これはあくまでもああ、これは忠告だが
もし廃墟巡りの類いに興味があって、屋敷に足を踏み入れる時があるなら必ず顔を隠して入ること
一部だけでもいい、眼帯やマスク、手で片目や口元を覆うだけでも構わないが……
屋敷から出るまでは絶対に素顔を晒してはならない
顔を隠している限りは客人として迎えられる筈だから…
顔を隠していても無礼な客人になってはならない
もし周りに仮面を付けて踊る人影が見えるならぎこちなくとも踊るフリをしなければならない
もし周りに見知った顔の人形が置いてあっても関わってはならない
カナリアがいる部屋の中では声を出してはならない
屋敷の中で勧められたものは丁重に断らなければならない
屋敷の中で得られるものは何も無い、得られるものは己の破滅を招くものであると肝に銘じておくこと
笑い声が頻繁に響いてきたなら速やかに屋敷から出ること
そしてその屋敷には二度と入ってはいけない
これは妄言だが……
私には友人が居た。今は隣で眠りについており、目覚めることはないだろう。
ここに訪れたのは随分昔のように感じられるが、時計の短針がぐるりと一周した回数は体感より少ない。私の目は時計を捉えたまま動かない。
そうだ、最初は隣の友人と共にここに来た。
ほんの少しの罪悪感、探究心、好奇心が私達を突き動かして、ここに吸い込まれるように入っていった。
結果、友人を置いて逃げ出してしまった。
私は友人のことがどうしても心残りで、私のせいで酷い目にあっていたらどうしようと心配で、暫くは悪夢を見るようになった。
最初は友人が私を暗がりに引きずりこむ夢で、自分と同じ目にあわせてやる、苦しませてやると呻いていた。
夢の中で何度か闇の中に溶けた後、今度は別の感情を抱くようになっていた。
友人が暗闇から手招きして、その中を覗き込むと、あの時の人形、骨董品、小綺麗な物達が妖しい光に照らされながら魅力を放っていた。
私は、友人を助けなければならない義務に動かされた。
道は殆ど覚えていなかったが、不思議と屋敷にたどり着いていた。
こちらを呑み込んでやろうという魂胆なのだろうが、そうはいかない。
私は一歩、二歩、中に向かって歩き出した。
再び、闇に戻られたのですね
視界が黒く染まり、気づくと体が動かないまま、今に至る。
人影と共に現れた友人の胸には印が刻まれていた。
結局、最初から虚栄心の裏にある怯えた顔は見透かされていたのだ。