【夏五】哀夢 目を覚ます。夢を見たわけではないし、外部からのなにかしらで妨害されたわけではない。ただ、急に意識が醒めた。
部屋の中はまだ暗い。カーテンの隙間からも、まだ明るい光は漏れていない。今は何時なのか。もうひと眠りできるだろうか。ベッド横のナイトテーブルに置いた目覚まし時計を確認しようと頭を起こして、息を呑む。
そうは見えないと友人や後輩たちからはよく言われるのだが、幽霊だとかお化けだとか、そういう類が昔から苦手だった。ただ、人前で悲鳴をあげたり泣いたりするなんてみっともないという意地で、必死に我慢していただけだ。
昔ほどではないが、今だって得意なほうではない。だから、すぐ横にぼんやりと佇む姿に、心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
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