分け合う一口(たい焼き)夕飯の買い出しを終えた帰り道、どこかから漂ってきた香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「いい匂いがするのう」
「あ、あれじゃないか、たい焼き屋」
「ほんとじゃ!」
指さした方に赤い暖簾を見つけると嬉しそうな声をあげるゲゲ郎。買って帰るか、と屋台の方に足を向けた。
店頭に示されている味は2つ。
「どっちにする?」
「今日はかすたぁどの気分じゃ」
「ん、じゃあ俺はつぶにするか」
店主に注文を伝えると、気のいい返事とともに型に生地が流し込まれていく。火が通るとふんわりと膨らんできて、それぞれの具が乗せられていく様を興味深そうにゲゲ郎が見ていた。たしかに、こうやって目の前で作られていく工程を見るのは面白い。
お待ちどお! とまた気のいい声とともたい焼きが紙に包まれて渡された。二人でお礼を言って、味が分かるようにと白いシールが貼らている方をゲゲ郎に渡す。
熱々のそれを臆することなく口に入れて「うまい!」 と声を上げるゲゲ郎。それに倣って俺もかぶりついた。お、端まであんこぎっしり詰まってる。うまいな、と少し味わったところでゲゲ郎の顔の前に差し出す。
「ほら、一口やるよ」
「ん! ありがとうなのじゃ!」
嬉しそうにそう言ってはぐっとかぶりつく。少し咀嚼してまた「うまい!」と声を上げた。
「わしも! わしのも一口やる!」
俺の口に届くように腕をぐっと伸ばして自分のを差し出してくれる姿がなんだか健気で、ありがとな、と言ってちょっとだけ高さの足りないそれに首曲げてあぐっとかぶりついた。口の中にクリームの甘さが広がる。うまいな、と言えばまるで自分が褒められたかの様に嬉しそうな顔をした。
こうやって味を分け合えるのも二人でいるからこそで、良いもんだよな。そう思いながら夕暮れの帰り道を歩いた。