【ngis】結婚しよ「うぅ〜、気持ち悪い…明日二日酔い確定じゃん…」
スポンサー主催のパーティで、しこたま酒を飲まされた凪は、痛む頭に口をバツにして、家の扉を開けた。暗い廊下は、しんと静まり返っている。物音を立てずに手洗いと歯磨きだけ済ませ、寝室へと這入る。
こんもり盛り上がった布団から、愛しい恋人の、いとけない寝顔が覗いている。凪はさらさらした黒髪を軽く梳いた。んん、と彼が顔をぎゅっと歪ませ、微かに目を開いた。
「あ、ごめん」
「ん〜…なぎだぁ…」
へにゃりと目を細めて目の前の凪の髪をくしゃりと撫でる。そのまま腕を頭の後ろに回し、ベッドへと引き込む。
「ちょっ…」
「すぅ…」
恋人の気持ちよさそうな寝顔にふっと息を吐いて、凪はその形のいい頭を抱え込んで目を瞑った。
窓から差す光で目を覚ました。のそりと上体を起こすと、頭がずきりと痛んだ。
「いさぎ…?」
抱き込んで眠っていたはずの恋人の名を呼ぶが、返事はない。ぼんやりとしていると、扉の向こうから、じゅうぅ、と何かを焼いている音がした。もそもそと布団から這い出し、ベッドから降りる。フローリングのひんやりとした感触で、少し目が覚めた。
「いさぎ、なにしてんの?」
「お、凪。おはよう」
ひとまわり小さい体を後ろから抱き込むと、朝日に負けない笑顔で潔が笑いかける。それが眩しくて、凪は目を細めた。
「火使ってるから離れてな〜」
「えぇ〜…」
凪は不満そうな声を漏らしながらも大人しく従う。潔の手元を覗き込むと、鮮やかな黄色の卵焼きが出来上がっていくところだった。
「そろそろできるから、先顔洗ってこいよ」
卵焼きに目を落としながら、潔は言った。凪ははーい、と返事をして洗面所へと向かった。
ダイニングへ戻ると、机の上には、理想的な和食が並んでいた。つやつやと輝く白い米に、出汁の香りを立てる味噌汁。主菜は焼き鮭に、ちょこんと形のいい卵焼き。凪はいそいそと席に着いた。潔も続いて目の前に座る。
いただきます、と手を合わせて、早速お椀を手に取った。
木製の器から伝わる暖かさと、立ち上る味噌の香りを堪能する。箸を入れると、固い感触がする。つまみ上げると、小さな貝が顔を出した。
「しじみ…?」
「ん。凪今日二日酔いだろ?」
「え」
凪が眠そうにしていた目を見開く。昨晩潔は寝ぼけていたから、凪が酔っていたことなんて知らないはずなのに、なぜ。
「んふ。だって、昨日お前に抱き込まれた時すごい酒臭かったし」
「え」
「あと、朝も寝ながら時々頭抑えて渋い顔してたし」
「まじか」
「まじ。凪のことはなんでもお見通しなんだからな」
潔がにひひ、と悪戯っぽく微笑む。朝の光が潔を照らし、白い肌と綺麗な蒼がきらきらと輝く。凪はその神々しさに呆けた。
ーー結婚しよ。
まずはリングを準備して。プロポーズはどういうのがいいかな。潔って結構王道なの好きそう。ちょっといいホテルのレストランとかで、指輪ぱかってするやつ。
きっと潔は喜んでくれるだろう、とお椀を傾けながら考える。
宝石箱をひっくり返したような夜景を背景に、涙をたたえた瞳で笑う潔を想像する。薬指に俺が買った指輪をはめて、幸せそうに微笑む潔。
ーーうん。いい。
凪は、うんうんとひとり頷く。目を細めてむぐむぐと米を堪能していた潔が、不思議そうにこちらを向いた。