ふとした自覚ふとした瞬間、驚くことがある
「フリーナ危ない!!」
「わっ!!」
ヌヴィレットと散歩をしていると、いきなりヌヴィレットに抱き寄せられた。
前を見ると、マシナリーが襲いかかってきてヌヴィレットの外套を掴む。
「泡沫となるがいい」
ヌヴィレットの水元素の力がマシナリーに当たり彼らは活動を止めた。
「怪我はなかっただろうか?」
「う、うん…ありがとう」
ヌヴィレットを見つめると彼は僕の頭を撫でてくれた。
その手の大きさに、ドキリとした。
ヌヴィレットは龍で僕は純水精霊が人になったもの。
互いに、人とは少し違う感性を持っている。人の素振りを気にしたことはあるが、よく分からないところもある。これは僕らが人より遥かに長い時を生きてきたというのもある。
人の一生は当時の僕とヌヴィレットにとって瞬きの間に終わるほど短かかったから……
けどこうやって撫でられたりしたらその大きな手を意識してしまう。
ヌヴィレットも男性で人間なんだ。
いや、彼の場合人型というのかな?
「フリーナ?」
「あ…ほ、本当にありがとう」
僕はヌヴィレットの腕の中から抜け出す。
ヌヴィレットを男性と意識してしまうと、どうにも胸がドキドキしてしまうし、胸に一つの感情が芽生えてしまう。
『好きだな』
そう思い僕は、空を見上げているヌヴィレットを見つめたのだった。
次の日。ヌヴィレットが僕の家に泊まりに来た。
最高審判官が民の家に泊まりに来るなんて…
そう思うが僕らはその恋人同士なわけで、こういうこともある。
フォンテーヌを治めていた神と、現在フォンテーヌを治める最高審判官が恋人なんて、もし民にバレたら大変な事になるのだけどヌヴィレットは良く僕の家に来る。
一度、記者に撮られたらどうするんだ
そう言ったが彼は微笑み、その時は隠すことはしないだろうと、手の甲にキスをされた。
人間らしくなった彼に喜びもあるが
『何処でそんなこと覚えてきたんだ!!』
という言葉はヌヴィレットの優しい笑みを見たら言えなかった。
「フリーナ。今夜は一緒に入浴をしたい」
「へ!?」
今までのヌヴィレットとのやり取りを思い出していたら、ヌヴィレットがとんでもない発言をした。
入浴ってお風呂?
いや、まぁ僕も肌を見せるのはあまり抵抗はない。
五百年生きてきたんだし、恥じらいもそこまでは……
けどその、まさかヌヴィレットからそんな提案が出るなんて思わなかった。
「いいよ」
「ありがとう」
ヌヴィレットは僕の額にキスをする。
なんだか恥ずかしくて僕はヌヴィレットの顔が見えなくて彼から顔を逸らしたのだった。
他愛ない会話をしたり共に食事をしたりして夜になった。
一緒にお風呂に入るなんて考えたらした事なかった。
別に彼の前で肌を見せるのは抵抗がある訳じゃない。
僕も今は人だけど出自などを突き詰めたら人では無い。ましてやフォンテーヌ人の生まれ方とは違う生まれ方をしているのだから人とは呼べないのだと思う。だから肌を見せるのは抵抗はない筈なのに、いざこうなると恥ずかしい。
ヌヴィレットの方を見ると彼はシャツを脱いでいた。
「フリーナ?」
「あ…っ……」
なんて言えばいいか分からないからヌヴィレットを見つめるしかない。
「脱がしていいのなら私が脱がそう」
「っ…ぅ…ヌヴィレット……」
どう答えたらいいのか分からず彼の首に手を回し抱きつくとヌヴィレットは僕の背中を撫でてくれる。
「私が全てするので安心して欲しい」
「う、うん」
ヌヴィレットは僕の体を離して、ブラウスのボタンを外してくれる。
キャミソールも脱がされる。
下だけは自分で脱いだけど……
裸にしてもらい抱き上げられて湯船に入る。
ヌヴィレットも僕の前に入る。
ヌヴィレットの体…男の人だ。
「キミって筋肉質なんだね」
「そうなのだろうか?この体は生まれた時からのものであり普通の男性とさほど変わらないと思っていたが……」
「そうなの?僕からみると筋肉質に見えるよ」
劇団員の男性よりヌヴィレットの体は筋肉質だ。
「触ってみるか?」
「へ?ちょっ、ぬ、ヌヴィレット……」
ヌヴィレットは僕の手を取り自分の胸に触らせる。
固くてけど少し柔らかくて、熱いヌヴィレットの体に胸がドクリと波打つ。
ただいつもでは考えられないヌヴィレットの行動に戸惑ってしまい、彼の体に触れたまま、ヌヴィレットを見つめる。
「キミ、今日、変なもの食べた?」
「食べてはいない」
「ならどうしてこんなこと……」
するとヌヴィレットは微笑み、僕の手を外し額に口付ける。
「私は君ともっと先に進みたいと思ってしまった」
「さ、さきって……」
「男女の関係だが…」
その言葉に顔が熱くなる。
求められているのがわかってしまう。
ヌヴィレットを見ると彼は僕の頬に触れキスをしてくれた。
「君の気持ちが整うまで待ちたいとは思う。だが、私は先にも進みたいと思ってしまう」
「僕もキミともっと深く繋がりたいと思ってる。けどもう少しだけ待って欲しいんだ」
勇気を出し言葉にするとヌヴィレットはまたキスをしてくれる。
「ああ。君の気持ちが整うまで待とう」
今はもう少しこうして甘い砂糖菓子みたいな時間を過ごしていたい。
けど必ず、必ず、ヌヴィレットに全部あげるから……
心の中でそう呟き、僕はヌヴィレットに自分からキスを贈ったのだった。
end