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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    転生夏五。
    どっちも記憶なしだけどときどき過去が滲んでくる話。

    #夏五
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    【夏五】哀夢 目を覚ます。夢を見たわけではないし、外部からのなにかしらで妨害されたわけではない。ただ、急に意識が醒めた。

     部屋の中はまだ暗い。カーテンの隙間からも、まだ明るい光は漏れていない。今は何時なのか。もうひと眠りできるだろうか。ベッド横のナイトテーブルに置いた目覚まし時計を確認しようと頭を起こして、息を呑む。
     そうは見えないと友人や後輩たちからはよく言われるのだが、幽霊だとかお化けだとか、そういう類が昔から苦手だった。ただ、人前で悲鳴をあげたり泣いたりするなんてみっともないという意地で、必死に我慢していただけだ。
     昔ほどではないが、今だって得意なほうではない。だから、すぐ横にぼんやりと佇む姿に、心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
     が、闇に慣れた目がすぐにパジャマの柄を捉えた。ふざけ半分で買ってきた、愛らしくデフォルメされたキツネの柄。
    「さとる…?なにしてんの」

     そこにいたのは、隣の部屋で寝ているはずの親友だ。闇に溶け込む私とは正反対の、自ら発光しているかのような白い髪が、昼以上にあちこち好きな方向にうねっている。驚かせるつもりだったのかと考えたが、それにしては様子がおかしい。
    「悟?」
     声に促されて顔をあげる。私は別の意味で驚いた。
    「君、泣いてる?」

     悟は一度大きく目を見開いて、すぐに顔をくしゃりと歪めた。こんな時間に部屋に入ってきて、人の顔を見るなり泣きだすとは何事か。説教してやろうと口を開く前に、気づけばキツネ柄に顔を埋めていた。

     この男が涙を流すことは滅多にない。それなのに今、私の頭に顔を埋めてすべての音を飲み込んでただ涙を流している。
     私は戸惑った。なにがあったのかと尋ねても、答えはない。ただ首を緩く振る。そうして私を囲う力が強くなる。抱きしめるというよりもしがみついていると言ったほうが正しい。
     少し迷って、背中に手を回し、撫でてやる。二、三度繰り返すうちに、強張りがとけていくのがわかる。

    「――ここで寝ていい?」
     長い髪に顔を埋めたまま、掠れた声が言った。
    「おやおや、添い寝が必要な子供かな」

    「…今日だけ」

     また力が強くなる。なにをそんなに、怖がっているのだろう。
     仕方ないなとため息をついた。私も大概、彼には甘い。

    「わかった、今日だけだよ」









     叩かれた手が、じんじん痛む。
     邪険にされることは慣れていた。こちらの言うことにYesと返ってきたことはほとんどない。けれどなぜか今回は必死だった。
     焦っていた。今失えばもう二度と戻らない。そんな予感がしたのだ。だから、振り払われてもしがみついた。

     なのに男は全身で拒絶し、手を振り払った。そうしてふり返ることなく行ってしまう。どんなに名前を叫んでも、無駄だった。
     つま先から、亀裂が走る。米粒ほどだった割れ目が一気に大きくなり、ぱっくりと口をあける。
     これでは向こう側へ渡れない。


    「---!」



     もう一度叫ぶ。しかし亀裂の向こう側には届かない。
     どんどん離れていく。振り向かない。
     そっちに行くな。頼むから、こっちを見ろ!
     願いは届かない。
     背中は遠ざかり、小さくなる。飛び越えようか。今ならまだ、もしかすれば。けれど体が動かない。まるで両足がなにかに絡め取られているかのように重い。
     手を伸ばす先、姿が、消える。



    「行くな!―――――!」



     そこで、目が覚めた。

     あれが誰だったのかはわからない。わかっているのは、亀裂の向こう側へ消えた男が、親友と同じ顔をしていたこと。
     どんなに叫んでも振り返らなかった姿に、深い哀しみと怒りを抱いていたこと。もう二度と会えないのだと、絶望したこと。
     毛布を蹴飛ばして飛び起きて、いてもたってもいられずに隣の部屋に忍び込んだ。ドアを開けるまで、心臓がばくばくなっていた。ドアを開けて、それでもしアイツがいなかったら?そんなはずはないと思いながらも、怖かった。
     アイツは――傑は、ちゃんとベッドに寝ていた。仰向けで、きちんと毛布を掛けて。寝相の悪い男には珍しいことに。
     ほっと息をついて、そこまで思いつめていた自分に苦笑する。これじゃあ呆れられても仕方がない。ちゃんとおやすみの挨拶をして、それぞれの部屋に入ったじゃないか。いなくなるはずがない。
     姿を確認して安心したのに、動けなかった。暗闇でもわかる白い顔から、視線を外せない。以前よりも痩せていないか。唐突にそんなことが気になった。
     大丈夫、大丈夫だ。自らに言い聞かせる。
     どのくらいそうしていたのか、気づけば傑が目を開けていたのだ。指摘されるまで、泣いていることにも気付かなかった。

    「私は、ここにいるだろう?」

     頭上で、ぶっきらぼうでいて、柔らかさを含んだ声がする。
     ああ、そうだ、ここにいる。
     お前はここにいる。
     全身で感じる。口では文句は言っても、抱き返してくれる腕は拒絶しない。

     安心してようやく、意識は落ちた。
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