記憶喪失たいみつ 俺の一日はベッドの中で眠る獅子を起こすところから始まる。簡単なミッションのように思えて、これがなかなか難しい。というのもこんもりとした布団の下に潜んだ獅子──柴大寿は、寝起きが悪い。それもひどく。声をかけても体を揺さぶってもなかなか目を開けないし、一歩間違えたら布団の中に引きずり込まれてそのまま喰われる。大きな危険の伴う任務なのである。
「大寿くん〜朝だよ〜」
でかい塊を揺さぶる。……無言。唸り声さえ返ってこない。まだ深い眠りの底にいるらしい。眉間の皺の取れた穏やかな寝顔から察するに、随分と幸せな夢を見ているのだろう。その夢から引き離すのは気の毒だが、現実世界にいる三ツ谷隆を放っておかれても困る。この静かな家には、遊び相手は大寿くんしかいないのだから。それに今日は映画鑑賞会するって約束した。
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