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    remu

    @syosainokagi5

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    remu

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    刑事パロクロスオーバー

    コーヒー一杯の熱 午後二時。この時間帯は基本睡魔との戦いになる。
     特に〈特異六課〉では仕事は自分から探さないと暇なところ。受け身でいれば、一日暇していることだって珍しいことではない。
     そんな中、ワタシはデスクの前に座って考え事をしていた。といっても、大したことではない。
    「……ヒスイさん、始末書の文面が全然埋まってないですよ?」
     ワタシの様子を見かねたのか、正面に座っている後輩〈キンシ〉が声をかけてきた。
     彼は珍しく左右の目の色が違い、髪色も比較的明るい茶色をしている。〈特異六課〉では私服出勤でもいいと言われている中、毎日スーツをきっちり着て出勤している真面目な男だ。
     だが、真面目という部分が強すぎるせいか……少々口論になることもたびたびある。まぁ、現状面倒ごとを起こすほどのものはないので、聞き流しておけば問題ない。
    「始末書提出するまで他の仕事しちゃダメですからね!」
    「……わかってる」
     ため息交じりにそう返す。
     普段であればこの時間は仕事を探しに出歩く時間だが、今日に限って今までサボっていた始末書を提出しろと課長であるキセキに言われてしまった。
     最初は無視しようとも思ったが……以前にやらかした案件が大きすぎて流石にもみ消すことはできないと釘を刺されてしまった以上、最低でも始末書の提出はやるしかなさそうだ。
     ――センには逃げられたしなぁ。
     危機察知能力が高かったのか、バディを組んでいたセンには一足先に逃げられてしまい、残ったワタシが始末書を処理しているというのが現状だ。
     ――書いたところでどうせまた同じことやるのに、意味あるのか……? これ。
     デスクの上に置かれている紙に対し、ワタシは手に持っているボールペンをペン回ししながら見る。
     紙には上の方に大きく〈始末書〉と書かれ、下の方には上司等が確認用のハンコを押す欄がるくらいのシンプルな紙。キセキ曰く、この紙いっぱいに文字を埋めろといっていたものの……どうごまかすのが一番いいか……。
    「というか珍しいですね。始末書って大体の人がパソコンで書くのに、ヒスイさんは手書きで書くんですか?」
    「あぁ、前はパソコン使ってたんだが……文章を自動作成するソフトを入れて書いていることがキセキにばれてしまってな。手書きで書けと言われるようになった」
    「なぜその熱意と努力を別の場所で使おうって思わないんですか……?」
    「提案したのはセンだ。ワタシは同意と協力をしただけで主だってやったわけじゃない」
    「協力している時点で同罪なんですよ」
     呆れながらキンシはそういうと席を立った。
     なるべく面倒ごとは避けたいと考えるのは自然だと思うが……警察に限らず、物事にはルールというものが必ずある。できる限りその面倒なしがらみを避ける一環として始末書の簡略化は手っ取り早いと考えたが……どうもセン以外にはなかなかに不評だった。
     ほかの手段として直属の上司であるキセキより前に、よくオフィスに遊びに来る警察上層部の一人、アトに確認のハンコを頼んだこともあったが……勘が鋭いのか速攻でバレてしまい、
    〈特異六課〉の禁止項目として作られてしまったこともある。
    「コーヒー淹れますけど、ヒスイさんいります?」
    「いる……。なるべく濃い目で」
    「駄目です。ヒスイさん、ただでさえカフェイン摂取しすぎって怒られたばかりですよね? またセンさんから説教を受けたいんですか?」
     そういいながらキンシはオフィスにあるコーヒーメーカーを動かした。
     今、ワタシたちがいるオフィスは一定数私物がおかれている。キンシが使っているコーヒーメーカーもこのオフィスに置かれている共有物ではなかったが、ちょくちょくオフィスに来るアトが個人的に持ってきたものらしい。
     性能としては悪くなく、彼曰く〈個人で持ってきたが、好きに使っていい〉と言われているのでワタシ達も使用している。
    「はぁ……まぁ、適当に書くか」
     待っていたところで始末書に文章が浮き出てくるわけでもない。早いところ適当に埋めてとっとと提出した方が生産的だ。
     ワタシは過去に書いてきた定型文を適当に書く。
     始末書に関しては何度も書いてきたので、書き方というものは身についている。しかし何度も似た定型文を書いていると、再提出を求められるので加減が難しい。
     ――この辺のことはセンに任せてたからな……。
     仕方ない、一旦適当に書いてキセキに渡そう。
     そう考えながらペンを走らせる。適当な文なので、文字を埋めるのにそんなに時間はかからなかった。
    「あっ!」
     ふとキンシの声と同時に何か液体が始末書とワタシの手にかかる。かかった直後に香る匂いと色合いから、これがコーヒーだと理解するのにそう時間はかからなかった。
     最初は驚いて硬直するも、コーヒーだとわかってすぐに持っていたハンカチを取り出してデスクの上を拭いた。
    「す、すみません! コーヒーを……」
    「ん? あぁ……別に気にするな」
     動揺した声をしたキンシの表情は焦りと困惑が混じったものだった。
     ――落ち着かせたほうが良いか。
    「少し考え事をしていて、ぼーっとしていただけだ。悪かったな、ケガはしてないか?」
     そう声をかけるも、キンシは動揺した様子でずっと固まっていた。
     不審に思い
    「どうした?」
     と声をかけると、彼ははっとして
    「いえ……」
     と言葉を濁した。
    「あぁ、もしかして始末書のことか? それなら別に気にしなくていい……というか、これで書かなくてもいいようにしてくれたらいいんだが……」
    「ヒスイさん、僕がこぼしてしまったコーヒーはホットコーヒーですよ。ほぼ熱湯を手にかかってしまったのに……熱さを感じないんですか?」
    「……熱さ?」
     ワタシはそういわれ、自分の手を見る。
     確かにコーヒーは掛かっているが、いうほど熱くはない。しいて言うなら少し痒さを感じる程度だろうか?
     ワタシは手袋を取り、自分の素手を見るとコーヒーがかかったからか真っ赤になっていた。
    「ッ! すみません、何か冷やすものを持ってきますね」
     キンシはそう言い残し、オフィスを後にした。
    「……まぁ、いいか」
     彼の反応は気になったが、今は片付けることが優先だ。幸い、こぼれたコーヒーは一杯分だけなので特に手間のかかることはなかった。

     ◆

     数分後にキンシは水を買って戻ってきた。
    「ひとまずこれを患部に当ててください」
    「気を遣わせて悪いな」
     そういいながらワタシは水を受け取り、水を当てる。ヒヤッとした感覚がした後、指先はヒリヒリとした感覚がしている。
     ――火傷は久しぶりだな……しばらくは打撲と切り傷が多かった気がする。
     なるべくケガをしないように気を付けても、仕事の都合上ケガを負うことが多い。特に凶悪犯の犯人は暴力的な奴らが多く、制圧するにしても多少の攻撃は受ける。
     最近は前線で動くというのはセンがいるおかげで少なくなったものの、〈特異六課〉は人手不足。ずっと後ろにいるわけにもいかないので、ケガを負うことがなくなることはない。
     ――だが、妙だな……感覚があるのに〈熱さ〉は何も感じなかった。
     首をかしげながら自分の手を見ていると
    「ヒスイさん、ちゃんと病院行ってますか?」
     とキンシが声をかけた。
    「唐突だな。受診しないとアンタらがうるさいだろ?」
     少し前にちょっとしたことをやらかしてから、周囲は病院に行けとうるさくなった。
     確かにワタシは不眠症を患っており、一日の睡眠時間も短い。だが、必要な栄養素はちゃんととっているし、不足分はサプリメントで補っている。
     それに部署が一緒とはいえ、所詮は他人だ。彼らがどうしてそこまでワタシの体調に心を砕くかわからない。
     ――あぁ、そうか。人手不足なのにワタシが使い物にならなくなれば……四人分の仕事を三人で回す必要が出る。それは確かに困ることか。
    「心配するほどのことはしてないぞ。処方された薬は飲んでいる」
     以前初めて内科の病院へ行ったときは、大量の薬を処方された。
     飲んでないとバレれば同僚、後輩、上司に小言を言われているだろう。
    「指の感覚はあるんですか……?」
    「指? なんでまたそんなことを?」
    「……」
     突然キンシは黙った。
     表情はとても複雑で、悩んでいるようにも見える。
    「ヒスイさん、僕がコーヒーをこぼしたとき……身動き一つ、しなかったじゃないですか……。それに、ヒスイさんは真っ先にかかった手よりも始末書と僕について言っていました」
    「……」
    「コーヒーをこぼしてしまった僕が言うのは……違うかもしれないですけど。ヒスイさん、熱湯がかかって熱さを感じないのは異常ですよ」
     ――その程度で弱音を吐くな!
     唐突のフラッシュバックで背中に熱さを感じた。低い怒号と共に当時の痛みがよみがえる。
     しかし、フラッシュバックは一瞬ですぐに幻聴は消えた。
    「ヒスイさん⁉ 大丈夫ですか? 顔色最悪ですよ⁉」
    「平気だ、問題ない。座っていれば治まる」
     息を整えながら自分にそう言い聞かせた。
     しかし、キンシは何か言いたそうにこちらを見ている。納得はしていなさそうだ。
     何か話そうと口を開きかけた時、唐突にオフィスのドアが開かれた。
    「ただいまぁ。ヒスイ、始末書終わった?」
     いくつかの袋を持ちながらセンが戻ってきた。
    「……その荷物は?」
     ワタシがそう聞くとセンはにこやかに
    「あ、これ? 置いていったお詫び兼お土産だよぉ」
     と言いながらワタシのデスクの上へ袋置いた。
     チョコやスナック系統のお菓子とコンビニスイーツがちらっと見える。
    「ん? 火傷したのぉ? 水で冷やしてるように見えるけど」
     センはそういいながらワタシの手を指さした。
    「あ、それは」
    「あぁ。間違ってコーヒーをこぼしてしまってな。幸い、キンシがすぐに水を買ってきてくれたから大したことにはなってない」
     ワタシはキンシの言葉にかぶせるようにそう言った。間違ったことは言っていない。
    「へぇ」
     彼は少し間を空けて
    「それは災難だったねぇ」
     と話した。
     センは勘が鋭い。何があったかなんていうのはすぐわかると思うが、あえて口にしていないということは追及する意思はないということだろう。
    「で、始末書のほうは終わったぁ?」
     話を切り替えるようにそういう。
    「そうだな……途中まで順調に書いていたんだが……」
     そういいながら立ち上がりペットボトルを一度デスクへ置いた。
    不思議そうに首を傾げたセンだが、意図がわかったのか速攻デスクから離れようと方向転換したが、瞬時にワタシは彼の手首を掴んで
    「残念ながら終わっていない。書面もないから課長室へ貰いに行くぞ」
     と補足した。
    「えぇ⁉ まだ終わってなかったのぉ?」
    「センが一人逃げしたのが癪だったんでな。待ち伏せしてた。さ、行くぞ」
     ワタシはセンの腕を引っ張り、課長室へ引きずる。
     そのタイミングで呆然と立っているキンシが目に映った。
    「キンシ。水、買ってきてくれてありがとう。助かった。すまないが、デスクに置いてあるコンビニスイーツ、共有冷蔵庫に入れてくれるか?」
     その言葉で一瞬キンシは困惑した表情をしたが
    「は、はい。わかりました……」
     と返してくれた。
    「悪いな、頼んだ」
     ワタシはそういうとセンを引きずって課長室へ向かった。
     ――温度を感じない……か。
     慢性的な睡眠不足のせいで極度のストレス状態と以前病院に行ったときに診断された。だから大量の薬も処方されたし、睡眠時間を改善するようにと注意もされている。
     だが……それは大量出血の状態で患部に絆創膏をはっているようなもの。薬を飲んでも、原因となっている負の記憶が抹消されることはないし、睡眠時間を改善するようにと言われても、ワタシは二時間以上連続で睡眠をとることができない。
     ――結局、根本的な解決する方法なんて一つしかない。
     だが、その手段をするのは〈特異六課〉に猛反対されるんだろうな。
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