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    25Zenn

    @25Zenn
    🐚中心にtwst夢を書いたりする人です。

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    ネタ自体は使う予定だけど。流れが変わりそうなので、記録と供養。

    twst夢。ジェイ監。悲恋。

    #twst夢

    『この世界で生きていきたい』
    そう強く願った矢先だった。

    「ジェイド先輩」私がそう呼ぶと、彼は嬉しそうに目元をほころばせて笑う。その顔が好きだった。いつだって彼は笑顔だったけれど。その時ばかりは、まるで自分が彼の心をほどいたような。そんな気持ちに心が浮き立った。好きになって、好きになられて。一人でやって来た異世界だったが。友人も増えて、人間関係が広がり。帰る方法が見つからなくても。ずっとジェイド先輩と一緒に居られたら。一緒に生きていけたなら。

     最初の変化はわずかなものだった。視界の端に、今は懐かしい見知った光景が広がっていた気がして、振り向くと確かに見えたと思ったはずの光景が霧散している。
    月に数回起こるその現象は、白昼夢のようで。元の世界の自分の部屋だったり、学校でよく過ごした部室だったり、友達と通ったカフェだったり。場所も時間も様々で。再び見ようとすると、もう無くなっている。
    きっと見間違いだと。帰らないなんて決めてしまったから急に惜しくなったに違いないと決めつけて、その事実に蓋をした。
     ジェイド先輩は、私を弱くて守って手をかける存在だと思っているから。余計なことを言えば、只でさえ忙しい彼の負担になってしまう。それは、どうしても避けたかった。
    不安が胸の大半を締めてしまった時には、口内で三回『大丈夫』と音に出さずに唱えて深呼吸する。手を何度か開いたり閉じたりして、近くのものに触る。
    それはヒヤリとした壁だったり。始終側に居る温かいグリムだったり。此処にいる確認が終わると、ホッとしてまた日常に戻れる。
    元の世界への未練が無くなれば、いつか見えなくなるだろうと。そう信じていた。

     半年ほどたった頃、状況は悪化していた。
    白昼夢というには頻度も時間も長くなり、風景だけだったものが其処に居るであろう人物までもが紛れ込んでくるようになった。
    友人と話していると彼等の後ろに昔通った学校の風景があり、そこに通っていた学校の友人達や教師が見える。まるで自分達が元の世界に紛れ込んだみたいに見えるのに、どうやら見えているのは自分だけらしい。
    あんなにハッキリ見えているのに。エースもデュースも始終一緒に居るグリムにも指摘されたことがない。私しか見えないんだ。その事実を絶望的な気持ちで受けとめた。
     ある日、放課後にジェイド先輩にお茶に誘われた。嬉しい時間なのに、私はこぼれそうなため息を堪えた。二人で過ごせる貴重な時間を自分の悩みごとで消費するのは嫌だった。しかし、空気を読まない現象は誰と居ようがお構いなしにやってくる。ジェイド先輩と過ごしているときに起きると最悪だった。勘の良い先輩に気付かれないように、細心の注意を払って過ごす時間は神経をすり減らした。最近はジェイド先輩に隠し事をしていると疑われているから余計に迂闊な真似は出来ない。ずっと一緒にと言った矢先から、隠し事を続けているなんて。なんて不誠実なんだろう。

    コポコポと香りの良いお茶が琥珀色の線を描いて繊細で美しいティーカップに注がれる。
    「最近眠れないんですか?」
    心配そうに言われた言葉に目を向ければ、ジェイド先輩の目が見定めようとひたりと私に据えられる。
    にっこりと笑みを浮かべて答える。
    「そうですね。寝れない日もありますよ、試験が心配だとか、勉強についていけないとか、何時も悩みで一杯なんです」
    嘘じゃない。学業が難しいのは、此処に来てからずっと変わらない。
    「それなら何時でも僕を頼ってください。教えることは良い復習になりますし、大事な恋人の役にたてるのは僕の楽しみですから」
    「本当ですか?ジェイド先輩の時間があればいつでも!そしたら一緒にいられますね」
    思わず嬉しくて満面の笑みを浮かべれば。困り果てたという顔で、ゆっくりと伸びてきた大きな両手が私の頬を包む。
    「あなたは本当はそういう風に笑うんですよ。そんな作り物めいた顔をしないでください。僕に悩みを教えてはいただけませんか?大事な恋人に魔法なんて使いたくないんです」
    本当に心配してくれているのがわかる。もう、はぐらかされてはくれない。私は今からこの人を傷つける。

    あぁ、ごめんなさい。ごめんなさい。

    遠くで水の流れる音がする。私はゆっくり口を開いた。
    「……言えません。大丈夫ですから」
    見合わせた視線が酷く傷ついて揺れる。一度固く閉じられた瞳が開かれると迷わず真っ直ぐ私を見据える
    「あなたは酷い人だ。本当に酷い人です。僕の左目を見て、そんなに怖がらないで、力になりたいんです。かじりとる歯《ショック・ザ・ハート》」
    ジェイド先輩の言葉が終わると、一気に頭の中に霞がかかった。ふわふわと夢の中にいるような。
    「ここ数ヶ月ずっと僕に隠し事をしていますね?」
    私はその問いに後悔しつつも、素直に頷いた。
    「…教えてください」
    「この世界でジェイド先輩と生きていきたいって思ってから、前の世界の白昼夢をよく見るんです。初めは本当に一瞬だったのに、今は何度も何度も繰り返していて、まるで元の世界に紛れ込んだように景色が変わるんです。そうすると、私は何処に居るのか分からなくなってしまって。それが怖くて夜も眠れないんです。私はどうやって此処に来たのか分かりません。何も出来ずに帰ってしまったら。ジェイド先輩と急に引き離されたら。こんなに側に居たいと思っているのに」
    溢れる恐怖に、すがるようにジェイド先輩の腕を強く握る。
    「私、此処に居たいんです。大事な友達が沢山いて。笑ったり、喧嘩しながら。グリムと一緒に学園を卒業するんです。大魔法士になったグリムを見届けて、卒業した先輩を追っかけて、それで」
    苦しい。苦しい。こんなに醜く執着して。それをジェイド先輩に晒して。自分が嫌いだ。自分の力では何もできない。すがって願う事しか出来ない自分が嫌いだ。
    「言葉は力があるって授業で。吐き出す言葉は現実を引き寄せるって、そう聞いて。嫌です、嫌です、嫌です。ずっと一緒に居たいんです。あなたが。ジェイド先輩が居ない世界には帰りたくないんです」
    とうとう嗚咽して体を震わせる。後半は頭に霞なんてかかってなかった。ただ、止まらなかっただけだ。飽きられた。嫌われた。どうしよう、どうしよう。真っ黒なソファと固く握りしめた自分の手が色を失って紙のようだった。うつ向いた視界に伸びてきた手が労るように優しく添えられる。それさえ恐怖で体が跳ねた。
    「無理なやり方をしました。でも、僕は後悔はしていません。どんな手を使ってでも、あなたを手放す気はありませんから。さぁ、顔をあげてください。」
    私はしゃくりあげながら、ジェイド先輩を見上げる。優しく見下ろすその瞳の裏にギラギラとした執着を。
    「あぁ、ほら。こんなに目を腫らして。グリム君には僕から連絡しておきますから、今日はオクタヴィネルでゆっくりしていきませんか。離れないように、一緒に眠りましょう。」
    差し出される手を握り返して涙でべしょべしょの顔で笑う。ジェイド先輩の後ろに見える、陽光で輝く噴水から目をそらしながら。

    身を寄せて眠ったその日は本当によく眠れて。スッキリとした顔の私を見て「毎日一緒に眠れば安心ですね」とにこやかに言った笑顔は、言外に「断ることなんて無いですよね?」という圧力を伴っていたので、私はただ頷くしか無かった。
    私の症状は、ジェイド先輩の提案で学園長やグリムなど、身近な人達と共有されることになった。
    原因については学園長が調べてみるとの事だったが、解決策については分かる可能性が低いとの事だった。
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