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    片海鏡

    @kataumikyou

    一次創作、二次創作、何か色々描く。スプラが好きです

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    片海鏡

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    sqsqの妄想捏造小説のその4です。章を付けるとしたら、これで一章終わりに成るのかな?と思います。一応区切りができました

    今のところ無し その4 立て直したギターが音を鳴らし、ボーカルが歌詞を繋ぎ合わせ、ドラムが安定させる。

    「今のすげー!」「ベースうますぎ!」「テクい!」「なんだあれ!?」

     有象無象の声の中、イチヤはただ真っ直ぐにベーシストの弾き出す音に耳を傾けた。
     そして、無事に演奏を終え、拍手喝采が巻き起こる。

    『ありがとうございましたー!』

     笑顔のボーカルは両手で可愛らしく手を振り、男性陣は軽く会釈をすると、壇上の照明が落とされた。アンコールの声掛けをする生徒達もいたが、閉会式のアナウンスが入る。落胆の声と熱狂の冷めない声は、まだ治まらない。

    「凡ミスしといて謝罪なしかよ。あのベース、たまたま乗り切れたからって調子に乗りやがって」
     背の低いイカボーイはイチヤの近くで、吐き捨てるように言った。

    「なぁ、イチヤ」

     彼が声を掛けるとほぼ同時に、イチヤは踵を返し、生徒達を掻き分け、走り出す。
     出入り口の扉の前に立つ教師に止められるが、腹痛でトイレに行きたいと嘘を付き、彼は体育館を出た。
     熱が体中を巡り、感動の一言では表せない程の津波が全身を飲み込んで行く。
     耳に残る音が火花を散らし、心臓の鼓動が早く鳴る。
     閉会式が終わるまで、我慢する事は出来ない。
     帰られてしまう前に、あのベースのイカに言いたい事がある。





    「イッカンくん、ありがと!」

     バンドメンバーの為に用意された空き教室。トラブルを脱し、無事に演奏を終えたボーカルは、ペットボトルの水を飲んでいたイッカンに感謝を述べる。

    「肝が冷えたぞ」
    「うぅ……本当にごめん。あんなに沢山の人の前で歌うのは、初めてだったから……」
    「もっと場数踏めよ」
    「うん! 頑張る!」

     素直な謝罪に対して、イッカンはそれ以上責める事はしなかった。

    「助かった。フォローしてくれて、ありがとう。これを教訓に、練習メニューを改めて、腕を磨くよ」
    「俺も。自分の未熟さを痛感しました」

     鯛とホウボウもまた感謝と共に反省をする。

    「あの、イッカンくん。それで」
    「すいません!!!!」
     ボーカルを遮り、高さのある独特な少年の声が控室に響き渡った。

    「えぇ?? 生徒さん?」
    「まだ閉会式の時間のはず……」

     出入り口に立つイチヤに驚くボーカルと、壁に取り付けられた時計を確認する鯛。その後ろで、イッカンはもう一度水を飲んだ。急いで走って来たイチヤは、息を整えるために息を整えると4人を見据えた。

    「ベースのイカに話があってきました!」
    「あ? なんか用?」

     イッカンは思わず顔をしかめた。
     イチヤは教室へと入り、イッカンの前に立った。まだまだ幼い顔立ちをしたイチヤは、真っ直ぐに彼を見つめる。

    「俺の名前はイチヤ! あんたは!?」
    「は? なんで」
    「名前!!!!」

     良く通るその声は、イッカンの言葉を遮った。

    「イ、イッカン……」

     勢いに負けて名乗ったイッカンに、イチヤは満面の笑みを浮かべる。
     その丸い瞳は若者らしい生命力と希望に満ち、キラキラと輝いている。

    「俺とバンド組んで!」
    「嫌に決まってんだろ」

     看破を入れずに即答され、驚愕し言葉を失うイチヤ。それはそうだと言った様子のギターとドラム、口を手で覆うボーカル。
     一瞬間を置いて、イチヤが声を発した。

    「なんで?!」

    「嫌なものは嫌だから」
    「さっきのライブの演奏聞いて、バンド組むならイッカンが良いって思ったんだ!」
    「なんだそれ……おまえ、まだ中学生だろ。ちゃんと勉強して、卒業しろ。そんで高校行け」

     思い付きに巻き込まれるのは、ごめんだ。そう言うかのように、イッカンはイチヤを突き放した。

    「せ、せめて俺の作った曲を聞いてよ」
    「こっちは時間ねーんだよ。俺はバイトがあるから、ハイカラシティに即帰る」

     ペットボトルのキャップを締め、イッカンは完全に話を切り上げる姿勢に入った。
     ハイカラシティとバンカラ街はかなりの距離がある。
    行き来するには、2パターンしかない。ナンタイ山トンネル、大ナワバリバトル跡地、バンカラ砂漠の3つを通るオールドハイウェイ108号を自動車やバスで通るか。ハイカラからは地下鉄、バンカラからはカラ街道線の電車に乗り、港の定期船に乗るか。どちらも円滑に移動できたとして二時間半は掛かる。
     双方を繋ぐマサバ海峡大橋の建設計画、バンカラのリュウグウターミナル改装計画の2つが始まり、完成すれば大幅な時間短縮が見込めるが、それは早くても10後の話だ。
     
    「……それじゃ、勉強して、中学卒業して、高校行って、ハイカラシティに行って……もう一度会ったら」

     引き下がらず、逃げず、否定された事を怒らず、ただ真っ直ぐにイチヤはイッカンを見据える。

    「俺とバンド組んでくれる?」

     射貫くほどの真剣な眼差しをイッカンに向け、イチヤは問いかけた。
     わざわざ体育館から抜け出してまで、頼みに来た。それだけでも音楽に対する情熱と、本気度が伺える。しかし一方で、パフォーマンスを見て夢見がちに言ったようにも見える。

    「……考えてやる」
     だからイッカンは了承せずに含みを持たせた。

    「ほんとうに!?」
    「考えるだけだ。組むとは言ってない」

    「それでも良い! ありがとう!」
     イチヤはそう言い切り、飛び上がる程に喜んだ。

    「ちょ、ちょっとイッカンくん。私達は!?」
    「は? おまえは自分とこのベース心配しろよ」

     ボーカルは肩を落とした。
     訳が分からずイッカンは鯛を見るが、なぜか彼は親指を立てて満足げにしている。

    「俺、イッカンに認められるくらいのスッゲー曲作って、会いに行くよ!」

     そうと決まればと、イチヤは駆け出した。

    「またね! イッカン!」

     出入り口で振り返ったイチヤはそう言うと、教室を後にした。
     嵐が過ぎ去り、室内は一気に静まり返る。

    「イッカンは、あれでよかったの?」
    「どうせ中坊の思い付きだろ」

     ベースが仕舞われたケースを背負い、イッカンは携帯端末から時刻を確認した。
     バスの時刻に間に合いそうだ。
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