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    片海鏡

    @kataumikyou

    一次創作、二次創作、何か色々描く。スプラが好きです

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    片海鏡

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    sqsqがバンド結成から活動休止までの妄想捏造小説の続きです。改めてナミダ登場。ムラサキの登場はもう少し先です

    その11「私はナミダ。ここのマスターの孫娘なの。あなたは?」
    「お、俺はイチヤ。ギター担当……」

     中学では男友達とばかり連れ立っていたイチヤは、緊張し口が回らなかった。

    「へぇ、ナミダも音楽活動始めるのか」

     周知の仲であるイッカンは、興味深そうに言う。

    「うん。前々からやりたいと思って」
     そう言って彼女は、蜂蜜がたっぷりかかったパンケーキにナイフを入れる。

    「楽器は?」
    「シンセサイザー。丁度良いでしょ?」

     それを聞いただけで〈よろしく!〉と元気よく言いそうになったイチヤの口に、イッカンはミックスサンドをねじ込んだ。

    「確か、高3だったよな? 大丈夫なのか?」
    「最初は動画配信をメインにするから、平気。趣味の時間が音楽活動に移るだけだよ」

     ナミダはそう言うと、一口サイズに切ったパンケーキを口へと運んだ。

    「あぁ、動画か。それなら、家で時間があればできるな」

     納得するイッカンだが、ミックスサンドを食べるイチヤは訳が分からず2人を交互に見ている。

    「携帯やビデオカメラで撮った映像を、インターネットで世界各国のヒトに向けて公開するってことだ」
    「そんな時代が……!」

     イッカンの携帯電話には、ライブハウスで演奏を行うバンドの映像が表示されている。目を輝かせながら見るイチヤに対して、イッカンは小さくため息をつく。

    「もう9年くらい前から配信サイト自体はあるぞ。音楽はこっちが主流になるって噂もあるし、おまえはもう少し情報収集しろよ」
    「パソコン触れる機会なんて学校くらいしかないから、無理」

     携帯電話やパソコンなど電子機器の普及は急速に拡大しているが、全員が全員持っているとは限らない。アンテナの設置や機材の購入には金が掛かり、親の理解も必要だ。ついこの間まで中学生だったイチヤには限度があった。

    「あー……そうだったな。悪い」
     それに気づいたイッカンは、素直に謝罪をする。

    「バンドって、どんな曲やる予定なの?」

     パンケーキを頬張りながら2人の様子を終始見ていたナミダは、静かに、しかし興味あり気に言った。

    「曲については、これからだ。ジャンルはラウドロックあたりになると思う。これから、イチヤの頭の中にある曲を楽譜に落とし込む必要があるんだ」
    「コピーバンドではないんだ?」
    「絶対できないな。こいつ、すぐに曲作り替えるんだ。それに楽譜が全く読めないから、書けないぞ」

     イッカンはバンドを組むと決めた後、イチヤの癖になってしまっているエレキギターの持ち方を直させた。その違いを実感させるために、直す前と後で流行の曲を演奏させた。
     耳の良いイチヤは一回聞くだけで即座に演奏できたが、途中から曲を作り替え始めてしまった。アレンジと言えば聞こえは良いが、続けば続くほどに原型を失った。では彼の頭の中にあるオリジナルはどうかといえば、テストの時に演奏した曲を作り替えることなく弾き終えた。

    「頭に浮かんだから、弾いただけなんだけど」
    「浮かんでも、好き勝手に曲を替えんな。バンド演奏でやったら、崩壊まっしぐらだ」

     不満そうに言うイチヤにイッカンは注意をした。
     どんなに耳が良くとも頭に残らなければ、きちんとした演奏は出来ない。言葉の並びだけみれば当然の話であるが、イチヤは興味が無ければ覚えるつもりは無く、〈できない〉とは別枠だ。さらに楽しい、面白いと自分が気持ち良くなるために、曲を作り替える。それにバンドメンバーとして巻き込まれたら、堪ったものではない。
     即興、一発勝負と銘打つならともかく、一般的なバンド演奏では致命的だ。

    「……そんなわけで、イチヤの音楽を楽譜にするのも、演奏するのも相当苦労がいるぞ」
    「面白そうだね」

     大まかに話を聞いたナミダは、はっきりとそう言った。

    「……本気か?」
    「本当に!?」

     怪訝そうに目を細めるイッカンの隣で、クリームソーダを飲んでいたイチヤは目を輝かせる。

    「本気で本当。イッカンさんが世話を焼くほどだから、凄い曲をイチヤくんは作るんでしょう? 私も演奏してみたいし、その楽譜作ってみたい」
    「俺を買い被りし過ぎだろ」
    「ほら、イチヤくんにはその言葉使わないでしょ」

     言い返そうとしたイッカンだが、なぜかイチヤはにんまりと笑みを浮かべているのが目に留まる。

    「気持ちわるっ」
    「なんだとぉ!?」

     飛びかかろうとするイチヤだが、身長と力の差で抑え込まれ、不貞腐れながらクリームソーダを再び飲んだ。

    「それじゃ、2人ともよろしくね。合わないようなら、直ぐに脱退命令下して大丈夫だから」
    「お、おう。わかった。よろしく」
    「よろしく!」

     掴み所の無いマイペースなナミダに、イッカンはやや戸惑いながら、イチヤは快く応じた。

    「晴れてバンド結成だね」
     3人のやりとりを見ていたマスターは、嬉しそうに微笑む。

    「あとはドラムだよね。おじいちゃんの知り合いに、出来そうなドラマーいる?」
    「知っているヒトは、みんな何処かしらのメンバーだからなぁ……」

     マスターは考え、そして何かを思い出した。

    「あぁ、そうだ。一か月後に、新人のバンドマン達が集まって、ここでミニライブを開くんだ」
    「ミニライブ……」

     イチヤは出入り口横の掲示板へと顔を向け、ポスターを確認する。

     その中に開催が一か月後の日付が書かれたビビットポスターがあった。そこには〈飛び入り参加大歓迎!〉と大きく書かれ、ロックやジャズなどジャンル問わず出来立てほやほやのバンド名が連なっている。

    「交流会も兼ねていているんだ。自分達の曲を聴いてもらって、募集を掛けてみるのはどうかな?」

    「賛成!! 良い宣伝になるから、絶対にやる!」
    「おい。たった一か月で、人様に出せる曲を作るんだぞ」

     思わず立ち上がり、参加表明するイチヤをイッカンは制止する。
     ドラムがいなくともバンド演奏は可能だ。しかし楽譜の作成に加えて、合奏経験のないイチヤとの練習は難易度が高く、最低でも2ヶ月は欲しいところだ。

    「俺達なら出来るって!」
    「あのなぁ……」
    「もし参加してくれたら、臨時ボーナスあげるよ」

     ドラム奏者を探すだけでなく、可愛い孫娘に経験を積ませようとするマスターの意図が読める。けれど〈臨時ボーナス〉の言葉に、イッカンの心が揺らいだ。

    「イッカンって金が好きだよね」
    「うるせぇ。生活する為には必要だろうが」

     そう言ってイッカンは、ミックスサンドを手に取った。
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