不幸の幕間「ちょっとでかけよう。行き先? そんなの教えるわけないじゃん」
そう彼に言われ外へ連れ出された。
いつも突然かつ支離滅裂なことをする奴だが、今回はいつも以上にわからなかった。普段であれば仕事の手伝いをしろだの、買い出しの荷物持ちをしろだの言っていたが……今回はレストランに連れられた。
最初は普段通りの〈仕事〉の手伝いかとも思ったが……そうだとしたらあらかじめ話してくるはず。だが、コイツは事前に何も言わなかった。
どうやら彼は予約をしていたようで、そのまま店のテーブルに座り料理を待った。
「どうしたの? 狐につままれたような顔をしてるけど」
「……」
「何? そんな疑いの目をして」
「お前、何を考えている?」
「え、天才でもわからないことがあるんだ? 意外~」
相手はそうはぐらかす。どうやら話す気はないらしい。
「安心しなよ。別に何をしようって考えてない。って言っても信用してくれないか。だって屑だもんね? あ、料理来たみたいだよ?」
彼がそういうと、一人のウエイターが料理を持って近づいてきた。
「お待たせしました。頼まれていた料理の前菜になります」
ウエイターは手馴れた手つきで私の前にスープを置いた。しかし、料理は一つしかなく、眼前にいる男の前には料理は置かれない。
「では失礼します」
一礼するとウエイターはその場を去る。
「……どういうつもりだ?」
「え? 単純にご飯おごってあげよーっていう善意? ほら、いつもあちこち連れまわしているから、それのお詫び? というかお礼?」
「正直、気味が悪いんだが?」
「えぇ? 人の善意を踏みにじるのぉ? ひっどーい」
相手は不気味な笑顔を浮かべて頭を傾け、こちらを見ていた。
根本が読めない。何を考えているかわからない、道化師のような笑み。
思わず私は目の前の置かれたスープを見た。
おそらく料理自体は無害なものだ。今眼前にいる男が私を今ここで殺すのに意味はほとんどない。
「料理に毒は入ってないよ? 何なら毒見してあげようか?」
「お前、チョコ以外のものは口にできないんじゃなかったのか?」
「え? そうだよ? でもほら、屑がご飯食べられないのは可哀そうじゃん?」
言葉には出さなかったが、私は心底気味が悪いと感じた。
普段、コイツはこういうことをしない。
過去に私がしてきたことに対し、許さないと言いながらことあるごとに嫌がらせをしてくるような奴だ。
――だが、ここまで来て料理を口にしないというのも店側に迷惑だろう。
私はスプーンを手にして目の前のスープをすくい、口に含んだ。
トウモロコシのスープのようだ。味がまろやかになるよう、クリームも混ぜているのだろう。だが、私は美食家ではないので、これ以上のことは表現できない。
「どう? おいしい?」
テーブルの向かい側で相手は笑顔を浮かべてそう話した。
心からの笑いではない。貼り付けているような表面上の笑顔だ。
「お前が目の前にいるせいで台無しというところだろうな」
「へぇ? それはよかった。ここに来たかいがある。あ、そうそう。ここの料金については私が持つから安心して?」
「尚更気持ち悪いな……」
私がそう返すと、相手は満足げに続けた。
「いやぁ、よかったよかった。単に確認したいことがあったからここに連れてきたけど……変わりないようだし」
「普段からわからないことが多いが、今回はいつにも増しておかしいぞ? 病院に行ったのか?」
「えぇ? 頭おかしいって感じてるんだったらそれはお前のせいじゃない? ほら、散々いじくりまわしてくれたじゃん」
突然空気間が変わった。
先ほどの笑顔は消え、憎しみとも悲しみともいえない何かが渦巻いた瞳をこちらに向ける。
「……」
「あっはは、ごめんごめん。今回に限っては違うよー、冗談じゃん」
コロコロ表情を変える相手を無視し、私は目の前に出されたスープを飲んだ。
「あれ? 聞いといて無視?」
「私は、無意味な問答はあまりしたくない。お前は無駄が多すぎる」
「えぇ? 話すのが好きなくせに私とは話してくれないの?」
「疲れる会話は好きじゃないということを理解しろ。相変わらず、頭が足りてないようだ」
そう言い返しながらも皿に残っているスープを黙々と口にし、数分もしないうちに皿は空になった。
その光景を目の前の奴はただ黙ってこちらを見ている。
――狙いが読めない。
「そんな意味ありげな目を向けないでよ。言ったでしょ? 確認したいことがあったって」
「確認したいこと……大体、お前はチョコ以外食べられないのにわざわざここに来た理由は結局なんだ?」
「えぇ? そんなに聞きたい? しょうがないなぁ……」
彼はそう大げさに言いながら話を続けた。
「ただ、お前のこと嫌いなのか再確認しているだけだよ」