サイハテ『次の駅はーー』
音量調整を誤ったのかと思うほど、妙に大きな音量のアナウンスが耳を突く。目的地へはまだまだ遠いと、世一は息を吐いた。
頬杖をついて、窓の外に目を遣る。傾きかけた日が海にキラキラと反射して、思わず目を細めた。
ーーなあ、ダーリン。日々どうよ。
暫く連絡の取れていない恋人に向けて、心の中で話しかける。テレパシーが飛んでいって、返事が来る。…なんてことはなく。世一は「世一くんに心配されなくても」とむっつりと返す恋人を想像して、ふふっと微笑んだ。
窓の外の速度が徐々に下がり、駅舎に入ったところで完全に止まる。ヨーロッパらしく日本と比べて早めの帰宅ラッシュの時間帯のせいか、駅舎内は人でごったがえしている。
世一は何気なしに窓の外を眺める。
頭の中ではわかっていても、世一より一回り大きな体躯と燦然と輝くプラチナブロンドを目が勝手に探してしまう。
ーーいるわけないのにな。
苦笑いを一つ零して、世一は再び後ろに流れ始めた景色を目で追った。
◇◇◇
がたん。
車内で読もうと持ってきていた本を読んでいたら、唐突に地面が縦に揺れた。世一の体は少しだけ浮き、尻から椅子へと着地する。スタジアムの観客席のような簡素なプラスチック椅子にぶつかり、うぉ、と思わず声を上げる。
ーーあ〜あ、やっぱ遠いな〜。
すっかり日の落ちた海には、ぽつりぽつりと船の明かりが灯っている。
なんか、俺の動きを察知したあいつが、駅まで迎えにきてたりしないかな。
ないか。
世一はくあ、とあくびをして、大きな瞳を瞼の裏へと隠した。