リボンと龍と少女リボンと龍と少女
ヌヴィレットという人、いや龍はフォンテーヌの最高審判官であり地位は僕の次にフォンテーヌでは偉い人だった。僕が水神を降りた今、彼は一番偉い人となった。
そんなヌヴィレットの服は僕がデザインした。あの服は最高審判官という肩書きに相応しい服だと思う。やはり人の上に立つものはそれなりの威厳がないといけないし、身だしなみは何よりも大切だ。
大体、ヌヴィレットはフォンテーヌに来たばかりの頃は本当にどうにもならなかった。雨の日には傘をささずに雨には当たるし、服装もだらしない。
流石にこれではフォンテーヌの未来は大変なことになる。予言より先に彼のせいで民に不満を抱かせたらフォンテーヌはある意味崩壊してしまう。
そんな危機を覚える程に彼の行動は理解出来ないところがあった。
という訳でヌヴィレットに服の大切さを教えたし最高審判官になった日にあの服は贈った。
そして服と一緒に僕は髪飾りも贈った。
彼の髪に着いているちょっと可愛らしいリボンはその贈りものである。
「とはいえあのリボンそろそろ寿命な気がするんだけど……」
物というものは壊れる。当たり前だ。ヌヴィレットのリボンも同様でありこれまでに数え切れないほど作り直している。
一度デザインを変えてみたのだけど外が大雨となりそれこそフォンテーヌが沈みかけたのでそれからはデザインの変更はなしとなった。どうやら口には出さないが彼にとってあのリボンのデザインはそれなりに気に入ったものらしい。
全く、本当に人騒がせな……
「って、な、なんで大雨が降っているんだ!?」
ふと窓の外を見れば先程まで晴天だったのに外は前が見えないほどの大雨になっていた。
あの龍は本当に人騒がせだ。このままではまたフォンテーヌは水没してしまうかもしれない。ヌヴィレットにはそれほどの力がある。
本当に人騒がせだな……そう思いながら僕は大雨の中、傘をさし、パレ・メルモニアに向かった。
パレ・メルモニアに着く頃には僕の服はずぶ濡れになっていた。かなり雨足は強い。
とはいえこの大雨を止めれるのはヌヴィレットしか居ない。降らした本人しか止めることが出来ない雨だ。
パレ・メルモニアに入り執務室に向かうとドアが開いていてクロリンデとリオセスリが見えた。
「ヌヴィレットさん。その、なんだ…そこまで落ち込まなくても大丈夫だと俺は思う」
「私も公爵どのと同じ意見です。リボンなら直すことができると思います」
リオセスリとクロリンデはそう言いながら、窓の外を見ているヌヴィレットに話しかける。
ヌヴィレットの背中はとても悲しそうだ。
「三人とも何かあったのかい?」
僕は気にしないように執務室に入り三人に声をかける。
「フリーナ様…実はヌヴィレット様のリボンが壊れてしまいまして……」
「ましてや真っ二つに割れたんだ。そしたら外が大雨になってな…」
なるほどね。大雨の原因はリボンか。確かに寿命が近いとは思っていた。
僕はヌヴィレットの背中を見つめる。
「ヌヴィレット。リボンなら僕がまた同じものをデザインするから大丈夫だよ。だからもう泣かないで?」
するとヌヴィレットは僕の方を見る。
彼は泣いてなんか居ない。けど外を見ればヌヴィレットが悲しみに暮れているのがわかる。
「直せるのか?」
「もちろん」
ヌヴィレットは僕に真っ二つに割れたリボンを見せてくれる。
寿命だったのだろう。真ん中から割れている。
執務室にある椅子に座り、紙を渡してもらい紙にリボンのデザインを描いていく。
リオセスリが覗き込み、上手いなと褒めてくれた。
「これで良い。ヌヴィレット、どうだい?このデザイン」
紙に描いたリボンのデザインを見せるとヌヴィレットはうなづいてくれた。
「同じものだ」
「良かった。じゃあこれを仕立て屋に持っていくね。直ぐにリボンは出来上がると思うから少し待っててね」
僕は立ち上がり執務室を後にしてフォンテーヌ邸にある仕立て屋に向かい、リボンをオーダーする。
生地や装飾はこの仕立て屋は分かっており、直ぐに美しいリボンを作ってくれた。
「いつもありがとう。それじゃあまたね」
僕仕立て屋にお礼を言い、パレ・メルモニアに向かう。いつの間にか空は晴れておりヌヴィレットの機嫌が良くなったことが分かった。
リボンの事件から数日後。
僕はパレ・メルモニアの執務室でヌヴィレットの髪を梳いていた。
長くサラリとした髪は実は僕のお気に入りだ。
「リボンが切れたぐらいでフォンテーヌを大雨にするのは良くないよ。本当に焦った」
「すまない。しかしこのリボンは私にとって大切なものであり…切れたらこの辺りが痛くなる」
ヌヴィレットが胸を抑えるのでなんだか微笑ましくなる。
「キミ、本当に人間らしくなったね。なんだかとても嬉しいや」
僕はヌヴィレットの髪をリボンでまとめる。
彼には似つかわしくない可愛らしいリボン。このリボンがヌヴィレットにとって大切だなんて贈った僕としてはとても嬉しいことだ。
本当に僕はキミと出会えて良かったな。だって今こんなにもこの穏やかな時間が幸せなのだから。
そう思いながら僕はヌヴィレットの髪についた可愛らしいリボンを撫で、微笑んだのだった。
end