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    片海鏡

    @kataumikyou

    一次創作、二次創作、何か色々描く。スプラが好きです

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    片海鏡

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    spspのバンド結成から活動休止までの妄想捏造二次創作の小説の続きです。物語の都合上で、捏造の喫茶店登場です。次でイチヤが曲を披露する予定です

    その7 ビルの間を抜け、網目の様な細道を通る。イッカンの道案内で10分ほど歩くと、目的の場所へと到着した。
     隠れ家のような佇まいの喫茶店。古びた看板には〈show you〉と書かれている。
    レンガ調の外観に重厚感のある玄関扉の上には、年季を感じさせる赤い庇が取り付けられ、プランターに植えられた白い花が見ごろを迎えている。

    「ここは?」
    「昼間は喫茶で、夜間はジャズバーを経営している。俺のバイト先の1つだ」
    「へぇー」

     お洒落でいながら歴史を感じる趣のある佇まいに見惚れていると、イッカンは何食わぬ顔で喫茶店へ入って行く。その後ろをイチヤは慌てて付いて行った。

     カラン、とドアベルが鳴る。

    「おや。出勤日じゃないのに、どうしたんだい?」

     レコードのジャズが流れる店内。カウンターでコーヒーカップを磨いていた年老いたイカが、イッカンへと話しかける。
     額縁に入ったジャズのポスターが飾られた黄土色の壁、天井から吊り下げられた暖色光のライト。フローリングの床は毎日丁寧に掃除されているのか、ライトに光を反射する程に綺麗だ。カウンターの後ろには、コーヒーカップだけでなく、何百枚ものレコードが収められた棚が壁一面に並んでいる。
     出入りの扉横の壁に掛けられた掲示板には、店で開催されるジャズや歌謡ポップスなどのライブポスターが貼られている。年齢層が高いと思いきや、案内の中には20代の若いロックバンドのライブポスターもあった。

    「こいつが演奏聞いて欲しいって言うので、奥の控室を使わせて貰いたくて来ました」
    「こんにちは」
     イッカンの後ろから顔を出したイチヤは、店主へ挨拶をした。

    「はい、こんにちは。イッカン君の弟かい?」
    「違います」

    「バンドメンバーのイチヤです!」
    「勝手に仲間内にするな!」
    「あとちょっとで成るんだから、変わりないだろ!」
    「変わる!」

     じゃれ合いの様に喧嘩をする2人を見て、店主は微笑ましく思った。

    「夕方までステージ使っても良いよ」
    「えっ、いいんですか」
    「今日はライブの日だから、常連はそっち目当てで来ていないんだ。だから、かなり空いててね。暇なんだ」

     年季の入った重厚な椅子とテーブルが並ぶ広い店内には、全く客がいない。裏通りに面し、知る人ぞ知る喫茶店であるここは、一見さんはあまり来ないのだ。

    「ありがとうございます」
    「お客さん来たら、呼んでね」
    「わかりました」

     穏やかな声で店主のイカはそう言い、店の裏へと入って行った。
     カウンターへと入って行ったイッカンは、店内に流れる音楽を止める。

    「ステージはこっちだ」

     彼が歩いて行った店内の奥には、グランドピアノが置かれた開けた場所がある。ここだけは壁にステージカーテンが掛けられ、天井にはスポットライトが取り付けられている。

    「演奏の準備してくれ」
    「うん」

     イッカンは壁際に置かれているギターアンプの位置を僅かに動かし、その隣に置いてあった譜面台をステージまで持って来る。イチヤはエレキギターをケースから取り出し、ストラップを肩へと掛けた。

    「準備完了!」
    「は? アンプに繋いで、チューニングしろよ」
    「アンプ? チューニング? なにそれ」

     明らかに分かっていない様子のイチヤに、イッカンは嫌な予感がした。

    「エレキギター弾く癖に、知らないのか……?」

     パッと見たところ、エレキギターの手入れは出来ている。弦も交換できていそうだ。それなのに、演奏の前に行う準備を何も知らない。
     嘘を言っている様には見えず、イッカンは説明する事にした。

    「アンプは、音の変換や増幅をさせる機械だ。演奏するだけでは小さくて聞き取りにくい音も、アンプを通してならはっきりと聞こえる。エレキギターなら、本来の音を引き出してくれるんだ」
    「チューニングは?」
    「音を調律することだ。湿度や気温によって、太さの違う弦はそれぞれ音程が少しずつ変わる。6本の弦の音を合わせないと、雑音だらけで、綺麗な音楽はできないんだ」
    「へぇー?」

     理解できていないのがまる分かりで、イッカンは苛立ったが、いちいち怒っていては埒が明かないと自分に言い聞かせる。

    「ちょっと待ってろ。舞台裏に道具あるから」

     イッカンがため息を着きつつ、舞台の後ろカーテンを捲り、隠れた扉を開けて中へと入った。中は控室兼練習部屋だ。ライブ前の演奏家たちが最後の調整を行うために使われている。防音設備が整っているので、イッカンはここを使わせてもらう予定だった。
     棚に置いてあるアンプとギターを繋ぐシールド・コードとチューナーを持って、イッカンは店内へ戻った。

    「まず、このコードをおまえのギターとアンプに繋ぐ。場所は……」

     エレキギターのアウトプット・ジャック、アンプのインプット・ジャックにコードのプラグを繋ぐ。そして、アンプに電源を入れた。

    「隣に置いてあるのも、同じアンプ?」

     イチヤのエレキギターと繋がっているアンプの隣には、二つ電源スイッチがあるアンプが置かれている。

    「こっちは真空管が入ってる。曲のジャンルやミュージシャンの好みで、使い分けてる。これまで説明すると長くなるから、今度楽器屋に行って聞け」
    「わかった」
    「アンプは、このつまみで音域をどれくらい出すか、削るかを調整する」
    「う、うーん?」
    「おまえの場合、まずはチューニングやって、アンプを通してどう音が出るか知ってからだ」

     高、中、低の音域、エフェクトの有無、スピーカーから聞こえる音量の調整とつまみにはそれぞれの効果がある。こればかりは、説明したところでは分からない。実際に音を聞き、アンプのつまみを弄って、ようやく理解できるものだ。

    「まず、これをヘッドに取り付けろ。それから電源を入れて……」

     手の平に収まる程の小さな長方形の機械をイチヤへと渡し、イッカンはチューニングのやり方を教えた。
     こちらの方法はアンプに比べれば単純だ。音が低ければエレキギターのペグを絞め、高ければ緩め、一本一本の弦の最適な音になるまで調律を行う。
    一回やり方を教えるとイチヤはすぐに理解した様子で、チューナーの画面に映し出されるメーターの針の見ながら、調律を始めた。
     アンプを通して聞く音の違いに戸惑いながらも、真剣に取り組む姿勢は、確かに音楽が好きなのだとイッカンは思った。

     そして、
    「だから、毎日音が違うのかぁ」
     なんとかアンプの調整とチューニングを終えた。

    「その違いを直そうとは思わなかったのか?」
    「全然! プロは技術で、なんとかしてると思ってた!」
    「んなわけねーだろ……」

     無知さに呆れはするが、音楽に真剣な分、飲み込みは早い。
     妥協点だとイッカンは思う。

    「それじゃ、曲を聴かせてもらうか。楽譜は?」
    「俺は楽譜読めないし、書けないよ」
    「はぁ……?」

     イチヤに不思議そうな顔をされ、さらにイッカンは驚いた。
     アンプやチューニングは、まだ初心者であり得る話と思えるが、楽譜は論外がすぎる。

    「おまえ、中学の音楽の成績は?」
    「5段階の内で2」
    「テ、テストは?」
    「んー……赤点回避?」
    「最後まで?」
    「うん」
    「……ちょっと待ってろ」

     イッカンは、喫茶店のバックヤードからメモ帳とボールペンを持って来ると、ト音記号などを音楽初心者向けの記号を書いた。

    「試させてくれ。これは、何て読むんだ?」
    「これは……」

     結果、10問中9問正解。正解の一問は音楽知識からではなく、SNSのタグ表記で使用されている〈♯〉である。
     絶句し、イッカンは頭を抱えたくなった。
     座学は駄目でも楽器演奏は出来るから、温情の〈2〉
     学校の授業で教わる音楽が古臭いものばかりで、学ぶ気が起きない。そこはイッカンも学生時代に思った事があるので、理解はできる。しかしイチヤの場合は基礎知識どころか、音楽の初歩の初歩、小学生や幼稚園レベルが分からない。

    「……ここまで来たんだ。聴かせろ」

     これは、危ないのでは? 本当にこいつ曲を作ったのか?
     一瞬そう思ったが、ここまで来て聴かないのは駄目だ、とイッカンは踏み止まった。
     
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