落ちる。
    だが、床に激突する直前でさっきのドーム部員が支えてくれた。存外力強く抱えられてゆっくり床に座らされる。
    「はぁっ、っ、はぁ、」
    「や、やっぱり大丈夫じゃないって!医務室に行こう。送るから」
    「へ、いき、だって、余計な、こと、」
    「余計だろうと具合悪い人を放っておくわけにはいきません!」
    大丈夫なんだ。全然平気なんだよ。中途半端に優しくするくらいなら見なかったことにしてくれよ。
    どうせ大して心配なんてしてないクセに。コイツだってきっとなにも出来ないオイラを疎ましがってんだ。
    ……もう素直に受け止めることなんてする気になれず、振り払おうとした。
    でも腕に力が入らなくて突き飛ばせない。思っていたよりも身体にガタがきてるようだった。
    「カキツバタくん、本当に休んだ方がいいって。最近頑張り過ぎなんだよ」
    「……アンタになにが、」
    「分かるよ。見てたから。皆の為に駆け回って、皆の嫌な感情受け止めて、スグリにも気を遣って……そんなの、本来キミじゃなくて先生達の役目なのに。皆は気付いてないみたいだけど、キミはずっと頑張ってるじゃないか」
    ……なんだよお前。止めろ、止めてくれよ。もう黙って放っといてくれ。なんの為にもならなかったのに、そんな。
    「人もポケモンも休憩は大事なんだよ。キミ程の人がそれを理解してないわけないだろ?誰かになにか言われたらボクが説明するよ。だから」
    急に現れてなんなんだ。なにも知らないクセに踏み込まないでくれ。認めないでくれ。
    そんな優しく言われちまったら、もしもそれを受け取ってしまったら、もう
    「一休みしよう。『いつも全力だと疲れちまう』、でしょ?」

    きっとこの時の自分の心は、とっくに限界など超えていたのだろう。

    繰り返し休息を勧められて、年下にするみたいに頭を撫でられて、なにかがプツンと切れた気がした。

    「あ、ぁ、ああぁぁあぁあああ……!!」
    「わっ」
    いつもの自分だったら軽く受け流してた。単なる同輩でしかない相手になにを言われたってまるで響かなかっただろう。
    しかし踏み荒らされ蹂躙され尽くした精神はなんでもいいから支えを求めていて。溢れる涙を止められず彼に縋ってしまった。
    「もう、っ、つかれた……!!もう、ひっ、やめ、たいっ……!!」
    「………リーグ部を?」
    「ぜんぶ、っぜんぶ、やめたい……っ!!なにもしたくない、なん、にも、たのしくっないよ……!!」
    コイツに吐き出したって仕方ないのに、泣き喚いてもなにも解決しないのに。なにも楽しくなくてなにもしたくなくて、もう消えてしまいたくて。
    ぐちゃぐちゃな感情を幼い子供のようにぶち撒けた。
    ……ドーム部員は静かに相槌を打って、やがて背中に手を回してくる。

    「じゃあ、ボクが攫ってあげようか」

    「え……?」
    一瞬言われた意味が分からず、ポカンとする。
    名前も知らない同輩は腕に力を込めながら続けた。
    「ボクの故郷、遠い地方の田舎でさ。運が良ければずっとそこに隠れられると思うんだ。……ボクはキミを救いたい。キミが望むなら、誘拐してでも連れ出すよ」
    「なに、でも、そんな、ことしたら、あんたが」
    「ボクの人生一つでキミを救えるなら安いもんだよ。それに、もうこんな学園になんて、キミを苦しめる世界になんて興味も無い。一緒に……行こう」
    なんで、なんでおれなんかにそこまで。マトモに話した回数すら数えるほどだろうに。おれなんてアンタの名前すら憶えてないのに。
    「…………気持ち悪いかもしれないけど……一方的な憧れだよ。なにも無いボクにとって、キミの背中は強くて広くて眩しくてさ。ずっと見ていたいと思ってた。隣に立てなくても近くに居たかった。今もその気持ちは変わらない」
    「……もう、チャンピオンでもないのに……?」
    「当たり前だよ。羨望は簡単には消えない」
    嘘ではないらしい。
    自分を好いている物好きが居るだなんて、今も憧れてると言ってくれるヤツが居るだなんて、思いもしなかった。
    正直あっさりとは信じられない。どうせコイツもそのうちおれを見捨てるんじゃないか、期待外れだったって冷笑するんじゃないかと不信感が募る。
    それでもやっぱり、ここから出て行けるなら……誰も知らない場所に消えてしまえるなら……息が出来るようになるかもしれないなら、もう、どうだってよかった。
    どうせここに居たってなにも出来ないんだ。後輩一人救えない自分に価値などハナから無いだろう。そうだよ、おれが居なくなったって誰も困らないじゃないか。

    ならいっそ、こんな自分など去ってしまった方が皆の為でもあるだろう。

    下手をすればコイツの人生を壊してしまうかもしれないけれど。見つかった時は自分が言い出しっぺだと言ってしまえばいいだけでもある。

    「…………ボクはもう覚悟決めてるけど。カキツバタくんは、どうしたい?」
    おれはしゃくり上げながら年下の同輩の服を握り締め、頷いた。

    「いく……っだれも、居ない、とおくに……連れてって」

    彼はホッとしたように息を吐き出し、「勿論」と微笑んだ。

    「今夜の消灯後。ドーブルの"テレポート"で迎えに行く。それまでに準備はしておいてください」

    こうして、なにも出来ない自分とそんな自分を助けたがる変わり者は、二人箱庭から飛び出すことを決めた。















    逃亡を決めたその日の夜中。もう直ぐ日付を跨ぎそうな時間に、アイツは約束通り現れた。
    誰かに見られたり監視カメラに映る可能性を考慮して"テレポート"で入って来た彼は、静かに尋ねてくる。
    「準備は?」
    「出来てる……どうせ持って行きたいモンなんてそんな無えけど」
    着替えとポケモンの為の道具だけを入れた鞄を掲げれば、少し寂しそうにされるが。
    元々この部屋にもあまり物を置いていなかったのだ。思い出の品や娯楽なんかもなんだかどうでもよくて、全て置いて行くことを決めた。
    「早く行こう。長居したってしょうがねえよ」
    「分かった」
    一度決めると随分冷徹になれた。スマホロトムを机に置き、退学届けも残し、いつも腰に巻いていたマントさえ放り出して、ドーム部員のポケモンの"テレポート"で移動する。
    出た場所は、校舎の真上。誰の視界にも入らないであろう空中に移動させられたオイラ達は、それぞれ手持ちのカイリューとエアームドを繰り出しキャッチしてもらう。
    「カイリュー。そのままご主人を抱えてボク達について来て。エアームドも頼んだよ」
    オイラを腕に抱いたカイリューは控えめに返事をして従い、エアームドも何処かへ移動を始める。

    広々とした夜空と昏い海は、不気味で綺麗で静寂に包まれていて。

    眺めているとどうしようもない解放感を覚えた。





    道中、本当に学校はいいのかと怖々訊けば、ドーム部員は「元々少し前からリモート授業に切り替える予定だったんだ」と明かした。
    そもそも彼は地元でポケモン研究をするのが夢で、その経験や資格の為にブルーベリー学園のドーム部に入ったのだと言う。成績優秀だったお陰で資格試験も無事に合格し、もう学園に居る理由もあまり無かったとか。
    「それでも中退したら経歴に傷付いちゃうから卒業はするつもりだったけど、早く故郷に帰りたくてね。相談したら、先生の方から遠隔授業を勧められたんだ」
    まあよくある話だ。熱心な研究者や夢を持つ人間は、早くその世界に飛び込みたいと思うものだろう。
    ……それなのに。
    「なあ、オイラやっぱ」
    「引き返させないですよ」
    「……!!」
    「言っただろう?ボクはどうしようもないくらいキミに憧れてるんだ。最初はポケモン勝負なんて興味も無かったのに、この子達を鍛える気にさせられたくらい」
    彼はそうエアームドを撫でる。エアームドは得意気に鼻を鳴らした。
    「夢があったからリーグ部には移籍出来なかったし、ブルベリーグのランキングにも掠りすらしなかったけどさ。それでもキミの背を見るのは、キミを見習ってバトルするのは楽しかった。なにも無かった世界に光が差したような気分でしたよ。才能に魅せられるっていうのはこういうことなんだろうね」
    「……アンタには、夢があるんだろ。『なにも無い』こたねえ」
    なにも無いのはおれの方で、おれには才能だって。
    そもそも羨望を抱いてもらうような立派なリーダーでさえなかった。負けた挙句、なんにも出来なくて……今こうして逃げ出して。

    「憧れる相手は選んだ方がいいぜ。ロクなことにならない」

    今更なんだって感じだが、最後のチャンスを与えるつもりで諭した。
    今ならまだ戻れる。オイラを見捨てれば、コイツは純粋に綺麗なまま夢を追えるんだ。
    なのに強情な大馬鹿野郎は、憂いも後悔も無さそうに笑った。

    「破滅上等だよ。好きな人を殺してまで掴む未来に価値なんてあるもんか。ボクはボクが正しいと思う道を行く」

    スグリ達なんかに、キミは譲らない。

    ハッキリ言い切ったコイツは、やはりとんでもない馬鹿なんだな、と呆れ果てた。
    そんなヤツについて行く自分も、大概愚か者だ。

    …………カイリューに包まれている安心感と久しぶりに楽になった呼吸に、少しずつ瞼が落ちていく。

    きっと到着までは暫く掛かるだろう。寝てしまえ、と考える前に意識を失った。





    目が覚めると周りが眩しくて、肌寒かった。
    思いの外熟睡してしまったようで、もう目的地であるドーム部員の故郷に着いていたらしい。エアームドはとうに戻されていて、目の前に立っていた彼の宝石のような瞳が瞬く。
    「あ、起こしちゃいました?何度もごめんなさい」
    「………………」
    彼の故郷は寒冷な地域なのだろうか。周囲は真っ白で、どうやらカイリューに抱えられたままのオイラにマフラーや毛布を巻いていたっぽい。一生懸命包まれて、なんだかポカポカする。
    「眠いならまだ寝ててもいいよ。疲れてるんだもんね」
    「………………」
    頭がボーッとする。ずっとごちゃごちゃ乱れていた思考と感情が怖いくらい凪いでいた。
    どうにも自分は自覚していた以上に限界だったらしい。連れ出してくれた彼に返事をする気力も捻出できず、ぼんやりされるがままでいた。
    「よし。早く帰ろう。……カイリュー、寒いと思うけど、カキツバタくんの為にもうちょっとだけ頑張れる?……うん、良い子だね。ありがとう」
    ふわふわな毛布の感触が心地良くて、また眠くなってきた。自分はこんなにも眠り続けられる人間だったのか。昔からいつも浅い睡眠しか取れていなかったのに。
    そういえば、最後にちゃんと寝たのはいつだったかな。ああ、思い出すのも面倒だ。だるい。ねむい。
    間も無く身体が揺れる。彼とカイリューが歩き出したみたいだ。なるべく負担にならないよう気遣ってくれる緩やかな振動が心地良い。

    気付けばまた寝落ちていて、ドアの開閉音で再び目覚めた。
    「ここがボクの家だよ。広いでしょ」
    ギリギリだがカイリューも通れるほど扉が大きかった。家自体も大きく広く、ちょっとビックリする。
    ……実家のデカさに関してはおれもあまり人のことを言えないが。
    「ここ、ボクの両親が遺してくれた家でさ。ボクには兄弟も親戚も同居人も居ないから、安心していいよ」
    「………………」
    遺した……コイツには家族が居ないのか。
    なんで、と単純な疑問は湧いたものの、生憎まだ声を出す元気が無い。まあ知らなくても問題は無いし不躾に質問することでもないな、と思い至って忘れることにした。
    「カイリュー、こっちだよ」
    ドーム部員は少し歩いた先にあった階段を上り始める。カイリューはなにも言わずに後を追った。……今更ながら、自分の手持ちがなんの疑いも敵対心も持たずに他人に従うとは珍しいと感じる。賢いドラゴンは状況もおれの状態も理解しているのかもしれない。
    ……ちょっと申し訳なかった。何処までも情けないトレーナーだな、と内心自嘲する。

    一人と一匹が暫く進んで、一つの部屋の前で立ち止まる。
    何処からどう見ても普通の扉を彼は開けた。お邪魔させてもらうと、中はこれまた広く大きなベッドやテーブル等の家具がある。
    「今日からここがキミの部屋だよ、カキツバタくん。一応不自由は無いと思うけど……全部元々あった家具だから、ちょっと古いのは許してください……」
    おれは防寒具に覆われたままそっとベッドに下ろされる。ふかふか柔らかくて気持ち良かった。
    「そっちはトイレで、そっちはお風呂場……あ、説明は元気になってからの方がいいかな」
    冷静に見えたドーム部員も案外緊張していたらしく、頬を掻く。お察しの通りあまり言葉が頭に入らなかったので中断してくれたのは有難かった。
    またうとうとしていれば、荷物の中に居たカイリュー以外の手持ち達も飛び出す。
    「……皆カキツバタくんを心配してるみたいだね。とにかく、ゆっくり寝てていいよ」
    「…………ぅ、ん」
    「!!」
    流石に黙りっぱなしも、とどうにか頑張って絞り出すと、それだけで彼は嬉しそうにする。単純な男だなあ。
    「とりあえず、ボクはご飯作ってくるから。皆、カキツバタくんのことちゃんと見てあげてね。なにかあったらそこの内線を使って。受話器取るだけで繋がる筈だから」
    不審に思えてしまうくらいずっと優しくて穏やかな彼は、こちらを心配そうな目で見ながらポケモンを撫でた。可愛い仲間達は『任せろ』とばかりに頷く。
    「じゃあ、えーっと、おやすみなさい……」
    散々キザな台詞を吐いていたクセに変に恥ずかしがる彼は、そう出て行った。
    途端にポケモン達の注目がおれに集まる。急に勝手に引っ張り回してしまったのもあって、なんか気まずい。
    それでも相変わらずおれをマスターだと認めてくれてるのか、彼ら彼女らはシーツを掛けてくれたり荷物を邪魔にならない場所に移動させてくれたり靴を脱がせてくれたりと世話を焼いてくる。いつだって純粋で良い子達だ。コイツらだけは置いて行かなくて本当によかった。
    暖房が点いているのか、部屋は暖かくて心地いい。気温とかは寒い方が好きだけれど、なんだかずっとポカポカして安心する。
    眠いなあ。ずっと眠い。言われた通り寝れるだけ寝ようかな。まだ頭が重いし、なによりこのまま疲れ切って会話も出来ないのはよくない。少しは動けるようにだってなりたい。
    ゆっくり瞬きを繰り返して、這い寄る睡魔に抗わず目を伏せる。

    大丈夫。大丈夫。ここには誰も居ない。誰も探しに来ないし誰も攻撃してこない。

    だから悪い夢だって見ない筈だ。眠りを妨げられることは無い筈だ。

    大丈夫、大丈夫…………

    自分に何度も言い聞かせ、落ち着かせているうちに、コロッと気絶するように眠ってしまった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💜😭😭🙏😭💜💜💜
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    Replies from the creator

    Rahen_0323

    DOODLE完結したシリーズの補完話という名のおまけです。全て幻覚。
    学園に戻って来た時のカキツバタの話、姉弟が戻って来た時のちょっとした話、カキツバタとスグリの和解っぽい話の三本立てです。あんまりしっかり書くとまた長くなりそうだったので全部短い。
    手持ちとの話とかお義姉様との話とかまだまだ書きたい話はありますが、構想固まり切ってないので書かないかもしれない。
    地獄の沙汰もバトル次第 おまけ「たでーま戻りやしたー!」
    退院したオイラがそう部室のドアを潜ると、室内に居た全員が一斉にこちらに注目して。
    座っていた部員は全員立ち上がり、他の皆と一緒に震える。
    「かっ、カキツバタぜんばいいいっっ!!!!」
    「カキツバタ!!!!」
    「ツバっさーん!!!」
    「うおおおっ」
    かと思えばアカマツが号泣しながら突撃してきて、タロやネリネ、ハルト、他後輩達も集った。
    「うわーん!!!帰って来てくれて良かったぁ!!!おかえりぃいーー!!!!」
    「シャガさんや、アイリスさん来て、っ、スグリくんもゼイユさんも休学して……っうう、カキツバタ、もう戻って来ないのかと……!」
    「ネリネも不安でした……怪我も回復したようでなにより」
    「おかえりー!!」
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    Rahen_0323

    DONEスグリ対策考えてたカキツバタif、最終話です。全て幻覚。
    怪我の描写とか色々好き勝手してるのでなんでも許せる方向け。1〜8話と過去作の「お前を殺す夢を見た」を先に読むことを推奨します。
    一応今回で終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。書きたいシーンがまだあったりするので補完話も書く……かも……?って感じですね。既に大分満足してるので分かりませんが書きたい気持ちだけはあります。
    地獄の沙汰もバトル次第 9(終)検査が「異常無し」ということで終わり、僅かに負った擦り傷の処置をされた後。
    エリアゼロは一応パルデアにあったので、僕はオレンジアカデミーの先生や保護者であるママを呼ばれてそれはもう心配されてしまった。大穴に入ったのはアカデミー理事長でもあるオモダカさんの許可の上とはいえ、クラベル校長やジニア先生はとても怒っていて。校長なんて「私の方から理事長に抗議します!」とまで言っていた。
    ママもぎゅうぎゅうと僕を抱き締めて凄く叱ってきた。「冒険するのはいいけど、そういう場所に行くならせめて事前に伝えて」と。以前無断で侵入したのもより不安を加速させてしまったのだろう。それについては何度目か深く反省した。
    「とにかく、手当ては済んだのでしょう。理事長への報告などもブライア先生からされると聞きました。今日のところはアカデミーなりご実家なり、落ち着ける場所でお休みを……」
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