一万年の恋を……「フリーナ!!」
フォンテーヌを襲った厄災は今、フリーナの力で鎮まった。
彼女の中には水神としての力があり、その力をフリーナは使い、厄災の魔物を倒した。
だがその衝動で、フリーナの体は後ろに倒れ、私は彼女を抱きしめる。
「フリーナ!?」
「ヌヴィレット……どうだい?凄かっただろ?」
「ああ。君のお陰で魔物は倒れた。これでフォンテーヌは平和になる。戻ってゆっくりやす……フリーナ…何故、透けている?」
早くフリーナを休ませたい。そう思い抱きあげようとしたら彼女の体が透けていた。
私はフリーナを見つめる。
するとフリーナは微笑む。
「神の力の代償だね。僕の体は…人間だから…神の力を使うと生きてはいられないんだ…」
フリーナの言葉に言葉が見つからず私は彼女の頬を撫でることしか出来ない。もしその事に早く気がついていれば彼女に神の力を使わせなかったと思う自分がいて、後悔に押しつぶされそうになる。
そして雨が降り始める
「水龍…水龍…泣かないで?知っているかい?神もね生まれ変わるんだ…だから笑ってよ。ヌヴィレット。なかないで?」
「それは何時になる?何時君は生まれ変わる?」
するとフリーナは私の頬に触れる。
「さあね……百年後か千年後か…もしかしたら一万年後かもしれないね」
「百年や千年なら待てるが一万年後となれば私はきっと摩耗して生きてはいない……」
摩耗は長命種にとって避けて通れない。一万年後は私は摩耗してフォンテーヌを離れているだろう。または死に絶えていると思う。
「きっとヌヴィレットなら待っててくれる。一万年後もキミは生きてる。だってキミは…水の龍王で僕の水龍なんだから……」
僕の水龍。
私はフリーナに言われるその言葉がとても好きだった。
人の感情には疎い私だが彼女が私の事を僕の水龍だというと心が震えた。彼女を護るためならフォンテーヌを壊しても良いと思うほどに私はフリーナを…深く思っていた。
「僕の水龍は最強で素敵でとても美しいんだよ。フォンテーヌの最高審判官だし…だからキミは生きてるよヌヴィレット……一万年後もね…」
「ああ…そうだな。私は君を待ち続けるフリーナ。ずっと……」
するとフリーナの瞳から涙が零れ落ちた。
その涙が彼女の頭を支えている私の手に落ち、フリーナの思いが流れてくる。
その思いは私が好きという気持ちばかりで、とても温かい。
彼女は本当に何処までも私の神で私を魅了し、私を愛してくれる少女だと思う。
「ヌヴィレット…僕が生まれ変わってきたら…」
フリーナは私の頬を撫でる。
「その時は一万年分の恋をしよ?ヌヴィレット」
「……ああ…私はずっと君を待ち続ける。ずっと……だから君がまたこのフォンテーヌに生まれ変わったら…恋をしよう。誰もが羨む恋を……」
「約束だよ。大好き…ヌヴィレット」
そしてフリーナの体は泡となり、空に上がる。
彼女は死ぬ時まで美しいのだな……
そう思い、私は大雨の空を見上げ、空に上がる泡の玉をみつめたのだった。
フリーナが無くなり、長い長い時が流れた。
今ではフリーナの頃にいた仲間達も居なくなり、生まれ変わったりして生きている。
一体何年……いや何百?または千年?経ったのか分からないが私はずっとフォンテーヌの最高審判官として過ごしている。
摩耗もなく、ただ彼女の居ない静かな日々を過ごして来た。
今日は早く仕事が終わり、散歩に出かけた。
時は流れたがフォンテーヌは平和であり街並みもフリーナがいた頃とあまり変わらない。彼女が好んだフォンテーヌ邸を守りたくて、家の作りなどはあえてそこまで変えないようにした。
海辺に付くと、ルエトワールが足元に落ちていた。
彼女が好きだったものだ。そう思い手に取り眺めていた時だった。
「ヌヴィレット…」
声がした。ずっと聞きたかった…声が…
振り向くとそこには町娘の格好したフリーナが立っていた。
見た目はあの頃のまま…服装以外何も変わらない。
「フリーナ?」
「ヌヴィレット…ヌヴィレット!!」
彼女の名前を呼ぶと、フリーナは顔を歪め涙を流しながら私に抱きつく。
「ヌヴィレット!!会いたかった…会いたかった」
「私もだ。フリーナ。ずっと君を待っていた」
そして私達は見つめ合い、惹かれ合うように口付ける。
「約束覚えてる?あの時の約束…」
「もちろんだ。一万年分の恋をしよう。これから……」
「うん!ヌヴィレット…大好き」
「私も愛してる。フリーナ」
そして私はフリーナを抱き上げ、パレ・メルモニアに向かったのだった。
一万年分の恋は始まったばかりだ……
後日談
目を覚ましたら一万年後のフォンテーヌだった。
僕の頭にはヌヴィレットとの約束の記憶と前世の記憶があり、僕はヌヴィレットに会いに行き、そのまま恋人となった。
フォンテーヌの町娘として生まれ変わった僕は、昼間はパレ・メルモニアで働かせてもらい夜はヌヴィレットとの時間を過ごす。
とても幸せで、本当に温かな日々。
だけどそんな日々の中で小さな事件が起こった。
「フリーナ。ドレスを着る気は無いだろうか?」
「へ?」
パレ・メルモニアのヌヴィレットの執務室。
ヌヴィレットの言葉に僕は戸惑う。
「私は君と一万年分の恋をしたい」
「うん…」
「だからまずは贈り物をしたく……」
だからドレス…
「けど僕、昔とは違うし…町娘だよ?高価なドレスなんて着ていく場所がないよ?」
「それならアクセサリーの方が良いだろうか?」
「うん。それなら身につけられる」
そしてその後ヌヴィレットから贈られた美しい青のブローチは僕の大切な宝物となり、仕事の時もずっと胸元のリボンの所に付けられることになったのだった。
一万年分の恋はまだ始まったばかりだけど幸せ例えこの先、ヌヴィレットが摩耗して死ぬ事があるなら次は一緒に死のうと思いながら、今日もヌヴィレットと一緒に幸せな時間を過ごすのだった。
end