誰がために花は咲く(続)時代は1915年───。
ヨーロッパに属する、とある国の港町。
夜の帳がゆっくりと町を包み込む。
マフィアであり、町の影の支配者「ヴォルペ・ファミリア」の別邸にも静寂が降りていた。
庭園には雨の名残があり、湿った石畳の上に水滴が残っている。
灯されたガス灯の橙が、そのひとつひとつを琥珀の粒のように照らしていた。
風が通り過ぎるたび、庭園に咲き残るバラが香る。
それは甘く妖艶で、しかしどこか青臭い苦味を含んでいた。
そんな夜の庭園に少女が一人佇んでいる。
彼女の名前は”リリーナ”。
ヴォルペ・ファミリアのボス、アルジェント・ヴォルペの一人娘だ。
石造りの噴水の縁に腰かけたリリーナの姿が、霧の中で浮かび上がるように見えた。
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