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    片海鏡

    @kataumikyou

    一次創作、二次創作、何か色々描く。スプラが好きです

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    片海鏡

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    spspのバンド結成から活動休止までの妄想捏造二次創作の小説の続きです。音楽を文字で表現するってかなり難しいです。頭捻ってます。誤字や脱字があると思いますが、ご了承ください。

    その8「演奏するのは3曲までだ」
    「たったの? 沢山考えたのに」
    「数じゃねーんだよ」

     イッカンは譜面台をステージ端に置き、不満そうなイチヤの元へマイクスタンドを持って来た。

    「イチヤは、俺をバンドメンバーにしたいんだろ?」
    「その通り! 俺はイッカンとバンドがやりたい!」

     気持ちの良い程の即答に、イッカンは苦笑する。

    「だったら、おまえのメインブキとサブ、スペシャルで3曲を選んでみろ。おまえの実力と強さを聞かせろ。なあなあな曲を長々と聴かされるなんてゴメンなんだよ」

    「わかった! 選ぶから、座って待ってて!」
     ナワバリバトル経験者であるイチヤは、その言葉にピンと来た様子で、大きく頷いた。

    「とびっきりのヤツ頼むぞ」
    「まかせて!」

     イッカンはステージ前の席に座った。
     イチヤは指折り数え、悩んだ後、スタンドに取り付けられたマイクの電源を入れる。

    「あー、あー、あー」

     マイクがちゃんと機能しているか確認を終え、イチヤは満足げに笑みを浮かべる。

    「準備完了!」

     気合十分なイチヤだが、対するイッカンは不安で仕方がない。
     言ってはみたが、一体どんな演奏が飛び出してくるか予想がつかず、ただの子供の御遊戯に成り下がらないか逆に心配にすらなる。

    「よろしくお願いしまーす!」

     イッカンの心境とは裏腹に、イチヤは勢い良く一礼をするとギターを構える。

    「拍手!!!」
    「は? あー、わかった。わかった」

     ピアノの発表会や演劇のように形から入りたいのだろう。ここで言い合っても意味がないので、イッカンはイチヤへと若干やる気のない拍手を送った。

    「それでは聞いてください! まずは一曲目!」

     ロックを参考にしたのだろう。がむしゃらに奏でられる大きな音が爆竹のように弾け、煌めく曲だ。
     エレキギター音はチューニングしても、不安定さが目立つ。ギターのリフはかなりの荒削り。ギターの持ち方すらどこか心もとなく、弾き方におかしな癖がついてしまっているように見える。
     しかし、初心者の癖に高度テクニックを無理やり使って上級者ぶる様な、馬鹿な真似事がない。
     曲としては成り立っているし、このがむしゃらさは嫌いではないとイッカンは思う。
     予想外に良いのは、声だ。伸びがあり、高音でも声は抜けていない。活舌が時折悪くなり、終わりがけに音がブレるので、そこを直せば良い線いきそうだ。

    「二曲目!」

     アイドルの曲を参考にしているようでいて、先程とは打って変わり軽快で爽やかで、水飛沫のような曲だ。
     音階を理解していないはずが、転調がうまい具合に出来ている。音が違うと聴き分けた時点で耳が良いとは思っていたが、かなりの感覚派だとこれで確信が持てた。
     聴き心地の良い曲になっているが、決定打に欠ける。水飛沫で出来た水面の泡の様に、同じものが幾つも湧き上がっては、誰にも気づかれずに消えていきそうだ。
     続けて聞いたせいか、一曲目の方が印象に残る程だ。何もかもが惜しい。

    「これが、最後! 俺が練りに練ったスペシャル曲!」

     演奏が楽しいと目を輝かせているイチヤは、高らかに宣言する。

    「それでは聞いてください!」

     イントロはほぼ無く、エレキギターの音と伸びやかな歌声から一気にスタートする。
     インクは弾け飛び、キャンバスがカラフルに色付く。
     白も、黒も関係なく、全てを塗り潰す。
     ギターリフの荒削りさが逆に曲を引き立て、どこ懐かしいセピア色を残していく。

    「は……?」

     僅かに覚えのある旋律が聞こえ、イッカンは笑みが零れそうになり口を押える。
     ―――こいつ、文化祭で俺がやった即興アレンジに更に手を加えて、曲に組み込んでやがる。
     聞くまで忘れていたあの旋律を、1回聞いただけで覚えた。音を正確に掴み、手中に収めた挙句、自分色に塗り潰した。
     あの時からここまで成長したと言うかのように。
     ここまで上手くなったのだから認めて欲しいと言うかのように。
     ある種の挑発であり、挑戦だ。
     一体、どんな頭をしていたら、こんな曲を思いつくのか。

    「どう!? どうだった!!?」

     曲を弾き終え、興奮の冷めないイチヤは、イッカンへとマイク越しに呼びかける。
     スポットライトの光を一身に受けるその姿は、まさしく1等星の輝きを放っている。
     けれど、その輝きはこれから更に強くなっていくのだろう。
     面白い。
     そう素直に、イッカンが思う。

    「イッカンは、俺とバンド組んでくれる?!」

     以前も聞いた問いかけ。
     どうして目を付けられたのか皆目見当がつかないイッカンは、椅子から立ち上がった。

    「おまえとなら面白い曲が作れそうだ」

     イチヤはその答えに、飛び上がる程に喜んだ。






    「おじいちゃん、手伝いに来たよー」

     空が瑠璃色を深め始める頃、喫茶店の裏口からインクリングの少女がやって来る。
     今日は生演奏があるので、常連客がたくさん集まっている。アルバイトと祖父であるマスターの2名では捌ききれないのを見越して、近所の家から喫茶店まで手伝いに来たのだ。

    「いつもありがとうねー」 

     バンド演奏はもう間もなく始まる。マスターはキッチンで、4人分のサンドイッチを作っている最中だ。

    「学校帰りにここを通った時、ギターの音が聞こえてたけど、誰か来てたの?」

     音楽を演奏するには、ある程度の防音と設備が必要だ。練習室のレンタルを予約するにもお金がかかるだけでなく、満室の場合もある。特にハイカラシティは流行の中心となる今は、多くのバンドが集まっており、余計に練習する場が限られる。隠れ家のようなこの喫茶店では、昼間はよくミュージシャンの卵たちが練習やライブの予行練習を行っていた。
     大抵はエレキギター、ベース、ドラムの3つの音が聞こえる。それならばいつもの事と流せるが、今回はエレキギターと若いボーカルの声だけだったので、少女は気になっていた。 

    「ナミダちゃんくらいの男の子が、イッカンくんに指導してもらっていたんだよ」
    「へぇー、イッカンさんが年下の子といるなんて、珍しいね」

     ナミダはそう言って、エプロンの紐を結んだ。
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