よろしくね!監督生さん!皆がウィンターホリデーから帰ってきたという知らせを受け、私は同じ時間に蒼炎を待っていた。
初めて会話をした時に名前も、待ち合わせも聞き損ねていた。
「向こうが来てくれれば良いのに」
夜風が吹くも、あの砂漠の風よりは過ごしやすく。でも。
「ホットを買った方が良かったかも」
なんて駄菓子を手に、思う。
来ない可能性の方が高いし、会いたいのかと聞かれるとよく分からない。
でもほんの少しだけ、帰れると思った宴から監禁された事実に手が震えてしまう。
声をかけなくていい、ただ、見るだけ。遠くから見るだけで、この震えが止まるような、そんなきがするから。
「君……何やってるの?」
その声にガバッと頭をあげる。
「……あれ?」
目の前に心配そうな蒼炎の人がいて、冷たッ!と目を剥いている。
「あ、いたぁ」
おはようございます。と挨拶をすると
「いや。今、夜だから……えぇ……いつから居たの?てかなんで駄菓子持ってるの……」
それじゃあこんばんはって言った方が良かったのかな?
寝ぼけた頭で、こんばんは……です。と声だか息だか分からない音量で挨拶をし直すと、バサッと何かを掛けられた。
「い、嫌だと思うけど、それ着て!」
渡されたものを見るとパーカーで。彼は細い体躯を動かして購買へと駆け出していた。
「……単純だなぁ」
袖を通したパーカーは心地よい匂いで。
冷えた身体も既に温まり、パーカーの上から部屋着を掴む。
「はい。これ……温めるにはジンジャーがいいって思ったんだけど、君、飲めるのか分からないからさ、ココアにして置いた。どう……かな?」
なんか一瞬馬鹿にされた気もするけど、そんな事を気にする余裕なんて無くて。
「す、好きです」
「んえ!?……ああ。ココア、ココアね?」
ココアは熱すぎて今はパーカー越しでしか触れられないけど、早く飲みたくてコロコロと転がしている。
「なんで此処にいたの?」
貴方を待っていた。なんて言ったら逃げてしまうかもしれない。
「ちょっと、怖い夢を見て」
「フゥン……友達に連絡すれば良かったじゃん」
いじけた様な声を出されると可愛いなとか思ってしまう。
「エース達は……違うかなって」
「せ……ぼ、僕なら良いって?」
そうゆう訳ではないんだけど、でもこの人に聞いて欲しかったのも事実だし……
「ほ、ほら。異質同盟じゃないですか」
「同盟だったんだ。コレ」
引き笑いの様な声を出し笑う彼に口をもにゅもに 動かす。
「ま、まぁ?僕だけしか聞けない君の弱った声とかレアシチュだし……付き合ってやれなくもない……」
「ありがとうございます!」
「でも今日はお開き。君身体冷えちゃったでしょ。暖かくして寝な?そのパーカーも貸すから」
ほら、立って。と帰宅を促す手。帰りたくないのだけれど、その手を取らないという選択肢はなかった。
土日を挟み3日後。
放課後にパーカーを入れた袋を持って放浪していた。
「どこの誰だか分からない……誰かに聞いても良いけど、多分イデア先輩と同じ気弱な人だと思う……もう二度と同じ過ちはしないんだ!」
挨拶をしながら周りを見回しても特徴的な炎を見つける事が出来ない。という事はとてもしゃいな人。
だからひとりで探しているのだが全く見つからない……
「青い炎、あおい炎……あれ?」
明らかに身長が違うけれど同じ頭を見つけた。
「あの……」
「どうかした?監督生さん」
「えっあ、知られている……こんにちは……えっと……」
同じ黄色だけど何やら機械を思わせる目をした彼はにこやかに告げる
「僕?僕はオルト・シュラウド!ヒューマノイドさ」
「ヒュー……マ?……よろしくお願いします!オルトさん!」
また新しい種族かな〜そんな感じで流そうとしたら。
「あ!よく分からないまま流そうとしたな〜!もぉーヒューマノイドは兄さんが作った最高傑作で。唯一無二の存在なんだ。兄さんってすごいでしょ!」
まさかの機械だった。魔法だけで無くドラえもんまで作っちゃう世界だなんて……
「私の世界、全然先を越されちゃってるね……」
少し、魔法が突出し過ぎて科学とか遅れてるだろうとタカをくくっていたんだけど……ほんの少し悲しかった。
「うーん……監督生さんの世界がどんな状況かは分からないから検証も出来ないけど、この技術は兄さんが凄いから出来たことで、まだ世界規模だと魔工学は進んでないんだ……」
「だとするとお兄さんは天才なんだね」
「!そうだよ!兄さんは天才でかっこいいんだ!」
そこから始まる彼の兄列伝を聞いていると鐘の音が聞こえた。
「あ!監督生さん、付き合わせちゃってごめんね?」
「大丈夫。これの持ち主を探してただけだし……」
最悪明日もある。と彼に中身を見せたら。
「これ!兄さんのだ!どうして?」
「あの……夜に寝てしまっていて。寒くなったからって貸してくれたんだ。ち、ちゃんと洗ったから心配しないで!」
「返しに来てくれるなんて……ありがとう!監督生さん」
「私も持ち主が分かって良かった」
……ここまで来て、ハッと一人称が戻っていた事に気がついた
「あっ……とその僕!僕も、ほっとしたよ」
慌てて言い直すとクスクスと笑い声。
「大丈夫だよ監督生さん!僕には身体検査が出来る機能が付いているんだ。だから監督生さんが風邪をひかなくて良かったよ。」
「?」
「分からないかぁ〜じゃあ、カラダの不調が来たら教えて?欲しいものとか買ってあげるから」
何となく言いたいことが分かり顔が真っ赤になる。
「お、お、男の子に頼めないよ!」
「?僕はヒューマノイドだから大丈夫だよ?」
「でもオルト君は男の子でしょ!……でも、知ってくれてありがとう。それは、嬉しい」
笑うと、オルトも花が綻ぶような笑顔をした。
「……じゃあ、兄さんをよろしくね!監督生さん!」
言うだけ言って浮遊しながら去っていった。
「……ん?」
何だか最後に聞きづてならない言葉が聞こえた気がしたけど……
「ま、いいか」
オルトが帰宅と共に袋を渡された。そこには拙者のパーカーと、知らない洗剤の匂い。
「せ、拙者の服から監督生氏の匂いが!」
1週間は中から出せなかった。