雪降る帰り道で「遅くなっちゃたわね」
いつもより仕事が長引いてしまい、壁にかけられた時計を見上げて一人呟く。
制服から私服に着替え、コートを羽織って首にマフラーを巻いて更衣室を後にする。
通用口の扉を開けて外に出ると、冷たい冬の空気が顔に当たって思わず肩をすくめた。辺りを見れば薄っすらと白くなっている。
「雪……どうりで寒いわけね」
納得してそう吐いた息が白くなる。
早く家に帰りましょ、と歩き始めたところで街灯の下に佇む赤い番傘と見慣れた露草色の羽織を纏った人物を見つけて駆け寄った。
「あなた……!」
「ん、おお、お仕事お疲れさまじゃ」
こちらに気づくとそう労いの言葉をかけながら雪に当たらないようにこちらに番傘を傾けてくれる。
「迎えに来てくれたのね。ごめんなさい、待たせてしまって……」
「いや、大丈夫じゃよ。今来たところじゃから」
嘘、そんなに鼻を赤くして……。それを指摘すれば「こ、これは違うんじゃ」と咄嗟に手で隠そうとする、相変わらず隠し事ができない彼に愛おしい気持ちになる。
「ほら、これを巻いてくださいな」
「いかん、お前が冷えてしまう」
自分の首に巻いてあった黄色いマフラーを解いて彼に巻こうとすればそう制されてしまう。少し考えて、「じゃあこうしましょ」と半分を自分の首に巻いて、もう半分を彼の首に巻きつけた。
「こうすれば二人ともあったかいでしょ」
ね? と番傘を持つ彼の手に腕を回して肩を寄せれば、「そうじゃの」と彼もまたこちらを見て微笑んでくれた。
「今日の夕飯はの、鍋にしたんじゃよ」
「まぁ、それは素敵」
そんな会話をしながら静かな夜の道を歩く。お互い吐く息を白いけれど、隣から伝わってくる温かさのおかげで寒くはなかった。