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    片海鏡

    @kataumikyou

    一次創作、二次創作、何か色々描く。スプラが好きです

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    片海鏡

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    前回のsqsqの二次創作妄想小説の続きです。捏造の山です。人それぞれの解釈を読んでみたいなぁ、と毎回思います。支部にもまとめたものを投稿しようと思いますが、きりが良い所で行う予定なので先の話です

    今のところ無し その3 文化祭当日。校門には、色とりどりの風船とペーパーフラワーで飾られた手作りのゲートが設置され、来客を出迎える。校舎の中も輪飾りなど手作りの装飾が施され、クラスや部活ごとにお化け屋敷やミサンガ作りのコーナー、ドーナツ屋等が開かれている。中学でありながら、祭り好きが多勢のために気合いが入っている。

    「イチヤもバンドで応募すれば良かったのに」
    「メンバーがいない」
    「ベースやってるって、あいつ言ってたよ」
    「やだ」
    「まぁ、ドラムやシンセサイザーもいないから、出来なよな」
    「シンセサイザー??」
    「えっ、イチヤは知らないの」
    「キーボード使うやつの事だろ」
    「へぇー」
    「シンセサイザーはシンセサイザーって楽器!」

     クラス展示の接客当番の時間が終わったイチヤはイカボーイ2人と一緒に、ブラブラと文化祭を回った。あのベースを演奏していると自称したイカボーイの姿は無い。同じクラスでも仲が良いわけではないイチヤは、以前の衝突もあり、特に気に掛けなかった。

    「そういえば、全体鑑賞でバンド出るんだよ」
    「おっ、丁度良かったじゃん」

     文化祭の個人・団体の展示は午前10時から午後3時まで行われ、午後4時から6時には体育館で学生全員を集めた閉会式を伴う全体鑑賞が行われる。合唱部やダンス部だけでなく、ゲストとしてプロの劇団や音楽家が呼ばれ、一味違う盛り上がりを見せる。去年はバンカラ地方最古とされる舞踏流派〈曼蛇流〉の舞踊と音楽が披露された。

    「やっぱりプロ?」
    「実行委員会長のお姉さんのバンドで、まだアマチュアだって」
    「なーんだ」

     がっかりとするイチヤではあるが、生のバンド演奏が聴ける機会は逃せないと思った。

    「でも会長の独断と強行じゃなくて、音楽教師がバンド演奏聞いて許可したって聞いたよ」
    「へぇ、上手いんだ」

     他愛ない会話を重ねている内に時間は過ぎ、放送が入る。イチヤ達も自分のクラスへと戻り、片付けを行った。そして、再び放送が流れ、全生徒は体育館へと集まった。
     午後4時になると体育館の窓はカーテンで覆われ、電灯が消される。舞台のカーテンが開けられると共に照明が灯され、演劇が始まる。
     流れ作業の様に、イチヤは始めと終わりに拍手を繰り返した。

    『合唱部の皆さんありがとうございました』

     照明が一度落とされ、折り畳み式のひな壇の片付けと楽器の運搬が開始される。

    『続きまして……』

     ゲスト参加のバンドの名前がアナウンスされると、学生達が小さく騒ぎ始める。

    「バンドを呼べるなんて、凄いね」「実行委員会の会長のお姉さんだって」「楽しみー」
    「ボランティアらしい」「流石に嘘でしょ」「街って借金まみれらしいよ」「えっ」
    「歴史も大事だけどねー」「やっぱ盛り上がるならねー」
    「社会人?」「大学生じゃなかった?」「5歳離れてるって聞いた」
    「誰」「インディーズかぁ」「知ったかぶり辞めろ」「あの曲やってくれるかなー」

     四方から会話が聞こえるが、照明が再び灯されると一瞬で静かになった。
     壇上には4人の若いバンドマンが立っている。学校の音楽室に仕舞い込まれた楽器では無く、彼らの持ち物であるのは一目瞭然だ。本格的なバンドが来たと、生徒たちの期待が高まる。

    『皆さんこんにちはー! 今日は文化祭に呼んでくださり、ありがとうございまーす!』

     緊張感を見せない営業スマイルのボーカルが、マイク越しに挨拶をする。伸びやかで透き通る声は、実力者の証だ。

    『精一杯頑張りますので、聞いてください!』

     生徒達から歓声が上がり、拍手が巻き起こる。
     ボーカルは手を振りながら観客席全体を見渡した後、ドラムに目線を送る。
     ドラムは小さく頷くと、曲の始めの合図となるドラムスティックによるカウントを始める。合図とともにギターとベースがイントロを奏で、何度聞いても覚めあらぬ流行の曲に生徒達は色めき立つ。
     そして、ボーカルの涼やかなソプラノが響き渡る。
     生徒達は歓声を上げる。ライブに慣れた生徒はリズムに合わせて飛び上がり、ある生徒は共に口ずさみ、熱狂の色に染まる。

     イチヤはその中でただ一人、冷静だった。遠くの席に座るかのように、渦の外にいた。

     生演奏を聴いて喜べるはずが、何かが物足りない。なぜかガッカリしている。
     あちらもこちらも同じ色ばかり。
     一色で塗り固められた音楽に、耳を塞ぎそうになる。
     そして、凪いだ海の上に浮かぶ船の様にイチヤを残し、8曲目の最後の曲が始まる。
     変わらず生徒達は熱狂する。
     その最中、ボーカルが二番を一番の歌詞で歌うミスをした。これまで見た事もない熱狂に油断をした。意識が霧散し、集中力がその瞬間に切れ、歌声が止まる。
     その動揺に釣られる形でギターの指とドラムの手が止まる。
     その異変を瞬時に少年少女は察知し、歓声が止まりかける。

     静寂が訪れようとした瞬間だった。

     これまで表情を一切変えず不動の演奏を続けたベースが、即興ソロアレンジを炸裂させる。

     1等星よりも遠く、しかし確かに放たれ続けた星の輝きが鼓膜を刺激する。
    4本の弦から素早く打ち鳴らされる低音の旋律は、流星同士がぶつかり合うように刹那に弾け飛ぶ。
    ここにいると叫ぶ。
     それに。
     その旋律に。
     その音に。
     イチヤの瞳の奥に眠っていた星が煌めき出す。
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