日はとっくに越し、そろそろ終電の時間になろうとしている学生街。ギラギラ光るネオンが嫌に目に付く。酒臭い若者たちがあちらこちらで大騒ぎをしている声に潔は顔を俯けて足早に通り抜けていった。
そろそろ帰るー?などと相談する学生たちの合間を抜けて、潔は歩いていた。
潔世一。大学2年生。サッカー部。
ちょうど新歓を終え、3次会へとしけ込もうとする仲間たちを振り切って、家路を急いでいたところだった。駅前で屯する学生たちを避けながら足を速めようとしたその瞬間。
ふと、深い緑が目の端で輝いた。
ぎらついたネオンとはまた違った輝きを放つ男に、潔は目を奪われた。
思わず足を止める。行き交う人々の途切れた先で、ぼんやりと突っ立っているその男と目線が合う。
−−やば、見てたのバレた?
潔はすい、と目を逸らした。暫く視線をうろうろさせて、やはり最後に一度見てから帰ろうと、目線を戻す。
また、目が合った。
潔は惹かれるように、足をそちらに向け、歩み出す。
「−−あのっ!」
感情の読めないターコイズブルーが見下ろす。その威圧感にしどろもどろで言葉を探す。あの、その、と意味のない言葉を連発する潔を、彼は、静かに待っていた。
「おれとっ!デートしませんかっ!」
思い切り叫んで、すぐに後悔した。
−−なんだよ、デートって!下手なナンパみたいじゃん!
かっと顔に熱が集まるのをまざまざと感じた。大きく腕を振りながら、いや、ちが、と否定の言葉を並べる。と、大きな手が潔の腕を掴んだ。
「へ?」
「うるせえな。お前がデート行くって言ったんだろ」
呆気に取られた潔の腕を引いて、男が歩き出す。潔はつんのめりながら、彼の後ろを追う。
「あ、あの、おにいさ…」
「凛」
「え?」
「糸師凛だ」
真っ直ぐ前を見たまま、ぶっきらぼうに告げる。潔はそれが彼の名前だと合点が行き、凛、と口の中で転がす。凛とした姿によく合っている。
「なあ、凛。海まで歩かねえ?」
俺、海風に当たりたい気分、と付け足してみると、凛は何も言わずに海の方へと方向を変えた。潔は掴まれたままの腕を外し、手を握ってみる。凛の手が少しこわばったのを感じて、潔はふはっと笑った。