10-15 side星 私の名前は星。一見普通の美少女だけど、実は私には前世の記憶がある。
前世の私は「万界の癌」と呼ばれる星核を埋め込まれた人造人間で、ナナシビトとして「開拓」を指標に宇宙を旅する星穹列車に乗車し、時にゴミ箱を漁り、時に人を助け、時に星神の一瞥を受け、…そして数多くの星神の祝福を得た魂と肉体を引き換えに、「壊滅」による宇宙の滅亡を阻止した。
結果として私は死んだが、宇宙ステーションで目覚めてから「開拓」を続けていく中で、自分の終着点がどんなものかなんとなく予想がついていたので、その選択をしたことに後悔はなかった。
その後転生した私は、10歳頃から徐々に夢を通して前世の記憶を垣間見るようになった。例えるならドラマの総集編を見ているような感覚だったが、頭のどこかで「これはかつての自分だ」という強い確信があったのでそれを信じることにした。
今世は、宇宙へと続く道はなく、技術も文化レベルも前世には及ばないが、星神もいなければ反物質レギオンもいない、一部の国を除けば平和で、ゲームも娯楽も豊富にあるので私は今の生活をそれなりに楽しんでいる。
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「………せい?」
高校からの帰宅中、なんとなく聞き覚えのある声に呼びかけられた気がした。
振り返ってみるとそこには一目で美少年とわかる小学生くらいの男の子が立っていた。私の記憶にある姿とは随分異なるが、少しはねた艶やかな黒髪とこちらを見つめる淡緑の瞳で思い当たる人物なんて一人しかいない。
「………もしかして丹恒?」
「…星!…俺のことが、わかるんだな…?」
「丹恒っ‼︎」
思わず丹恒を抱きついた。丹恒は大切な家族で親友で…そんな相手に再び会えた喜びで胸がいっぱいになり、無意識に体が動いていた。ぎゅうぎゅうと抱きしめていると制服の裾が引っ張られた。
「星…くるしい…。少し力を緩めてくれ…」
「あっごめんごめん」
丹恒の声が苦しげだったので、慌てて抱き込んでいた腕をはなして、改めて丹恒を観察することにした。目元の朱はないが記憶にある丹恒をそのまま幼くしたような容姿で、背丈は私の胸下くらい、ランドセルを背負い、短パンとソックスの間から覗く膝小僧は眩しい。表情は少し大人びてはいるがまごうことなき小学生男児だ。
そこでふと我に返った。
見た目と年齢がイコールではない人々がわんさかいた前世と違い、今世において長命種はフィクションの存在だ。ということは丹恒の年齢はおおよそ外見通りであろう。
前世で奇人変人と言われ続けた私でもさすがに一般人として15年生きてきたらそれなりの倫理観がある。いくら私が美少女とは言えこのご時世に往来で小学生に急に抱きついたのは通報案件なのでは?
通報されやしないかと、一歩引いて辺りを見渡す私を丹恒が訝しげに見ているのに気づき、コホンと一息入れた。
「…どこかで列車のみんなに会えないかな、とは思ってたけど、まさかこんな近所にいたなんてね」
「親の仕事の都合で最近この街に引っ越してきたんだ。俺も前世の記憶が蘇ってからできる範囲で探していたが、まさか…」
丹恒は私を見上げながら何かを言い淀んでいる。
「え、変なとこで切らないでよ」
「……思いの外年齢が離れていたことに驚いた。お前は今何歳なんだ?」
「15歳のぴちぴちのJKだよ」
「5歳差か…」
丹恒は片手で顔を覆うと深いため息をついた。小学生とは思えない色気がある。きっと学校では女児にモテモテなんだろうな。
「いや、でもさ?短命種の私と長命種の丹恒の寿命差考えたら5年って誤差みたいなもんじゃない?」
「…それは、そうなんだが……」
「それに5歳離れていても、私たちはまた親友になれるよ」
親愛の意を込めて握手しようと私が差し出した手を、丹恒はじっと見つめた。もしかして脱鱗して転生したら別人扱いの持明族ルールが適用された?と不安になったが、丹恒は子供らしい小さな手をそっと差し出してくれたので、私はもう片方の手も使ってぎゅっと握った。
「また会えてうれしいよ、丹恒」
「…ああ」
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【設定みたいなもの】
星は前世のことはグッドエンドだと思っているが、丹恒はバッドエンドだと思っている。