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    メノウユキ

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    メノウユキ

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    普通に寝過ごしました(反省)
    一応、これで一区切りなんで現段階ではここで終わりです
    感想あれば、くれると転がって喜びます()

    十二話 書斎の鍵 白衣の少女は私を客として扱うように決めたらしい。最初こそ突然現れた私の姿を見て驚いていたが、オイカワさんがあらかじめ説明してくれたおかげか、変な事態にならなくてよかった。
    「コーヒーは飲めるかしら?」
    「あー……えっと、苦いのは苦手で……」
    「紅茶は平気?」
    「はい、紅茶は大丈夫です」
    「わかったわ。ちょっと待って」
     彼女はそう言うと指を鳴らす。すると彼女が立っているすぐ後ろに何の前触れもなく女性が現れた。女性は黒いワンピースに白いエプロン、いわゆる侍女のような服装をしていた。肌は白く、明るい青色の長髪で佇まいは物静かな感じだ。よく見ると、女性の体はうっすら透き通っており、人ではないというのは直感的にわかった。
    「お呼びですか?」
    「来客です。紅茶とコーヒーをお願いするわ」
    「かしこまりました」
     侍女らしき存在は一礼をして消滅する。姿かたちは人間に近いが、おそらくあれも異形の一種だろう。突然現れて消えるなんて芸当、人間にはできない。
    「さて、と。色々話したいところがあるけれど、まずは自己紹介からかしらね。私はモモ。一応書斎の鍵の責任者であり、『管理者』という役職をしているわ」
     少女は向かいのソファーに座って微笑んだ。
    「書斎の……鍵? 管理者?」
     早速知らない単語が連発されて混乱する。それを察してか白衣の少女、モモさんは説明を始めた。
    「書斎の鍵というのは組織の名前ね。組織と言っても二人しかいない小さなものだけれど、その方が色々と都合がいいからそう名乗っているの。私の役割はこの町の治安維持のバックアップをすること。あとは色々と道具を作ったりして生計をたてている感じかしら?」
     そこまでいうと彼女は間を置く。
     それと同時に先ほどの女性がまた現れ、
    「紅茶とコーヒーをお持ちしました」
     と言って目の前の低いテーブルに丁寧な手つきで紅茶とコーヒーを置いた。
    「ありがとう。下がっていいわ」
    「かしこまりました」
     モモさんが指示をすると女性はまた消えた。
    「ごめんなさい、話が途切れたわね。それで、あなたの話を聞かせてもらってもいいかしら? まず名前はなんていうの?」
    「青山 宇宙(あおやま そら)です」
    「いくつか質問してもいいかしら?」
    「は、はい」
     やや緊張気味で返した。
    「貴女はペリについてはどれくらい前から知っていたの?」
    「ペリ……人じゃない、異形たちのことですよね」
    「えぇ、そうよ」
     自身が見えているものに関してちゃんというのはまだ慣れていない。なんて言ったらいいか、言葉が見つからない。
     だけど、見えるものに対して向き合うためにも、知っておかなければならないことが何か知ることができるかもしれない。
     私は戸惑いながらも、言葉をまとめながら話し始めた。
    「異形……ペリを見ることができたのは、物心ついてから。だけど、彼らについては何も知りません。周囲から不審だと思われないように、見て見ぬふりをしてきましたから」
    「どういったものが見えていたの?」
    「……色々、ですかね。明らかに人ではないとわかるものも、一見人と区別がつかないけれど、よく見ると違うというタイプもいました。ただ、ココノさんみたいに、完全に人に混じって生活しているタイプはいなかったですね」
    「そう。じゃあ……」
     モモさんは一つ手をパンッと叩く。大して大きい音でもなかったので、最初私は首を傾げるだけだった。
     一体何をしたのだろうか? 
     聞こうと口を開くと、突然真正面から突風が吹いた。
     思わず目を閉じて風がおさまるのを待ち、再び目を開ける。
    「え?」
     疑問と驚きが混じったような声が思わず漏れた。
     分厚い本を器用に足で掴み、飛んで運んでいる巨大な蝶の異形。頭の上に一冊だけ本をのせた、私の膝ぐらいの身長しかない小さな赤い頭巾のようなものを被った人型の異形。ふわふわと本棚の間をいったりきたりしている青白い人魂のような異形。
     さっきは見えなかったのに、いくつもの異形の姿が一度にたくさん現れた。
    「うん、やっぱり見えるのね」
     目を白黒させていると、机を挟んだソファーに座っているモモさんが薄く笑ってそう言った。
    「こ、これって全部」
    「えぇ、貴女の思っている通り。全部ペリよ。ごめんなさいね、びっくりさせるかと思って軽い認識阻害をかけてたの」
     ということはさっきここまでくる道中にも、異形たちはいたということだろう。最初からいたなんて、全く気づかなかった。
    「ここにいるペリたちは全部私の使い魔だから人をおそったりはしないわ。さて、質問攻めみたいなことして悪かったわね。今度はそちらからどうぞ。気になること、たくさんあるでしょう?」
    「え、えぇっと」
     確かにたくさん聞きたいことはある。だけど、何から聞けばいいものだろうか。
    「……」
     相手の様子を見ると、彼女はじっと私が言い出すのを待っていた。外見のせいで年下に感じてしまうけれど、大人びた雰囲気から察するに割と年齢は上の方なのかもしれない。
    「オリエントのマスターも言ってたんですけれど……モモさんたちは、異形のことをペリって呼びますよね。そもそも、ペリって一体何者なんですか?」
     小さい頃から見えていた存在。当たり前のように見えていたものではあるけれど、結局それがなんなのかは今まで全く知らない状態で生きてきた。
     自分の中で必要のないものと認識していたからか、はたまた存在をみとめたくないから知ろうとしなかったか。どのみち今まで避けてきた道ではあった。
     緊張した空気が漂う。
     モモはコーヒー少し飲み、低い机に置いた後話し始めた。
    「ペリがなんなのか。その疑問に対する回答は様々あるけれど、最も適した言葉を言うのであれば一種の生物かしらね」
    「生物? 生きてるってことですか?」
    「そうよ、彼らも生きている。幽霊のように漂っている風に見えてもしっかりと生きているの。ただ、人間をはじめとした他の生物と違って原動力となる部分が全く違う」
    「原動力が違う?」
    「そう。たとえば、私たち人間の場合だと生きていく上で必要なものは色々とあるでしょう? 最低限に絞ったとしても、水分と空気、そして食糧が必要。人間以外の種類だったとしても、だいたい似たようなものが必要になる。だけど、ペリは違う。彼らの大半は食糧や空気、水を必要としない。全く別の力を取り込んで生きているの。それは……」
     彼女はそこで言葉を区切ると右手を前に出す。手のひらを上に向けて開くと淡い光のようなものが集まり、球体のような形になった。
    「魔力よ」
     よく、ファンタジーとかの本を読むと出てくるフレーズ。だけど、それは空想の世界の話。現実とは全く関係ないと思っていた。
     おそらく、モモさんの手にある光が魔力というものなのだろう。
    「よくおとぎ話に出てくるでしょう? 魔力というのは意外とそこらじゅうにあるの。みんなが気付けないだけでね。基本的にペリ空気中に漂っている魔力をかき集めて原動力にしているものが多いわね。天池町内にいるペリもだいたいそういうタイプが多いわ」
    「じゃあ、その手にある光も?」
    「えぇ、と言っても人間が扱う魔力とペリが吸収する魔力は厳密には違いがあるけれどね。そこはややこしくなるから今は置いておきましょう」
     そういうと光の球はモモさんの手から消えた。
     異形、ペリは魔力を源に活動している。基本的に空気中にある魔力をかき集めて活動しているものが大半。ということは、ミドやココノさんといったペリもそうなのだろうか?
     それともう一つ。仮にペリたちが霊的な何かではなく、生きているものだったとしても、見える人と見えない人がいるのはおかしい。普通、生きているものであれば相当小さくなければ見えるはず。
     となれば……。
    「ペリが見える人と見えない人がいるのも、魔力と関係してるんですか?」
    「鋭いわね。その通りよ」
     彼女は驚いたようにこちらを見てそう返す。
     どうやら冷静に頭を動かすくらい緊張が解けてきたらしい。
    「貴女のいう通り、ペリを視認することができるには条件がいる。それは、眼球に魔力がこもっているか、もっと言えば肉体にある一定以上の魔力を溜め込むことができるか。この条件をクリアしなければ、ペリを視認することはできない。アオヤマさんの場合だと、おそらく生まれつきそうだったのね」
     自分の肉体に魔力がこもっている? 確かに、今までの話を聞けば自然とそういう流れになる。
    「ペリを見ることができる人って、やっぱり少ないんですか?」
    「そうね……正確に統計をとったわけじゃないからなんとも言えないけれどど、人間が生まれつきでペリを視認できる確率はだいたい五パーセントくらいかしら?」
    「五パーセント……」
    「でもこれは生まれつきというお話よ。だいたいは後天性、生まれた後に努力や成り行きで見えるようになった人もいるわ。ヒスイとかはそのタイプね。元々彼女は全くと言っていいほど見えなかった。彼女自身の肉体にはかけらも魔力を溜め込むこともできなかったし。でも、特定の条件を偶然クリアして数年前に見えるようになったのよ」
    「そうだったんですね……」
     先ほど軽く本人から話を聞いたとき、見えないことに対して多少なりとも苦しんでいた時期があったとオイカワさんは話していた。
     見えない人と見える人の条件がまさかそういったことだなんて、ここにきてモモさんの話を聞くまでは知るよしもなかっただろう。
     そういう意味では彼と出会って良かったのかも知れ……。
    「ん? 彼女?」
     突然モモさんが先ほど言ったセリフに引っかかり、そうつぶやいた。
    「どうしたの? あ、もしかして紅茶が口に合わなかった?」
    「いえ、そういうわけじゃ……あの、話が全く違う方向に変わって申し訳ないんですけど、彼女っていうのは?」
    「え?」
    「さっきの話の中にあった、彼女というのは誰のことですか?」
    「誰も何も、さっきまで一緒にいたじゃない。及川 翡翠(おいかわ ひすい)のことよ」
    「あの、大変失礼なことを言うかもしれないんですけど……オイカワさんって女性だったんですか?」
     人を見た目で判断するのはよくないと知ってはいるが、今回ばかりは誰でも見間違うレベルだと声をあげて言いたい。
     固定観念があったということもあるが、初見から全く気づかなかった。身体能力も異常に高いし、立ち振る舞い自体も違和感がないレベルだった。
     本人がいない時に気づけたのは幸いだったかもしれない。
    「まぁ……個性の域を越してるものね、あれは。その上、本人の前で性別間違えると怒るのよ。普段は鉄仮面でも被っているのかって思うくらいに無表情なのにね」
     モモさんも苦笑いしながらコーヒーを飲む。
     オイカワさんも怒ることあるんだ……少し意外だ。でも、普段感情を表に出さない人が本気で怒った時って怖いんだろうなぁ。

     ◇

    「ところで、貴女はどうしてこの町に?」
     ある程度話してやや緊張がほぐれたタイミングでモモさんはそう聞いてきた。
    「両親が小さい頃に突然いなくなったので、親戚の家に預けられたんですけど……この瞳の色が嫌いみたいで、お前みたいな不気味なやつはいらないって言われてそれ以降はいろんなところをたらい回しになったんです。この町に来たのはその成り行きみたいな感じですかね」
     紅茶を飲もうとカップを手にする。カップの中には少しだけ不安げな自分の顔が紅茶に反射して映り込んでいた。
     瞳の色については今でも悩んでいる。
     鏡を見るたびにため息をつくほど、私はこの色が嫌いだった。カラーコンタクトなどでなんとか色を誤魔化して生きてきたが、それも限界がある。
     ちょっと油断してカラーコンタクトを外したタイミングで他人から見られた時はいつも表情が歪んでいた。今でもそれがややトラウマで、この本来の色を人に見せるのは正直あまり気は進まない。
     無論、今はやむを得ない状況だから仕方ないけれど。
    「……」
    「何か、気になることが?」
    「いえ、何もないわ。大変だったわね、落ち着く暇もなくこの町に来たのでしょう?」
    「まぁ、もう慣れました……」
     表面上の言葉だったとしても嬉しかった。この瞳を見てもなお、気にかけてくれる人なんてそんなに多くない。
    「ひとまず、騒動が終わるまでは貴女に協力するわ。こっちとしても、街の平穏を早く取り戻したいし、他の町の住民にも影響は出るのは望ましくない」
    「あ、ありがとうございます」
     内心ほっと一息をつく。
     ひとまずはどうにかなりそうだ。
    「私の質問に答えてくれてありがとう。今まで色々あって疲れたと思うし、ひとまず客室に案内するわね」
     彼女はそういうとソファーから立ち上がった。
    「いえ、そんな。私も色々と聞いたのでお互い様です」
     今日だけで、知らないことがたくさんわかった。今まで散々だったが、今回得た知識を考えれば、少しはマシに思えるだろう。
    「フフッ、それはよかったわ。じゃあ改めまして」
     彼女はふっと微笑むとこちらに手を差し伸べる。
    「ようこそ、書斎の鍵へ。この場の責任者として貴女を歓迎しましょう」
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