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    846_MHA

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    たいみつワンドロライ

    #たいみつ

    待ち受け「大寿くん、一個お願いあんだけど。」
    「?」
    「ケータイの待ち受けの変え方教えてくんない?」
    大寿と三ツ谷は今日もひっそりこっそりと集まって、いつの間にか恒例行事となったクレープを楽しもうとしていた。出来立てを受け取り、ベンチに腰掛けてさぁ食べるぞというところで、件の三ツ谷の台詞である。三ツ谷は機械音痴なので、100歩譲って依頼は良しとする。ただ問題なのは
    「なんでこのタイミングだ。」
    「いや覚えてるうちに頼もうと思って。オレ、今までずっと初期設定画面だったんだけどさ、最近東卍の奴らと機種被ったんだけど、初期設定画面のままだといつか取り違えそうなんだよ。」
    お願い!と携帯を手渡される。
    「もう教えろじゃなくて変えろって言ってんじゃねえか!」
    短くない付き合いで、三ツ谷は一回言い出したら聞かないということを身をもって知っている大寿は、舌打ちしながらも三ツ谷から携帯を受け取って手慣れた手つきで操作していく。
    (なんだかんだ言ってやってくれるんだもんなぁ、こういうとこ好き。)
     ひっそりこっそり集まって親交を深めていくうちに、三ツ谷は大寿のことを恋愛的な意味で好きになっていくのを実感していた。そして同時に、この気持ちは墓場まで持っていこうという覚悟も持っていた。大寿の横顔を見ながらとりとめもなく考えていると、おいと大寿から声を掛けられる。
    「っ悪ぃ、なに?」
    「どの画面に設定すりゃ良いんだ。」
    「...あ。」
    「他人に頼んどいて考えてなかったのかよテメエ。」
    大寿がそれは大きなため息を吐いた。
    「...バイクの写真は。」
    「チームの奴らもほぼバイクの待受だからパッと見て見分けつかないじゃん。」
    「...妹達の写真は。」
    「ルナマナにはしたいけど、万が一相手チームにケータイ取られたらやべえから却下で。」
    「ってなんで俺がダメ出し食らってんだ!」
    大寿の額に青筋が浮かぶが、三ツ谷はどこ吹く風である。
    「あ、そうだ。」
    そういうと三ツ谷は大寿から携帯を取り上げて、大寿が手に持っていたまま、まだ一口も口にしていないクレープを携帯で撮った。そのまま大寿へ返す。
    「待ち受けこれにして。」
    「...色々ツッコミてえが、まずもってなんで自分のクレープを撮らねえ。」
    「だってオレちょっと食っちゃったもん。食いかけのクレープ待ち受けなのはちょっと。」
    「お前一回殴らせろ。」
    「大寿くんもクレープ画像お揃いにしようよ、記念てことで。」
    「絶対ェしねえ!」
     それからしばらく経ったある日。この日、三ツ谷は大寿の家に遊びに来ていた。大寿が席を外しているタイミングで、メールの受信によって大寿の携帯の画面が立ち上がった。
    その待ち受けに、三ツ谷は何故か既視感を覚える。何か英語がずらりと並ぶ画面は、元の画像の一部分を拡大しているようで恐らく自分で設定したものだろう。
    (大寿くんが待ち受け設定してるの、ちょっとウケる。)
    本人が聞いたら拳が飛んできそうなことを思いながら、三ツ谷はその待ち受けに既視感を覚えた。
    (黒龍の隊服じゃなさそうだし、大寿くんの身体の墨...は性格的に絶対ェなさそうだし...。)
    どこで見たんだっけと悩んでいると、ふと自身の携帯画面が目に入った。
    (あ...)
    三ツ谷の既視感の理由。大寿の待ち受けは、あの日三ツ谷がお揃いにしようと言ったクレープの写真の包み紙を拡大したものだった。
     「気付いた時、もうキュン死にするかと思ってさぁ。でも誰にも言えないからオレの中だけで噛み締めてたんだけど、今日やっと共有できて良かったよ。」
    「...15年越しに暴露された俺の気持ち考えてみろや。」
     そう唸った大寿は今、三ツ谷の初スマホの初期設定をしている真っ最中だ。あれから時が経って、大寿と三ツ谷は生涯を共にする誓いを立てた仲になった。
    「ごめんごめん、待ち受けどうするって聞かれたら思い出しちゃった。」
    嬉しそうな三ツ谷の顔に、まぁ良いかと思えるほどに丸くなった大寿だが、あの時を思い出して、ひとつ三ツ谷に疑問を投げた。
    「あの時、お前珍しく強引だったよな。」
    「...え。」
    「なんか理由でもあんじゃねえか。」
    今度は、15年越しの自分の秘密を暴露された大寿の方が、三ツ谷を攻める番だった。
    「俺の秘密バラしたんだから、テメエも言え。」
    あーとかうーとか唸っている三ツ谷だったが、大寿の強い視線に観念してぽそりと呟いた。
    「......手。」
    「て?」
    「...あれ、クレープ持ってる大寿くんの手を待ち受けにしたかったんだよ。オレ、大寿くんの手好きだったから...。」
     新しい三ツ谷のスマホの画面は大寿の左手になった。その薬指には、三ツ谷とお揃いの指輪がきらりと光っている。
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