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    other8e

    ジャンルよろずの腐。倉庫代わり。現在@8e1eにひきこもり中

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    両片想い

    #蘭嶺
    orchidRidge
    ##蘭嶺
    ##蘭嶺SS

    時計が夜の9時をまわった頃、玄関の扉を遠慮がちに叩く音が聞こえた。
    その音で先日壊れたイン夕ーフォンをそのままにしていたことを蘭丸は思い出す。
    ちょうど今はベースの練習もしておらず音の鳴る機器もつけてなかった。場合によっては居留守を使おうと動きを止め、外の物音に聞き耳を立てる。
    アイドルという肩書きの身分としてはいささかセキュリティーに難のある部屋に住んでいるため、静かにしていると外の物音がよく聞こえるのだ。それはもちろん反対に外からも聞こえるということだ。身じろぎせずに外の気配を探っている間も、コンコンという音は少し間を開けながら続いている。そして周囲を気にしてトーンを下げているのか、かすかだが人の声も聞こえた。
    こんな時間に誰だよと思うも、すぐにこんな時間にアポ無しで来る人物は一人しかいないと、蘭丸はソファから腰をあげ玄関へと向かう。
    扉の前まで来ると先程よりははっきり聞こえる声に思い浮かべた通りの相手ががいることが分かった。蘭丸はこれから起こるだろう迷惑事に対する意趣返しだと、知らぬふりでドアの外に向けて声をかける。
    「どちら様ですか」
    「良かったランランいるんだね。ぼくだよ、ぼく。ドア開けてくんない?」
    そう呼ぶ相手は一人しかいないが、蘭丸は笑い声を堪えて続ける。
    「ぼくって誰だよ。 詐欺ならお断りだぜ」
    「ちょっ、ぼくだよ! れ・い・ちゃ・ん! なになに今日は何の気分なの? ていうかお願い早く開けて! 腕が限界!」
    すぐに開けてもらえると思っていた予想が外れ、嶺ニは少し慌てる。というのも、腕にはりんごが山ほど詰まった段ボール箱を抱えているためだ。
    蘭丸の済むアパート近くのコインパーキングに停めた車から部屋まで運ぶのも一苦労だった上、ここにきて足止めをくらってぷるぷると震える腕が限界を訴えている。
    慌てた嶺二の声は先程までとは違い、地のよく通る声に戻っている。近所迷惑という言葉が頭によぎった蘭丸が急いで扉を開けると、途端に腹部へどんっと重い衝撃が走った。うっと呻いて目線を下げれば大きな段ボール箱。それを嶺二が蘭丸に押し付けるようにして玄関へ入り込んだ。
    とっさに段ボール箱を抱えると予想よりずっしりとした重みが両腕にのしかかる。
    何が入ってんだという疑問は嶺二の声に遮られた。
    「も一! ひどいよランラン! 最初居留守も使うつもりだったでしょ。電気ついてるんだからバレバレだからね!」
    連絡も無しにこんな時間に来る方が悪いと言い返せば、嶺二もうっと言葉を詰まらせる。
    「だってスマホの充電切れちゃって連絡できなかったんだよ」
    唇を尖らせて言い訳をすろ姿は到底年上には見えないなと蘭丸は思う。普段は年上ぶるくせに、時折こうしてみせる子供っぽさのアンバランスさに蘭丸は自分の感情が翻弄されているのを理解している。
    口では文句を言いつつも、こんな時間に奕然やってくることをあっさり許すどころか少し嬉しいと思っていることも。
    「つーか狭いから早くあがれ」
    猫の額ほどの玄関に成人した男二人と大きな段ボール箱では身動きするのもままならない。
    自由な足先で嶺二の脛を軽くつつけば、嶺二は蘭丸と押し付けた段ボール箱とをよけてさっさとあがりこみ、そのまま奥に続くリビングへと向かっていった。
    その背中に蘭丸は、何が入っているのかやたらと重い段ボール箱を返しそびれたことに気が付いたが、しぶしぶ抱えなおしてあとに続いた。

    「重いもん運ばせやがって。何入ってんだよこれ」
    蘭丸がリビングの床に段ボール箱を置くと、 嶺二はさっそく箱を開け中からりんごを取り出す。
    「じゃじゃーん! りんごでーす!」
    おいしそうでしょと、次から次へとりんごをテーブルに乗せていく。
    「ちょっと待て。いくつあんだよ。つーかどうしたんだよこんなに」
    「さっき母ちゃんから呼び出されて実家に行ってたんだけど、くじ引きで当選したのと、近所の人からのおすそわけと、親戚からのいただき物が重なっちゃったらしくて持ってけって押し付けられたの。ぼくだって一人暮らしなのにこんなにあっても困るのにさあ。それで、ランランにおすそ分けでもしようかなってね」
    ランランならたくさんあっても困らないでしょ、と言う嶺二の言葉に、確かにな、と領く。
    ただ20個以上はあろうかというりんごを痛む前にどうやって食べきるか考えていると、取り出したりんごの中から5つほど嶺二が持ち抱える。
    すでに自分のものという意識が働いた蘭丸が思わず「あ?」と低い声を出すと、嶺二は「これはぼくが貰う分だよー!」とそのままキッチンスペースへと向かって行く。
    「アップルパイでも作ろうかなってね」
    オーブンゲットしてたじゃん?と、手ぶらで戻ってきた嶺二は先ほどの段ボールから、冷凍パイシートやタルト型、卵、シナモンパウダーなどを取り出していく。
    「まさか今から作るつもりか? うちで?」
    「ご名答! 正解したランランには出来立てほやほやを一番に食べる権利を進ぜよう!」
    会えて嬉しい気持ちと勝手に家電を使われることの不満をのせた天秤が後者に傾き、嶺二が取り出した材料を乱暴に奪い箱に戻すと嶺二に押し付け、そのままぐいと玄関まで押し出す。
    「んなもんてめえんちでやりやがれ」
    「ちょちょちょ、タンマ! ランラン、タンマ! 待って! ステイステイ!」
    「おれは犬じゃねえ!」
    狭い玄関で押し問答をしていたが、隣室からのドンという抗議の音にニ人揃ってぴたりと動きを止めた。
    段ボール箱を挟んで無言で嶺二を睨んでいた蘭丸だったが、引く様子のない嶺二に蘭丸が折れる。
    「なんでわざわざこの時間から作るんだよ。しかもおれんちで」
    「アップルパイが食べたくなっちゃったんだから仕方ないじゃん? ランランだってあるでしょ、そういう時。りんごを届けに来るのもあったし、どうせならランランと一緒に食べたいなあ、っていうぼくのけなげな気持ちだよ」
    「なら作ってから持ってこいって」
    「いつもならそれも有りなんだけど、ぼく明日から海外ロケなんだよね。しばらく日本にいないから今日しかないなって」
    「それこそもう帰れよ。寝坊しても知らねえぞ。アップルパイなんていつでも作れんだろ」
    「今がいいの!」
    いつにもなく我を押し通してくる嶺二に蘭丸は困惑する。
    何か嫌なことでもあって八つ当たりにでもしにきたのかと思うが、ともかくこういう時の嶺二には自分が何を言っても無駄だと蘭丸は分かっている。
    「焼肉で手を打ってやる。食べ放題じゃねえところのだぞ」
    「りょーかい!」
    蘭丸がしぶしぶ了承すると、嶺二はぱあっと目を輝かせ、ウキウキとした様子で準備を始めた。
    その様子にため息をつきながら蘭丸がリビングに戻ろうとすると嶺二に呼び止められ、皮むいてと包丁を渡された。
    「は? なんでおれが」
    「二人でやった方が早いじゃん」
    「てめえが作るっつったんだから一人でやれ」
    「ランラン。 もしかしてりんごの皮むくのへたくそなの」
    「んなわけあるか。全部繁げたまま剥けるぞおれは」
    「すごいじゃん、見せて見せて!」
    渡されたりんごに包丁を当てするすると皮を剥いていく蘭丸を、ちょろいなぁと嶺二は内心思っているが、めんどくさい作業をやってくれている蘭丸の機嫌を損ねないように大げさに褒める。
    その後も嶺二が面倒な作業を蘭丸に押し付けてもめながらも、あとは焼き上がりを待つだけになった。

     嶺二が使用した調理器具を洗っていると、手伝いを終えリビングに戻っていたはずの蘭丸がりんごを一つ手に持ち戻ってきた。
    「食べるの?」
    「動いたら腹減った」
    嶺二が蘭丸に洗い立ての包丁を渡すと、代わりにりんごを手渡される。
    洗えってことかな?と受けとったりんごをざっと水で洗い蘭丸へ返す。
    包丁を渡したものの蘭丸はそのまま食べると思っていた嶺二だが、水切り籠から取り出したまな板の上でりんごを何等分かに切り分けている姿を横目でみて、几帳面だなと思う。
    フレッシュジュースにはまっていたことはあるが、基本的に皮を剥く作業が面倒で一人の時は積極的に買って食べたりしない嶺二からしてみたら蘭丸はかなり丁寧な生活をしていると感じる。
    やっぱりランランのとこに持ってきてよかったと思っているうちに洗いものが片付き、タオルで手を拭いていると、横からまな板と包丁が流し場に追加された。
    「それもな」
    「ちょっとお、自分で洗ってよ」
    「さっきはおれが手伝ってやっただろ」
    「そーでした」
    再びスポンジを手に取る嶺二をあとにして、蘭丸はさっさりんごを乗せた小皿を持ってリビングへ戻って行った。
     片付けを終えると、焼き上がりまでの時間を確認し嶺二もリビングへと向かう。
    りんごをつまみながらスマホに目を向けている蘭丸を背にし、段ボール箱に一緒に入れていた鞄からハンドクリームを取り出すと、蘭丸の座るソファの隣に腰かけた。

     狭い部屋の中で座る場所なんて限られているのだから嶺二が真横に座るのは不自然ではないが、今夜はどうしてか少し蘭丸の心をざわつかせる。嶺二の様子がおかしいせいもある。
    横目でちらりとうかがえば、嶺二はこちらを気にするそぶりはみせずハンドクリームを手に塗り込んでいる。嶺二のこういうケアを怠らないまめさはすごいなと蘭丸は思う。
     唐突に何かの折に嶺二の手が触れた時のしっとりと吸い付くような感触を思い出して体温が上がるのを感じた。蘇った記憶を振り払うように頭をぶんぶんと振ると、突然の蘭丸の挙動に嶺二が目を丸くする。
    「えっ? なに急にどったの?」
    「なんでもねえ!」
    「おかしなランラン」
    気まずさをごまかすため声を荒げるも嶺二は気に留めた様子はない。理由はロが裂けても言えない蘭丸は、気を紛らわせるようにりんごをつまんでロに放り込んだ。しゃくしゃくと噛むほどににじみ出る甘さとほんの少しの酸味が蘭丸のほてった頭の熱を下げていくようだ。
    「ねえ、ぼくもりんご食べていい?」
    蘭丸が落ち着いてきた気配を察すると、嶺二は隣りにいる蘭丸を見上げるように首を傾げたずねる。
    その仕草は反則だ、と蘭丸は落ち着いてきたはずの熱がまた首をもたげてくるのを感じた。
    わざとやってんのかとキレそうになる気持ちをこらえて、フォークを乗せた側を嶺二の方向に向ける。
    「えっ、本当にくれるの」
    「あ?」
    「いやあ、ランランがぼくに食べ物分けてくれるなんて明日は槍でも降ってくるんじゃないの?」
    「んだよ。いらねえならおれが全部食う」
    「メンゴメンゴ! いただきまーす!」
    りんごの乗った皿を自分の元へと引き寄せようとする蘭丸に、慌てて嶺ニがフォークで手前のりんごを刺す。
    「ん、おいしー。生のりんご食べたの久しぶりかも」
    「まじかよ」
    「だって皮むいたり切るの面倒じゃん」
    「おまえそういうとこずぼらだよな」
    「い一の。あ一でもランランがむいてくれるなら果物もいいなあ。今度からそうしてもらおっかな」
    「ざけんな。めんどくせえ。おれだって一人ならわざわざ切って食ったりしねえよ」
    「んん? ってことはもしかしてこれはぼくちん用にカットしてくれたってこと?」
    しまったと思うも時すでに遅し。あげくとっさに何も言い訳が出てこない状況は肯定としか言いようがなく、嶺二もそう受け取ったようでにこにこと笑顔を蘭丸へ向けている。
    「そっかそっか。いつもならあっという間に食べちゃいそうな量なのに残ってたのもそういうことかぁ」
    嬉しそうな口ぶりで更に図星をついてくる嶺二に、蘭丸はいたたまれずそっぽを向く。
    「貰った礼だよ。くそっ。 ふざけてねえで食う時は黙って食え」
    「はぁーい」
    素直に返事をして、手に持つフフォークに刺したままだったりんごをしゃくりと半分ほど口に含む。口の中に広がるりんごと同じくらい蘭丸の照れ隠しのような不貞腐れた声と態度の甘酸っぱさに嶺二は目を細めた。

     クールでスマートにしたいのだろうが、根が素直なせいかかっこよくきまらずこうやって恥ずかしがる蘭丸の姿を見ることが、嶺二はほんの少しこそばゆさを感じつつも好きだった。
    素知らぬふりで立ててあげることもあれば、反応が見たいがためにわざと蘭丸が指摘してほしくない点をつついてからかったりすることもある。蘭丸が自分の言動で一喜一憂する理由に嶺二は気が付いていて、それを楽しんでいた。
    いわゆる両想いという状況だったが、嶺ニは最後の一歩を踏み出せずに今のつかず離れずの関係に甘えていた。
    次のステージへ行くための鍵は自分が持っていると理解しているが、ネガティブな想像が頭をよぎっては踏みとどまる、を繰り返してしまう。このままではいつか愛想を尽かされてしまうという焦燥感にかられては、今日のように口実を作って無理に会いに来たりしている。
    言い訳がないと行動できないくせに、そのくせ少しでも近づきすぎると逃げ出してしまう。
    蘭丸にとってば随分と思わせぶりな熊度に映っているだろうと、嶺二はそういう態度しかとれない自分に嫌気がさしていた。
    そしてどういうわけか今回の長期の海外ロケが近づくにつれ、漠然とした不安に覆われていた最中、たまたま寄った実家にあったりんごを口実にこうして発作的にやって来た。
    アップルパイなんて作ったことないけど少しでも長く蘭丸の部屋にいるための時間稼ぎだ。
    どうしてもロケで日本を離れる前に蘭丸と過ごす時間が欲しくて、不審がられるのは承知で押し切った。

     部屋中にパイの焼ける香ばしい香りが漂いはじめる。りんごの甘い香りの中で、カットされた最後の一つをかじりながら蘭丸の様子を窺うと、思いがけず視線が重なった。
    ここでそらすのも逆に気まずいよねと、嶺二はあえてにこりと笑ってみせると、ぽっと蘭丸の頰に朱がのぼったかと思えば物凄い勢いで嶺二から顔をそむける。
    どれだけぼくのこと大好きなの。これで誰にもバレてないと思っているのがランランのかわいいところなんだよなあ、と口角がゆるむ。


     オーブンから流れる軽快な音楽に、嶺二がキッチンへと向かう。
    扉を開ければ熱気とともに甘く香ばしい香りがあふれ出て、あっという間に部屋中がバターとりんごの匂いにつつまれる。ミトンと夕オルを使ってそっと取り出すとあらかじめ準備してあった皿に移す。
    刷毛で塗った卵がほんの少しだけ焦げかけているが、大部分は食欲を促すようにてかてかと輝いている。
    空になった小皿を片手にキッチンに入ってきた蘭丸も「うまそうじゃねえか」とご満悦そうだ。
    「はじめてにしてはいい感じじゃない? ぼくちん何やっても上手にできちゃって自分の才能がこわい!」
    「はじめてだあ? おれは毒見係ってわけか」
    「毒見じゃないって。初めて作るものだからランランに一番に食べてほしかったんだよ」
    「どういう意味だよ」
    「そのまんまの意味だよ。ランランの味覚を信じているんだぼくは。的確な食レポしてくれるでしょ」
    「なんだそりゃ。味の判定しろってか? それなら真斗でも、甘いもんならカミュでもよかっただろ」
    「ぼくはランランがいいの。ランランに食べてほしくて作ったんたから」
    「は?」
    「ほらほら、せっかくできたてのアップルパイなんだからアチチなうちに早く食べよっ」

     二人分を切り分けて、小皿にのせる。
    出来立てのアップルパイは、 火傷しそうなほどだがほどよい酸味が良いアクセントとなり二人ともぺろりと平らげた。
    「おいしかったね」
    「おう」
    「アイスとか乗せてもよかったんだけど、ランランいるか分からなかったから買ってこなかったんだよね」
    「おれがいなかったらどうするつもりだったんだよ」
    ちらりと隣に並べられたりんごの山を蘭丸が見やる。
    「んー、事務所にでも置いてきたかな。ほんとランランいてよかったぁ」
    材料も無駄にならなくてすんだし、と言う嶺ニに蘭丸は他のやつにはアップルパイを作る予定はなかったのかとほっとする。
     どちらともなくそのまま世間話に興じていたが、ふいに嶺二の視線が時計にうつる。それにつられて蘭丸もそちらを見ると、もうすぐ針がてっぺんをまわるところだった。
    「おまえ明日の出発何時だ」
    「たしか7時発の飛行機」
    「ばか! なにやってんだ。もう帰れ」
    「うん。さすがに帰らないとまずいか。なんか楽しくてうっかりしちゃった」
    「おれも聞いてたのに忘れてた。わりい」
    「いやいやランランは悪くないよ。ぼくが遅くに押しかけちゃったんだし」
    言いながら伊達眼鏡と帽子で簡単に変装して帰り仕度を整える嶺二を、蘭丸は手持無沙汰で見つめる。
    キッチン横を通った時に嶺二がはっとして「持って帰らなきゃ」と言うのを、帰国したら取りにくればいい、と蘭丸は気にする嶺二の背を押して玄関に向かわせる。
    今度は素直に玄関に向かう嶺二だったが、ドアの前で蘭丸に背を向けたまま動きを止めた。今夜はいつも以上に嶺二の考えが分からないでいる。
    「どうした」と蘭丸が訝しんで声をかけると、嶺二は振り返らず言葉を発した。
    「さっき色々言ったけどさ、なにか用事作ればランランちにあがりこむ言い訳になるでしょ。りんごなんて持って帰ってこなくてもよかったんだほんとは。でもしばらく会えないと思ったら何でもいいからランランに会いに行くロ実作りたくて」
    俺に会いにくる口実ってどういう意味だ。言い訳って何に対してだ。
    様々な疑問が蘭丸の頭をぐるぐるとかけめぐる。混乱した頭はうまく働かず、何も言っても不正解な気がして言葉が紡げない。
    そんな蘭丸に何を思うのか、嶺二はぱっと振り返るといつもの笑顔で、「お土産買ってくるから楽しみに待っててね」と告げると蘭丸が手を伸ばすより早くドアから出て行ってしまった。目の前でガチリと閉まる扉を見つめながら蘭丸は呆然と立ち尽くす。

     外を歩く音が遠ざかり、嶺二の気配が消えたのを認識すると、蘭丸は大きく息を吐いてその場にしゃがみ込んだ。
    思い返せば、今日ははじめから嶺ニの様子は少しおかしかった。嶺二なりに思うところがあって、時間もろくに無いのにあんなロ実まで作って会いに来たのかと思うとそのいじらしさに蘭丸の頰が緩む。
    確信は持ちつつも、嶺二本人から真意を聞きたかった。嶺二のことだから帰国するまでは答えを教えるつもりはないだろう。
    散々嶺二の態度に振り回されてきたが、今日はこれまでで一番だと恨めしく思う。けれどどうしても嬉しさで顔が緩みきってしまう。
    嶺二の帰国まで約二ヶ月。蘭丸はその日を指折り数えて待つことになった。
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