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    ige543kan

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    1/26 2冊目進捗
    仔ゲゲに美味しいもの食べさせたいシリーズ①

    ※細かいこと気にせずにお楽しみください

    #水父
    #仔ゲゲ

    深夜の罪 なんとなく、そう、なんとなく眠れない日じゃった。
     昼寝をしすぎたせいじゃろうか。夜も深まってきたというのに目が冴えてしまって全然眠れる気配がしない。
     そうしていると今度は腹が空いてくるもので、この空腹を満たさなければ眠れないような、そんな落ち着かない気持ちになる。もぞもぞとしていると隣で眠る水木から声をかけられた。
    「眠れないのか?」
    「ん……すまぬ、起こしてしまったな」
    「別に構わねぇよ。……怖い夢でも見たのか?」
     頬を撫でられながらそう心配そうな顔で見られ、本当にやさしい男じゃな、と胸の奥があたたかくなる。
     いや、そういうわけではな無いんじゃが……と言えば安心したように肩を落とした。
    「その、なんとなく腹が空いてしまって……」
     腹に手を当てながらそう言うと、なるほど、そういう日ってあるよなと水木が笑った。
     よし分かった!と上半身を起こした水木はいたずらっ子のような表情をこちらへと向ける。
    「お前に罪の味を教えてやるよ」

     台所へ行き、水を入れたヤカンを火にかける。沸くのを持ちながら、水木が戸棚をがさごそと漁りコップのような形をしたものを2つ取り出した。
    「なんじゃそれ?」
    「カップ麺。この前ラーメンってのを食べ行ったろ?それが簡単に作れるんだ。」
    「ほう?」
     醤油と塩どっちがいい?と聞かれたがよく分からないのでどちらでも、と返せばじゃあ初めてなら醤油だなとわしの前に赤い容器が置かれ、水木の前には青い容器が置かれた。
     少しするとヤカンがピーーと鳴りお湯が沸いたことを告げる。火を消し、水木に言われるがまま蓋を半分ほど剥がすと、そこには黄色や茶色の四角い物体が並んでいた。その下にはもじゃもじゃとした薄黄色の塊も見える。
    「んん? これがラーメンになるのか?」
    「そうだ。お湯入れるから手ぇどけてろよ」
     完成形が想像できず疑問を投げれば肯定されたので、大人しく手を下げて湯気を立てながら流し込まていくお湯を見ていた。注ぎ終わると、蓋が閉められ箸で抑えられる。
    「これで3分待つ。」
    「なるほど……えっ! 待つんか これで食べられるんじゃないのか!」
    「そうだ」
    「そ、そんな……わしの腹はこんなにペコペコじゃと言うのにぃ……」
     ショックで戸棚伝いにずるずるとしゃがみこむと「この待つ時間でより美味しくなるんだよ」と笑いながら頭を撫でられた。


     よし、3分経ったぞ。という水木の声でバッと立ち上がり、いただきます、と2人で手を合わせて箸を取り蓋を開ける。
     するとふわっとした湯気とともに香ばしさが広がり、先ほど見た時はコロコロと固そうだった物体が今はふかふかになっていた。
     嗅覚と視覚、両方を刺激され思わず「おぉ…」と感嘆のため息が出る。
    「少し上の具を混ぜてから食べろよ」
    「分かった」
     言われた通りに箸で上から下へ、下から上へと混ぜると店で食べたものよりも細いが麺が出てきた。それを箸で掴んで少しふーふーしてから口へと運ぶ。
    「ん~~!」
     空腹を満たす濃い味とやわらかな麺が口の中に広がる。
    「なんじゃこれは! 店のよりもシンプルなのにたまらなくうまいぞ‼」
     箸が止まらず次々と口に運べば、水木がまたいたずらっ子のような表情をこちらに向けた。
    「これが罪の味だぞ」
    「なるほど、これが罪の味……!」
     まるで合言葉のように言い合うと2人しておかしくなり笑い合った。
     深夜に台所で2人、調理台に置いて立ったまま食べているお行儀の悪さもより罪を重ねているようで、特別な感じがした。

    「そうだ、せっかくなら汁はあまり飲まず取っとけよ」
    「ん? 分かった」
     ほんとは具も残してるといいんだが……初めてでそれは酷だろうとぼやく水木。
     言われた通り汁は飲み切らずに残した。味見で一口だけ……と思ったがあまりのうまさにもう二、三口いってしまったが。
    「麺は食べ終わったぞ」
    「ん、そしたら汁をこのマグカップに入れる」
    「ほう」
    「んで、卵を入れて、よく混ぜる」
    「卵? どうしたんじゃ、卵かけご飯でも作るんか?」
    「違ぇよ、まあ見てろって」
     そうして混ぜ終わるとマグカップを2つとも電子レンジへと入れ、くるりとダイヤルを回す。ボーと鈍い音が台所に響き、ダイヤルが上まで戻るとチンと子気味のいい音が響いた。
     レンジの扉を開け、アチッと言いながら水木がコップを取り出す。覗きこむと、それはふかふかした黄色の塊になっていた。
    「なんじゃこれは!」
    「カップ麺茶碗蒸し」
    「カップ麺茶碗蒸し」
    「そう、熱いからよく冷まして食べろよ」
     匙ですくと黄色の卵がふるりと揺れる。言われた通りふーふーしてから口に運ぶと、まだ冷まし足りなかったようで「アチッ」っと舌を火傷してしまった。
     だから言ったろ? と笑った水木だったがその後自分も「アチッ」っとなり、思ったよりも熱いんだなこれ、などと呟いておったのでそうじゃろうそうじゃろう、と笑い返してやった。
     辺りはしんと静まり返っている真夜中、この家の台所からだけ楽しそうな声が響いていた。

     軽く片付けをして、布団へと戻る。
    「腹はふくれたか?」
    「ああ、お腹いっぱいじゃ!」
    「そりゃよかった」
    「のう水木や、またわしに罪の味を教えてくれ」
    「いいぜ、今度は味噌マヨおにぎりを教えてやるよ」
    「味噌マヨおにぎり! おいしそうな響きじゃの!」
     まるで内緒話をするように布団の中でささやき合い、くすくすと笑う。
    『水木と一緒になら罪を重ねるのも悪くないのう』
     なんて思いながら、満たされた気持ちで眠りについた。
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