雪降る帰り道で「遅くなっちゃたわね」
いつもより仕事が長引いてしまい、壁にかけられた時計を見上げて一人呟く。
制服から私服に着替え、コートを羽織って首にマフラーを巻いて更衣室を後にする。
通用口の扉を開けて外に出ると、冷たい冬の空気が顔に当たって思わず肩をすくめた。辺りを見れば薄っすらと白くなっている。
「雪……どうりで寒いわけね」
納得してそう吐いた息が白くなる。
早く家に帰りましょ、と歩き始めたところで街灯の下に佇む赤い番傘と見慣れた露草色の羽織を纏った人物を見つけて駆け寄った。
「あなた……!」
「ん、おお、お仕事お疲れさまじゃ」
こちらに気づくとそう労いの言葉をかけながら雪に当たらないようにこちらに番傘を傾けてくれる。
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